134話 窮余の一策
──見通しが甘かった。
確かにボクを狙ったカルネージスの攻撃は、前に出ているアーサーさん達やレトさんの手によって、ボクに届くことなく全て防いでくれていた。
それとは別に、実体化する前の邪気そのものをボクにぶつけてくる可能性もあったし、その攻撃をされた場合、視認出来るのはボクしかいないこともあって、周囲の邪気の動きもきっちりと気にかけていた。
邪気の攻撃の場合、視て躱す以外に対処方法がなかった。
だからアルメリアさん達から離れたんだ。巻き添えを避けるために。
だけど予想に反して、当初カルネージスは一切邪気そのものを操って攻撃して来なかった。
ボクへと向けたカルネージスの魔法攻撃が次第に散発的になり、こちらに構っていることが出来なくなったのかなと思ったちょうどその時、こちらの油断を見透かしたように、急に背後の足元から鋭い槍状の邪気を飛ばしてきた。
気付いたときには既に遅く、それを躱し切れずに右足を貫かれてしまう。
実体化も物質化もしていない邪気だったから、物理的な衝撃も怪我も全くない。
何かが足を貫いたという不快感だけだった。
坑道での経験から、追加の攻撃を食らわなければいいだけだと無視したのだけど、結果はご覧の通り。
その後全く攻撃を食らっていないのにも関わらず、呪いの侵食が進んでいく。
その原因は恐らく、この濃密な邪気の一部が足に食い込んだままになっていること。これだろう。
でもそれを自分で取り除くことも出来ず、侵食された状態では元の〔雷精の侍獣巫女〕に切り替えることも出来ないため、自力での浄化も出来なくなっていた。
もし切り替えられたとしても、この場には光の精霊が不足しているし、祭壇を起動出来ればと考えたけど、カルネージスがそんなのを易々と見逃し許すはずがない。
どっちにせよ治療は不可能であり、既に詰んでしまっていた。
それでも動けるまではと続行したボクは、やはり侵食率の急激な上昇に伴う倦怠感と力が抜けていく感覚に堪えきれず倒れかけたところを、レトさんに抱きとめられた。
それがついさっきのこと。
今もティリルが必死に浄化魔法で治療をしているけど、現状維持が精一杯のようだ。根本的に邪気を取り除けない以上、ボクに戦う術は残されていなかった。
──けど、ここで諦めてしまえば……。
このエルフの里は恐らく崩壊してしまうだろう。
それだけじゃない。
今もあの水晶体の中で苦しんでいるドリアドさんも助けられなくなる。
絶対に悔やんでも悔やみきれない。
一体どうすればいいのだろう?
他に出来ることは……本当に何もないのか?
唇を噛みつつ精一杯奴を睨み付けていると、浄化されているエリア、その境界線でカルネージスは足を止めた。
しかも何やら思案顔で物思いに耽り出したようだ。
不思議に思って耳を澄ませば、カルネージスがまたよく分からないことをブツブツと呟いているのが聞こえてきた。
「──しかし星の巫女が元素の使徒と成り得て、御子として精霊を率いれば、厄介な相手となる事は初代スティルオム星神御子の件で分かっておったが、まさかここまでとは……」
また星の巫女と言っている。
一体なんのことだろう?
いやそれよりも、もう勝ったも同然と油断しまくっているコイツを出し抜く方法は……この状態を打開出来る道はないか?
『──様、ミコ様、ミコ様。ココ、ココ』
下から聞こえたその思念に視線を向けると、アルメリアさんの元にいた樹精がぱたぱたと右手を振りながら、頻りに床の膨らみを左手でポンポンと叩いていた。
『……? どうしたの?』
『樹精樹様。お話あるそう』
え? お話?
ファルナダルム様ってなに?
『触って触って。呼び掛けて、念じる。今のミコ様なら可能』
いまいちよく分からないまま、樹精の子が言うように床の膨らみに右手を置くと、樹精の子もボクの手にちっちゃな手を重ねてくる。
『覚醒。樹精樹様と接続』
アルメリアさんがやったみたいにすればいいのかなと思い、世界樹に呼び掛けるように意識を集中してみた。
──!?
信号がボクに伝わる。
星と生命の記憶。
その膨大な情報が噴流となって押し寄せ、ボクの中を駆け巡る。
時間にして、ごく僅か。
それらは怒涛の如く、一瞬でボクの意識を飲み込んでいった。
しかし、突然の出来事だったから翻弄されはしたものの、情報の海に溺れることなく次第に慣れてくる。
いったん慣れてしまえば、これはどうってことない作業だった。
膨大な情報の中から必要なモノを思考検索して拾うだけだ。気負いも何にもなかった。
言うならば、それは現在社会におけるインターネットと同様の、特に意識することなく日常的に行っていた作業。
ただ、樹精樹からの閲覧権限がなかったり、ボク自身の資格が足りないのか弾かれたりと、見ることが出来ない情報も多数あったけど。
ひとまず今すぐ必要なことのみを取捨選択して、この地で置かれている状況を知ったボクは、急いで情報の海から帰還した。
──あぁ、そうか。
この地で起こっている現状を把握する。
そして今。
多くの人が。精霊が。
世界樹が。大地が。星が。
必死に自分の出来ることを。
脅威に抗おうと戦っている。
──打開方法が見えた。
あと少し。もう少しで……。
「──いや、いくら精霊体とはいえ、エルフの素体から獣人の素体へと種族ベースそのものまで肉体を変化させるなんぞ、初代にも出来ぬ事をしておる時点で、今代は何かが違うのぅ。
もしや、疑似精霊ではなく、完全な精霊へと変化しているのか? その力の源と方法が何なのか調べる為にも、もう少し遊んで泳がして見てみるかの……?」
なにやらブツブツと呟き続けているカルネージスを見て、この場を切り抜けられるかもしれない方策が組み立てる。
上手くいくかどうか分からない一か八かの、破れかぶれな策だ。
本来ならせめて仲間と口裏合わせてやりたいところだけど、そんな時間もないし、何より企みを勘付かれてしまってはなんの意味もない。
また無茶をしてと、みんなに怒られたり、泣かれるんだろうなと思いながらも。
『ティア、カグヤ』
ただ二柱にだけは、先に言っておこうと呼び掛ける。
『これから言うことは黙って聞いていて。単なる時間稼ぎだから』
『はい。けど、先程の信号は一体……』
『うん、なんか変な雑音が通り過ぎたよ』
え、聞き取れなかったの?
ボクだけが聞こえた?
しかも上級精霊である二柱がこの事を知らないの?
ボクの右手の甲に座ってこちらを見上げている樹精を思わず見つめる。
いや、さっきのが世界樹の思念なら、樹木の精霊の領分か。
じゃあ、この子も聞こえてるはずだよね?
そんなボクの物言い気な視線に気付いた彼女は、恥ずかしそうに頬に手を当てて顔を赤らめて、いやんいやんとばかりに首を振る。
そんな彼女の動作に苦笑しつつ、とりあえず今はいいかと前を向いた。
さあ、やってやる。
そしてコイツに勝って、ドリアドちゃんを助けて。
みんなで笑って帰ろう。
「──いや、他の八鬼衆の余計な邪魔が入ったり、奪われるのはマズいの。これだけの逸材、精霊島の連中も監視の目をつけているはず。とっとと拘束して、持ち帰って調べてみれば解る事な……」
「──提案があります」
全員が打開方法を模索しながらも下手に手出しせず、静かにその動向を注視している中、相変わらずブツブツ言っているカルネージスにボクはそう切り出した。
「セイちゃん?」
「──ん、なんじゃいきなり?
……まあいい、言うてみよ」
怪訝そうな表情を見せる奴に、ボクは。
「ボクを連れていくなら、連れていけばいい。その代わり、みんなを逃がさせて欲しいと思う。駄目ですか?」
「「「なっ!?」」」
自分の身の安全を無視したばかりか、ボクの身を守ろうと戦ってくれていた仲間を無視した放言に、全員が色めき立った。
「いきなり何言うのよ!」
「駄目だ!」
「セイ様!? それはっ!」
「そんなのは認められない!」
「ちょっと! ちょっと話をさせて!」
これ以上待てないと向かってこようとするアーサーさんを押し留め、ティリルやフェーヤに目配せして、背後のレトさんの足を軽く叩いて合図とする。
ボクの意を酌んでくれたのか、アーサーさん達は怪訝な顔をしながらも動きを止め、レトさんも膝を崩して座っていた状態からいつでも動けるよう立ち上がって離れていき、ボクもティリルとフェーヤの手を借りて支えてもらいながら、きちんとその場に座り直す。
「ほう? 何を言い出すのかと思えば、面白い事を言うの」
ボクの言葉に周りの皆の行動を見渡しながら、興味深そうに、ただ見下し嗤う。
「面白い、ですか?」
フェーヤの左手を右手で握り、そして床の端末瘤へと触れさせながら、カルネージスに返事を返す。
「ボク一人が消えることでこの場所から邪気も消え、みんなの命が助かるなら安いものですが?」
「お主に力を貸している精霊が今の台詞を聞いたら何と言うか、分からぬお主でもあるまい。その精霊の想いを無視していいのかの?」
フェーヤと重ねたその手の間にマナを通し、そのマナに思念を乗せた。
──フェーヤ。ボクの思念が聞こえる? 返事は口を使わずに、頭の中で伝えようと考えてくれるだけでいいよ。
世界樹の分体である樹精樹の力を借りることで、同系列の巫女であるフェーヤへと回線を繋げることが出来た。
──え? ええ? な、なんで!? どうしてセイ様のお声が頭の中に?
──樹木の精霊の巫女であるフェーヤなら、ファルナダルムとも繋がることが可能だしね。だからフェーヤに頼みたいことがあるの。アイツにバレたくないし。
『お姉様? まさかこのような方法で?』
『わっ、わわ。フェーヤの思念も直接聞こえてくるよ? なにこれ? どうなっちゃってるの?』
──こ、こちらのお声は、もしや……あのお二柱方ですかっ!? ほ、本日もお日柄もよく!
──こらこら……。違うでしょ。まあ、念話だと要のフェーヤが聞こえないから、こっちを使おうと思ってね。
フェーヤに彼の願いを聞いて思い付いた作戦の概要を伝える。
ファルナダルムを介すると、伝えたいことを頭の中で考えただけで伝わるから話が早い。
「……あなたに心配されることじゃないですよ」
平行してカルネージスと会話もしているため忙しいんだけど、勘付かれないようきちんと受け答えしていく。
「で、どうなんですか?」
「儂が既に勝ったも同然のこの状態、お主にも分かっておるのだろ? このまま皆殺しにして、お主を連れ去ることも可能ぞ。じゃから悪足掻きしておるのだろうし。ただ、その身の内にいる精霊は上手くやれば、儂から逃げられるかもしれぬがの」
嬉々として饒舌に語るカルネージス。
この手の輩は煽てられたり自分が有利な立場になると、すぐ調子に乗るな。
本当にコントロールしやすい。
「……つまりあくまでも、白黒つけるまでボク達との戦いを望む、と? 窮鼠猫を噛む展開がお望みなんだね」
むしろ提案に飛びつかれて、同意されても困るところだったからね。
パーティーを組んでいたアーサーさんもボクが何かを始めたことに、さすがに気付いたようだ。
そりゃそうか。
このタイミングで、彼のパーティーからボクが勝手に脱退したんだし。
今のところ、教わった手順通りに。
進捗は思い通りに進んでいる。
あとは……準備が完了し、少しでも時間稼ぎをするために、出来るだけ会話を引き延ばすのみ。
「きゅうそ? なんじゃ、それは?」
分からないか。
こんな言葉聞いたことが無いんだろうなぁ。
「逃げ場を失い追い詰められた者は、たとえそれが自分より格上相手であったとしても、身命を賭して食い破るという意味ですよ。この状況そっくりでしょう?」
──もう少し。あと少しで完全に私と繋がります。このまま降ろせばいいのですか……?
──そう。こっちももうちょっとだよ。うまく誘導してあげて。ボクもサポートするから。
念話とも違う。ココロのやり取り。
世界樹やフェーヤの心とココロが繋がった感覚。
フェーヤとボクが完全に開いた回線を通じて、周囲の状況を全て把握し、世界を支えている彼らに呼び掛けている。
更にはこの世界樹に暮らす全ての精霊達が、世界樹を通じてボクからのお願いを聴いて、今この部屋の外に全員集合を始めていた。
あとはタイミングを図るだけ。
これで上手くいくかどうかは賭けだ。
それに、教えてくれた。
──そう。こちらに誘導してあげて。
心強い援軍が。
見知らぬ二人の戦士と、ボクの大切な女の子が。
──みんなを、ドリアドを救うために。
この広間にあと少しで……着く。
話にもならないとばかりに、大袈裟に溜息するカルネージス。
「馬鹿馬鹿しいの。あり得んわい。何処の国の戯言じゃ?」
「あなたが先程馬鹿にした異人の諺ですよ。いい言葉でしょう?」
「異人の? そんなしょうもない言葉、お主が覚える必要がなかろうに」
「何か勘違いしてません? ボクもあなたが嫌いと言った異人ですよ」
「……なんじゃと?」
ボクのその言葉が意外だったのか、目を見開いてボクを睨み付けるように見る。
「そんなはずはなかろう! お主は星の巫女じゃぞ!? 異界の民がこの星の巫女に成れる筈が! そんな事ある筈が……!?」
「だから勘違いしてるんじゃない? 人を勝手に変な称号で呼んで、訳の分からないことを言わないで欲しいな。それにちゃんと確かめたの?
ボクはボク。元素の名を冠するエレメンティアに選ばれたセイ。ただそれだけだよ」
コイツ、また星の巫女と言った。
一体それが何だと言うの?
それが何を意味するのか、気になって来たな。後でちょっと調べた方がいいのかな?
でもさっきの検索では、その情報にアクセス出来なかったんだよなぁ。
機会があったら、エターニア様に聞いてみようかな?
「……ねぇ、お爺ちゃん。ちょっと耄碌し始めてるみたいだから、そろそろ誰かに『坎』とやらを譲って隠居してみてはどうかな?」
挑発とはいえ、こいつにお爺ちゃん呼びはキツいな。
──セイ様、準備出来ました!
「き、きき、貴様ぁっ! 儂を愚弄するか!?」
──じゃ、始めようか。
──はいっ!
「愚弄? 愚弄……ね」
激昂するカルネージスを鼻で笑うと、大きく息を吸い。
「お前こそボク達を……人と精霊の絆を! 世界を! 生命を無礼るな!!」
吼える!
床に置いた掌。
ボクを介して繋がる世界樹とフェーヤ双方へと、繋いでおいた回線を通じて自身の魔力を注ぎ、全力で樹精樹を支援、活性化させる。
事前準備として、メニューの思考操作を利用してアーサーさんのパーティーメンバーから離脱していたボクは、新たにレトさんとティリルとフェーヤ、そしてすぐ近くまで来ているユイカを遠隔操作でパーティーメンバーとして組み込んだ。
そしてとどめとばかりに、一気に能力強化付与を行う。
「さあやっちゃって! ファルナダルムさん!」
「──すまない、当代の巫女姫よ! 恩に着るぞッ!」
「なんっ!? ぎぃっ!!」
突然フェーヤの口から飛び出た男口調な言葉と、同時に突き出される右手。
その彼の声を合図にして、床から急成長して突き出した無数の尖った枝を、カルネージスは間一髪で周囲に障壁を展開して防ぐ。
だけど、あちらこちらから殺到してくる枝にその防御ごと跳ね上げられ、宙へと浮かされてしまう。
「馬鹿な! 今の世界樹にこんな余力があるわけぇええっ!?」
更に伸びてきた蔓に巻き付かれ、障壁の上から縛り上げられていく。
「ボクは無礼るなと言ったよ!」
「よくもてめぇ、今まで好き放題やってくれたな! 今すぐぶっ殺してやる!」
──あわわわわっ!? ファルナダルム様ぁ!
お怒りは分かりますから、こ、言葉遣い……言葉遣いや態度を何とかして下さいぃっ!
こ、このままじゃアーサー様に引かれて嫌われたり、アルメリア大叔母様に折檻されちゃいますぅ!!
カルネージスに向かって親指で首を掻き切る動作をした後、舌を出して中指をおっ立てたフェーヤに、フェーヤの思念が半ばパニックを起こしながら叫ぶ。
「大丈夫だ。アルメリアは俺の存在を知ってる……筈だ。後で当代の勇者にも説明してやるから、今は俺に黙って同調しろ」
──ホントですね!? 本当にお願いしますよ!?
「……覚えてたらな」
──ええぇっ!? ファルナダルムさまぁ! 後生です!! 約束ですからね! 守って下さいよ!?
この状況の裏では、フェーヤの思念が半べそをかきながらも必死にお願いしていた。
……。
ま、まあ、ボクだからこのやり取りが聞こえるわけで、普通に見ればいきなりフェーヤが豹変したみたいに見えるよね。
しかも、ぶつくさと独り言言っている危ない人だ。これ。実際みんな、急に変わった彼女の方を見てポカンとしているし。
これらの攻撃はボクやフェーヤが何かしているわけじゃない。
世界樹の分体、すなわちこの地に根付く樹精樹の意識体がフェーヤの身に宿り、その彼が行っている攻撃行動なんだ。
ボクはただ、必死にドリアドを守り、そして邪気に負けまいと戦っていた樹精樹の力を増幅することで、その願いを叶えるべく手助けしているだけに過ぎない。
支援はそれだけじゃない。
このファルムヒュムス大陸に在る雷精樹と地精樹の二本の分体樹も、樹精樹を助けようとする意思を示している。
ただ、何が原因だったのか分からないけども、樹精樹から伸びていた精霊島にある世界樹を主幹としたマナの回線が、何故か所々寸断されていた上、無事だった場所も細くなってその流れも悪くなっていたため、周囲の分体樹からの支援や介入が難しくなっていた。
これがさっきまでの状態だった。
それを改善すべく、ボクは必死で樹精樹からやり方を教わりながらその回線を接続し直し、更に強固なモノと作り変えたのがついさっき。
そのおかげか、他の大陸に在る全ての分体樹や精霊島にある世界樹本体もその回線を通じて疲弊していた樹精樹を援護すべく力を解放する事が可能となり、こちらに星気と呼ばれるマナを集中させてきたのだ。
その結果、樹精樹は完全な自我を取り戻して本来の活力を取り戻し、こうしてカルネージスを排除すべく表立って行動に出れるようになったというわけ。
こんなやり方も全く分からないような不思議な事が出来るかどうかは賭けだったけど、何とか上手くいったようだ。
とはいえ、このままじゃ駄目だ。
この邪気に護られた場所にいるカルネージスのような強敵を、樹精樹だけの力でそのまま押さえ続けられるとは思えない。
それに元々限界寸前だったところを、かつての仲間の力を借りて、無理して力を捻り出しているのだ。かなり無理をしているのだろう。
負担はかなりのモノだろうし、このままじゃ持たない。
もちろんボク自身もこの展開に頭の理解がきっちりと追い付いていないし、そもそも侵食の影響が消えたわけじゃない。
正直無理し過ぎたせいで、疲労の色は濃い。
でももう少しなんだ。後少しの時間、コイツを抑えきることが出来れば……。
──だから。次なる一手を。
蔦を穢れた水の刃で切断して抵抗を続けるカルネージスを睨み付け、ボクは次の一手を打つべく息を吸い込んだ。