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彼の特殊な精霊事情  作者: 神楽久遠
世界樹と交錯する思惑
120/190

120話 懇願と怒りと

 昨日から調整していたら、いつの間にか大幅修正……。





「巫女フェーヤ! 貴様、今まで精霊様と世界樹に何をしてきた!?」


 いきなり入ってきたアッシュグレーをした短髪男が怒鳴り、フェーヤの胸倉を掴んだのを見て、ボクの中で何かがかちりと切り替わった。


 起動しっぱなしの精霊眼が、その周囲で色めき立つ精霊達を捉える。


 実際にフェーヤの周囲にいた何柱なんにんかの下級精霊が、彼女を守ろうとして集まり始めている。


 当然ボクもこのまま見ている事など出来ず、座っていたソファーから立ち上がろうとして、


「──その手を、妹から離せ!!」


 後からニファさんと一緒に駆け付けたエルフ族の騎士が叫び掴みかかろうとしたが、途中で何かにぶつかったようにはじかれて転倒する。


 結界!?


「くっ」


「何故貴様がここにいる? 謹慎きんしんを命じた筈……」


「ディクティルさん!」


 ボクの横にいたアーサーさんも行動を起こしている。

 騎士が体当たりしたことで可視化した障壁を砕こうとして、貫手ぬきてを放ち……。


の者の力を奪え』


 ボクの願いを受け、障壁の構築を手伝っていた精霊達がその力の供給を減じる。


 そこに突き付けられた彼の貫手ぬきては軽々と障壁を撃ち抜き、そしてガラスのように粉砕する。


「なにっ!?」


 ここまであっさり破られるとは思ってもみなかったのか、絶句して動きを止めた短髪の男へと、そのままの勢いでを詰めたアーサーさん。

 フェーヤを掴んでいるその手首を握りしめると、


「彼女を放してください。いかなる理由があろうとも、いきなり女性の胸元を掴むのはどうかと思いますが?」


 そう話す彼の言葉は丁寧だけど、その視線は鋭く険しい。


 すぐ暴力に訴えるのではなく、まずは会話での解決を選択したアーサーさんの意志を尊重し、ボクは立ち上がるだけにその行動をとどめる。


 全く面識がないボクが割って入るより、今はアーサーさんに任せた方が場がすんなりと収まるかと思ったからだった。


 ただし常に状況を把握して、いつでも口が出せるように、会話の内容に意識を集中させていく。


「勇者殿か……」


 二人はしばし睨み合い、


「──済まない。私も頭に血がのぼっていたようだ」


 そして大きく息を吐いた神官服の男は、台詞の割には苦々しくそう返答し、静かにそっと手を彼女から離した。


「フェーヤ!」


「フェーヤお姉様!」


 足の力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる彼女をアルメリアさんが慌てて抱き止め、ニファさんともう一人の男性が駆け寄る。


 アルメリアさんは二人にフェーヤを預けると立ち上がり、そのまま男をキッと睨み付ける。


「これは一体どういう事ですか!? 答えて下さい、大神官ディクティル!」


 大神官!? この男が?


 かなり若い。二十代そこそこに見える。

 ただ彼もアルメリアさんと同じく、見た目通りの年じゃないんだろう。


「どうもこうもない。その言葉のままだ」


「ですからその言葉の真意を……」


「なら聞くが、王都に行く前と行った後、どこでどういう行動をしていた? 何故あのような得体の知れぬ者達と知り合い、この神殿への招待状を書いたのだ?」


「……え?」


 ディクティル大神官の言っている意味が理解出来ずに、困惑の表情を浮かべるフェーヤ。


「な、何かの間違いでは!? そのような事実はありません!」


 青ざめた表情で叫ぶアルメリアさん。

 ここに至って自分達があらぬ疑いをかけられ、皆の前で弾劾だんがいされようとしていることに、彼女は気付いたのだろう。


「事実無根だと言うのか? 実際にあの二人組はフェーヤの承認印入りの招待状を持ってきたぞ。その内の一人は『自分は稀代の薬師で、精霊様を癒す薬の作成を任されました』とな。

 そしてその薬を一度は飲まれたドリアド様だが、その後拒否をし続け、ある日いきなり倒れられてしまわれた。

 そればかりか、駆け付けた私達の目の前で世界樹から伸びた蔦に絡め取られ、世界樹の中へと取りこまれてしまわれたのだぞ」


 倒れた状況は分かったけど、アルメリアさんの説明と一部違う。


 里の精霊薬エリクシルをなぜ与えなかった?


 なぜドリアドさんは拒否した?


 どうして詳しい内容を伏せて、フェーヤ達を呼び戻した?


 それに世界樹に引きり込まれたって、どういう事なの?


 そんな疑問が脳裏に浮かんでは消える。

 それを念話として感知した樹精が、更に思念ことばを重ねてくる。


 ──いや、まさか? それは!?


「その二人組を調べて処断すれば良いだけでしょう!」


「それが出来たらそうしている。拘束しようとしたら、訳の分からない術で逃げられた」


 苦々しく吐き捨てる彼に、事の重大さをようやく理解したフェーヤも顔色が変わっていく。


「あ、あのっ! 私、そんな事知りません!」


「しかし現にここにいる大半の者がその宣言を聞き、そしてここにその書簡もある。筆跡も一致する」


 懐から一通の封書を取り出すディクティル大神官。


「そんなの書いた覚えが……」


「無いと言うのか? ならばこの書簡はなんだ? 何故奴らがお前の王都行きの理由や、調べている内容まで詳しく知っていた?」


「お父様、今はそんな事を言っている場合では! 早くフェーヤお姉様を精霊様の元……」


「ニファ! 口出しするな!」


「──えっ? お父……様?」


「お前はまだ未成年だし、しかも通常種シビリティだ。よって、この場での発言は認めない」


「……はい」


 へぇ? 知らないんだ?

 しかし、自分の娘にそんな事を言うか?


 内心いらつきながらも、ボクの隣まで下がっていたアーサーさんを横目で確認する。


 少し離れた位置にいるマーリンさんと同じく、二人とも厳しくいらついた目で大神官を睨み付けているが、もくしたまま推移を見守っているようだ。


「答えて貰おうか、巫女フェーヤ」


「そ、それは……分かりません。

 でも、本当なんです! 誰にも話してませんし、ここに居られる方以外話していません!」


「ほう? では里の現状が周囲にバレていたのは、自分達ではなく、この者達が第三者に情報を洩らした可能性があると、そう言いたいのだな?」


 彼女の台詞を受けて、今度はこちらに殺到する嫌疑の眼差しに、ボクの傍にいたティリルが腕にしがみついてきた。


 全く関係ないのが分かっているのに。

 そして直接犯人だと名指しされた訳でもないのにも関わらず、ぎゅっと目を閉じ、ボクにすがるように震えながら。



 ──昔、美琴がボク達が通っていた小学校に転校してきた頃、ある日クラスで貴金属の盗難事件が発生した。


 体育の後に発覚したその事件は、その前の時間にクラスメイトがその指輪を自慢していたこと、その後、教室に最後までいたからという短絡的な思考で犯人にされ、本来公平さを守るべき担任の女教師までが彼女の言い分を聞かず、自ら主導して彼女を必要以上になじった。


 しかもその担任の説明を真に受けた学校長までが、彼女を名指しで吊し上げようとしたのだ。


 二人して美琴の人格攻撃まで行うという、あまりにもおかしいその対応に、疑問どころか怒りすら覚えたボクは彼女を徹底的に庇った。

 そして幼馴染達と独自に動くことにしたんだよ。


 予想通りというか、何というか。

 その女担任による窃盗事件と、おまけに学校長との不倫騒動にまで発展したんだよなぁ。


 まあ、今まで気にもめたこともなかった親のコネとかを、ここぞとばかりに散々使ったけどね。


 この時の小学校も、今現在かよっている中高大一貫校も、ボクの家が出資者だし。そうでもしなきゃ、普通の小学生がこんなのくつがえせるわけないもの。


 ほんと最低な事件だった。メディアとかが大挙して押し掛けてくるし。

 


 その時の辛さ(トラウマ)を思い出してしまったのだろう。


 そんな彼女をそっと優しく抱きしめると、その大神官へと毅然きぜんとした態度を示す。


「まず前提が違います。ボク達がフェーヤに出会ったのは、昨日の事ですが?」


 猫を被るのを止めたボクは、何も分かっていない大神官へと口を挟む。


 正直怒鳴りつけたい気分だけど、彼に同情出来る部分もある。

 だからそれは何とか抑える。会話を重ねることで彼が自分を取り戻せるのなら、それが一番いい。


「そもそもボク達と出会わなかったら、彼女達はこの世にいません。警護していた兵士も三名以外全員殉職しています。早打はやうちの使者も出した筈ですが?」


「なに?」


 ボクの指摘に眉を寄せた彼は、背後を振り返った。


「誰か報告を聞いた者はいるか?」


「俺とニファが聞いている」


 顔色の悪いフェーヤを強く抱きしめたまま、彼女を妹と呼んだ男性が静かな口調で返答する。


「──ちっ、ニファもか。

 ……まあいい。ラウシュ団長、話せ」


「先程巫女に随行ずいこう護衛していたラメ兵士長から詳細を聞き、ここに来た。そこの……上位種(ハイティ)の少女が言っている事は真実だ」


 王都の書庫で調べ物をしていたこと、凶報を受け、慌てて少数の護衛のみで帰途きとについたこと、そして道中に数十人規模の賊に襲われたことを、順にその神殿騎士団長は語った。


「それが真ならば、奴等は巫女も同時に亡き者にしようとした? 襲撃が失敗した時の保険の意味もあるか?

 ──い、いや……襲われる事で無実工作アリバイを……」


「そんな事より、ドリアド様は大丈夫なのですか? 早く正常化の儀式を……」


「どうやってだ? 世界樹に取り込まれてしまったのだぞ。あの方がおられる場所すら分からん」


 ディクティル大神官の言葉に、押し黙るアルメリアさん。


「そもそもお前達の嫌疑けんぎが晴れたわけではない。精霊様も世界樹に守られているから、もう既に問題ないだろう。

 これ程の失態、いかなパァム家とて無事では済まんぞ。それにフェーヤは巫女としても失格だ。よって調査が終わり沙汰さたくだるまで、お前達を拘束させてもら……」


「必要ない」


「──なに?」


「必要ないと言った。もう一度言うよ。そんな無意味な問答に時間を割く必要もない。あなた方は現状を理解していないし、打開する力もない」


「いきなり何を言っている? む……無関係な奴が我々の栄光あるファルナダルム氏族の方針に口を出すな!」


 愉悦ゆえつの表情で講釈こうしゃくれているのを無理やり遮るように放ったボクの言葉に、豆鉄砲を喰らった鳩のようにポカンと口を開けたディクティル大神官は、ボクの言葉が自分を非難していることに気付いて烈火のごとく怒り出した。


 正直もう駄目だ。無理だ。それに我慢の限界。

 ()()()()()()()()()()()()()とはいえ、今の彼は自分の地位と権力の事しか考えていない。

 その発言に怒りすら湧いてくる。


 この男、もはや精霊の懇願こえを全く聞いていないようだ。いや、聞こうという思考すら奪われているのかな? 


 例えボクと同じことが出来なくても、精霊達の焦りの感情に耳をしっかり傾けさえすれば、今の状況が危険域に突入していることが分かるはずだから。


 しかも彼の取り巻きは無事なはずなのに、誰も彼をいさめようとしない。自浄作用がない。

 その取り巻き連中は、現状を理解しようと努力していないのが丸分かりだ。


 状況は悪化の一歩を辿っている。

 

 もし失態という言葉を使うなら、それはあなただよ。ディクティル大神官。


 自分に無条件に賛同する取り巻きだけを普段から集めていたから、悪党に付け込まれ、今の状態があるんだ。

 こんなガタガタでよく今まで大神官という官職が務まっていたな。


 これ以降は、ボク達が主導権を握った方がいい。


 今もなお、ボクの肩に座っている樹精が必死に訴えかけている言葉に、そして、ドリアドさんにもう時間があまり残されていないことを悟る。


「アルメリアさん、隣の『樹精の間』ではなく、世界樹の中心部『樹皇じゅこうの間』の方へ案内してもらえないかな? ボクとフェーヤで対応する」


「な、何故部外者がその名を知って!?」


「それとニファさん。ドリアド様の世話役のあなたにお願いします。まだ残っているなら、奴等が調剤した薬と里で保管していた精霊薬エリクシルも持って来て下さい。こちらの薬師達が原因を調査するから」


「はい! すぐに準備します」


 精霊達みんなの訴えをきちんと聞いていたら、奴らに付け込まれるような事になっていない。

 巫女を拘束しようとするような愚かな行為を、こんな無駄な時間を過ごしていない。


 全く何をやっているんだよ!


「くっ、そこの女! これ以上我々ファルナダルムの職域で勝手な真似をしでかせば、貴様も大罪人として拘束し処罰するぞ!

 ニファもそんな得体えたいの知れぬ奴に返事するな!」


 ナニかわめいているのがいるけど、無視だ、無視。


 それよりも()()()()殿()()をどうしようか?


 下手につつくとヤバいよね。本物はこの神殿内にはいないから、街のどこかか……それとも殺されてしまっているのか……。


 しばらく泳がせて放置するしかない、か?

 

「フェーヤ、立てる?」


「は、はい。で、でも……」


 大神官(バカ)野郎の剣幕に気圧けおされてしまい、オドオドとしてしまっている彼女の手をそっと取る。


「フェーヤの願いは何? どうして神殿に急いで帰ってきたのかな?」


「それは……も、もちろんドリアド様をお助けする為です」


「じゃ、あんな奴に邪魔されてる暇ないよね。行こう、樹皇じゅこうの間へ。その奥に彼女はいる」


「はい」


「さ、行こうみんな。ついて来たい人は付いてきて」


「大叔母様立てますか?

 ──セイ嬢、君のような方を待っていた。これでようやく打開出来そうだ。俺も付き添おう」


 フェーヤの兄であるラウシュさんもこちらを見て、ひとつ頷きを返す。


 肩口に座る樹精が、二人は味方だと教えてくれる。

 

 上位種ハイティであるラウシュさんと()()()()()


 この二人はここまで悪化した現状を何とかしようと調査に乗り出し、知り得た真実を誰にも言わず、陰でこっそりと動いていたようだ。


 しかしあまりにも状況が芳しくなく、挙句にニファがバレかけてしまい、何とか上手く誤魔化せたものの、代わりにラウシュさんが謹慎を食らったみたい。


 完全に自分の意のままに動いてくれないニファさんへ希望を持たせた上で、フェーヤを弾劾し拘束することで絶望させ、その意志をへし折るつもりだったんだろうけどね。そうは問屋は下ろさない。


 ボクはフェーヤの手を引き助け起こすと、みんなに声をかけこの部屋を出ようとした。


「と、止めろ! 部屋から出させるな!」


「そ、その女だ、そのチビ女が一連の首謀者に違いない!!」


「誰かこいつを拘束しろ!」


 わめく声に振り返れば、出入り口を塞ごうとして、口々にののしってくる奴の取り巻きども。


「動くな! ここから出ることは許さん!」


「怪我したくなかったら、ここに大人しくしていろ!」


 その的外れな指摘と身勝手な言い分に、思わず失笑が漏れる。


 煽動せんどうしている奴は、年配で身なりがいい年嵩としかさの男数人だ。

 逆に比較的若そうに見える神官達や神殿騎士達は、困惑の表情を浮かべてどうすべきか迷っているようだ。


 反発して(さえ)ずっているのは、やはり大神官の腰巾着こしぎんちゃくだけか。


 さっきから聞いていれば、これからどう対応するかのような建設的な話は何もせず、巫女の一族であるパァム家を如何いかおとしめるかに終始しているとしか思えない。


 思考を歪められて操られているっぽいディクティル大神官はともかくとして、無事なはずの取り巻きの連中はまだそんなことを言うんだね。もうまともな思考をしていないとしか言いようがないな。


 フェーヤ達がドリアドさんを助けて無事に返り咲いた時、粛清しゅくせいという名の裁きを受けるといい。


 うん、勝手にやってたらいいさ。

 ボクはボクで勝手にやって、ドリアドさんを救うだけだから。ただ、フェーヤやニファさんは連れて行くよ。


 まあでも……こんな奴らでも、フェーヤ達の元同僚なんだよね。


 流石に必要以上の手荒な真似はしたくないし、怪我はさせたくない。だから周りにいるこの樹精の仲間達の力を借りて、彼らを拘束するだけにしておこうと……。



「我ら栄光あるファルナダルムの聖域に、他氏族や他の種族を、しかもあろうことか、けがらわしい野蛮やばん()()を入れるなど! そんな暴挙はあってはならんのだぞ!」



 取り巻きの老人、その一人がわめいたその声が耳に入り。


 そのノイズに思わず身体の動きが止まり、うつむく。


「──アぁ?」


 ()……()()()()()()!?


 ギシィッ! バチッ!! 


 完全に抑えることを止めたボクの怒気に、場の精霊達が一斉に呼応こおうした。


 今までの奴らの身勝手と不甲斐なさを弾劾するように、ボクを基点きてんとしてこの部屋を埋め尽くすかのように大量の精霊が連鎖喚起され、精霊達が放つ怒りの霊圧プレッシャーに空間そのものが悲鳴を上げた。


 ボクに纏わりついていた雷精もティアの感情と呼応して怒りの声を上げ、ボクの全身が帯電を起こし紫電がはしる。


 それでも完全にキレる寸前でギリギリ踏み止まり、咄嗟とっさにフェーヤの手を離したボク。


 全身を障壁でくるむことで外へと出ないようにしたおかげで、ボク自身が大切な仲間達への放電被害を加えることは避けられたけど、精霊達の怒りを直接喰らった奴らはひとたまりもなかった。


 対象を絞り込まれた精霊達の怒りの叫びが物理的な威力となって、大神官とその取り巻きだけへとぶつけられた。

 奴らはその暴圧に吹き飛ばされ、壁へと叩き付けられて崩れ落ちる。


 また、大きく離れて様子をうかがっていた日和見をしていた者は、吹き飛ばされはしなかったものの精霊達の怒りの霊圧プレッシャーに手や膝を付き、ゆるしをうようにあえぎ大きく息をついている。


「あわわ……ひうぅうっ!?」

 

「な……!?」


 精霊とボクの怒りの矛先から完全に外れていた仲間達やアルメリアさん達には、見る限り被害はない。多少の圧迫感を感じただけみたいだ。

 しかし、その惨状を見て誰もが動きを止め、息を飲み、ある者は……。

 

「セイさん落ち着いて!」


「大丈夫だから! 私は気にしてないから!」


 時折パチッパチッと帯電して紫色の雷光を纏っているボクへと、全く怖がらずにしがみついてくるティリルとレトさん。


 これ以上は駄目だと必死に止めようとしてくる彼女達に、ボクはいきすぎた感情を抑えようと大きく息を吐く。


「心配しないで。邪魔さえされなければ、今はこれ以上糾弾することはしない。

 ──さ、助けに行くよ」


 一歩足を踏み出せば、無事だった他の神官達や巫女見習い達が同じだけ後退りしていく。多くの人に怖がられてしまったのはもう仕方ない。


 これ以上の対話は不要とばかりに切り捨て、ボクは歩を進めて行こうと……。


「うはぁ、すげぇなぁ」


 ピリピリとした緊張感の中、呑気な声が響く。


「下級精霊を場にぶだけでこれかい。おチビちゃんやっぱつえぇな」


「またそれですか。だから、おチビちゃん呼びは止めて下さいよ」


「悪い悪い。つい言っちゃうんだよなぁ。

 じゃ、嬢ちゃん。その樹皇の間ってのに行こうか。てか、道分かるのか?」


「もちろんその……。

 ──アルメリアさん、道案内お願いします」


「おぃ」


 ボク達のやり取りに、場に張り詰めていた空気が一瞬で霧散した。


 ボクを見る周りの目が、どこか得体の知れない異質なモノを見る目から、何だか生温かい目に変わったような……?

 居心地の悪さをひしひしと感じる。


「やっぱ嬢ちゃんはどこか抜けてんなぁ」


「うっ。し、仕方ないじゃないですか」


 この樹精が道くらいちゃんと知っていて教えてくれるけど、アルメリアさんに道案内をお願いした手前、勝手に行くわけにいかないでしょうに。


「──お父様。どうしてこんなことを……」


 完全に気絶してしまい、無事だった他の神官達に介抱されている自分の父親を見て、ポツリと呟いたニファさん。


 そんな彼女に声をかけようとしたけど、自分の父親をうち倒してしまったボクに言われるのは嫌だろうと思い直し、フェーヤに目配せする。


「ほらニファ、まずは精霊様の元に行こう」


「……はい。では、皆様こちらに」


 ボクの意図をきっちりと汲んでくれた彼女に感謝しつつ、ボク達は移動を開始した。

 




 世間はGWに突入ですね。

 私は完全オフ一日分貰えました(ぇ?


 今年も「GW何それオイシイノ?」と言わなくてはいけないとは……。

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