115話 ボクの立場は?
もうちょこっと説明回……。
「アルメリアさん、落ち着いたかい? すまない、セイさんも悪気があったわけじゃないんだ」
きちんと整えた寝室にフェーヤさんを寝かせに行ったアーサーさんとレトさん。
それを終えて戻ってくる間に、ティリルが入れてくれたお茶を正座して飲んでいたアルメリアさんは、何とか落ち着きを取り戻していた。
ちなみに席は、ボクの両隣にユイカとカグヤ、座卓を挟んで向かいにアルメリアさんとティリル。戻ってきたアーサーさんとレトさんが、それぞれ空いている場所に腰を下ろしている。
最初ボクが緑茶を入れようとしたら、ティリルに止められた。
アルメリアさんが落ち着かなくなるからと言われたら、どうしようもない。それ反論出来ないじゃないか。
まあお茶うけとして、ティリルが虚空の穴から出していたお煎餅やあられは、二人で試行錯誤して作った合作だけど。
もちろんボクが関わっていることは内緒で。
この米菓作りの切っ掛けは、あのイベントでティアとお店回りをしている時に、煎餅やあられ等を専門販売しているお店を見付けたからだった。
その店の店主に食材のうるち米を売っているお店を聞き出し、ちゃんと手に入れることが出来たので、早速真似て作ってみた。
味付けは別の店で買い溜めしていたたまり醤油で、薄味と濃味の両方を仕立ててある。次の機会には、別の味にも挑戦するつもりだ。
出来立てをすぐに時間停止の虚空の穴に保管したから、今も焼き立てのような温もりと、周囲に醤油の香ばしい匂いが充満し出している。
その匂いに誘われるかのように全員が手を伸ばし、美味しそうに齧ってくれていた。
こういうのを見ると、作成に関わった者としては嬉しく感じるよね。
「……はい。取り乱して大騒ぎしてしまいました。なんてはしたない事を。本当にすみませんでした」
「いえ、こちらこそ無知で余計なことをさせてしまって……。すみませんでした」
掛けられたアーサーさんの言葉に、アルメリアさんは湯飲みを座卓の上に戻すと、しゅんと小さくなって謝ってくる。そんな彼女に、ボクも頭を下げる。
「い、いけませんセイ様。我々エルフ族の頂点であらせられる古代種様が、私のような下々に頭など下げてはなりません」
謝る場合どうしろと?
溜め息しか出ない。
「そっか。セイさんって、スティルオムっていう氏族だったんだね。いつか必要になると思って調べてたんだけど、どうしても分からなくって。必要になるのまだまだ先だと思ってたから、説明し忘れてたの。ごめんね」
ティリルが手を合わせて謝ってくる。
別にこれはティリルのせいじゃないんだけどね。
そんなティリルのボクへの軽い態度と物言いに、アルメニアさんの眉が跳ね上がるのがボクから見えた。
けどボクが何も問題視しないのを見て、喉まで出かかった言葉を必死に抑えようとしているようだ。
「アルメリアさん、ティリルはボクの幼馴染です。彼女にはボクが許可を与えてますので気にしないで下さい」
「……はい」
あえてそういう言い方をして、アルメリアさんを納得させる。
……ああ、エルフって何だか面倒くさそう。
全員が全員ともそうじゃないとは思うけど、「格式が~」とか「伝統が~」とか言いそうだなぁ。
苦笑気味のティリルに話の続きを促す。
「えと、わたしは生命の精霊様の系譜、ヴィオトプス氏族だよ。こんなふうにエルフは全員氏族名を持っているの。氏族名イコール最初に出会った自分の守護精霊様だと思えば分かりやすいんじゃないかな」
なるほど。
ボクの場合、狭間の世界で最初に出会ったのが元素の精霊だったから、彼女がボクの守護精霊になって彼女の氏族になるのか。
「言い伝えでは、精霊様がご自身の身体を模して、私達エルフの民の祖先を創造されたと言い伝えられております。
それを証拠に、精霊様との間で繋がりが強固になるごとに、私達はその精霊様へと近付いていくのです。それにより各氏族ごとにその能力の成長の方向性や特性が異なるのです」
へー。
ということは、水の精霊なら水中行動しやすくなるとかあるのかな?
『ねぇ、そうなの?』
『うーん……どうだったかな。よく思い出せないよ』
『ヴォルティスとしての記憶を軽く漁ってみましたが、確かに第一次邪霊戦役で活躍した森精種族十三使徒の一人ケラヴィノスへと、戦役前に寵愛を与えて能力を授け、結果として彼は古代森精種へと至った、みたいな記憶はありますね……。
──でも、そもそもその方が最初の古代種でもないですし、創造神様が世界と生命を生み出したとされていますし、精霊がエルフを創った訳ではないです。
私達の加護は全種族に等しく与えているのですから……恐らくエルフの方々が自分達に都合の良いように作った話が、今や一人歩きをして彼らの中で真実と化しているのではないかと』
あー、これは真実を当人達に言えない奴だ。
『ティアって自分で体験してないのに、過去の精霊の記憶よく思い出せるよね。しかもそんな創世の頃の話まで』
『……過去の自分がした大切な事を完全に忘れているカグヤ様の方が特殊な気がします』
『あーっ、酷い! 私だって覚えてる事あるよ。抱き着いたり、寵愛以上を上げたり、チュウしたりした男の人はセイが初めてだもん』
『色事ばっかりじゃないですか!』
『大事な事だよ! 私がセイだけのモノだって証明だもん! それにティアだって、考えてることはいっつも……』
『ま、まあ、二柱とも。それよりも、知らないことだらけだから、色々教えてよ』
カグヤのあまりにダイレクトな物言いに顔が熱くなるのを感じながらも、喧嘩しそうになった二柱の間に入って話をぶった切り、別の話に切り替える。
しかし、最近ティアってカグヤに遠慮が無くなってきたなぁ。
気持ちは何となく分かるけど。
何も知らないボクのために、二人と二柱はエルフの民や巫女について色々と語ってくれた。
まずこの氏族について。
こちらはエルフ特有の呼び名であり、他の人族の場合、同じ加護を持っていても氏族と言わない。
そして、この氏族名の由来としては、初めて発生した邪霊戦役で活躍したエルフの英雄の名前であるとのことだった。
で、教えてもらった各氏族の始祖古代森精種の方々の名前は、次の通りだ。
炎の精霊の寵愛を得たエプティオス。
水の精霊の寵愛を得たヒュネロ。
風の精霊の寵愛を得たアネモス。
地の精霊の寵愛を得たティエノラ。
雷鳴の精霊の寵愛を得たケラヴィノス。
樹木の精霊の寵愛を得たファルナダルム。
光の精霊の寵愛を得たルティス。
闇の精霊の寵愛を得たオスクロフ。
静寂の精霊の寵愛を得たスィーナ。
生命の精霊の寵愛を得たヴィオトプス。
太陽の精霊の寵愛を得たソラル。
月の精霊の寵愛を得たセリュンティア。
そして彼らの指導者であり、主君でもあったスティルオムという女性は、元素の精霊の寵愛を得て御子となったそうだ。
男みたいな名前だけど、元々彼女の名前は『ステファニー』とのこと。
ティアのエルフから聞きかじった話によると、戦いで散っていった亡き夫の名前と遺志を引き継ぎ、幼い我が子を友に預け、窮地に立たされていた全種族連合軍の旗頭として参戦したらしい。
彼女は常に戦場の先頭に立ち、仲間を鼓舞し、戦い続けた。
そして遂に。
連合軍を勝利へと導いたという功績を上げた伝説の女性であるらしかった。
かなりエルフ寄りに脚色されているだろうし、かなりうろ覚えなので間違っている可能性が高いですがと、最後に付け加えたティア。
それでも全く知らないより助かると、念話でお礼を伝える。
アルメリアさんの話では、エルフ誕生という創世記クラスの伝承扱いで、しかもかなり失伝しているらしいし、実体験しているはずの二柱も記憶が曖昧になっていることもあって、どういう経緯で加護を得たかは全く分からないけども、これが切っ掛けで十三の氏族に分かれることになったらしい。
現在のこの世界のエルフの民は、必ずこの十三人のうち、いずれかの血を引いているとのことだ。
あと、エターニア様やディスティア様の加護持ち氏族はいないみたい。やっぱりあの二柱は特殊なんだろうな。
なにせ女王様とその補佐役だし、ミィンの町で感応石越しに聞いた話とも一致する。
そして巫女という存在について。
今までの状況から推測するに、巫女となる資格は祝福を受けた高位森精種だけがなれるものだと思っていたんだけど、実は祝福を受けて精霊に認められた人なら、どの種族でも巫女にはなれるそうだ。
ただ種族的な性質上、エルフの民が巫女に選ばれる率が圧倒的に高いらしい。精霊を認識出来る知覚も優れているし、それに他の種族と違って長生きだから在位期間が全く違う。
そういった事情で、現在の巫女の半数くらいがエルフ族だという。
そしてボクが持つ寵愛なんだけど。
こちらに至っては、全種族を対象としても、現在この大陸には殆ど居ない。
多くの人が前回の邪霊戦役で戦死してしまったそうで、特に今のエルフの民には、寵愛持ちが一人もいないという深刻さ。
しかもだ。
ボクが持つ『深愛』がヤバい。
寵愛以上を持つ人っているのかどうかを、知らない振りして聞いて見たんだけど、「なんですかそれ?」みたいな顔をされた。
あぁ、内緒にしなきゃいけない事柄が増えていっちゃう。
そればかりじゃない。
ボクの氏族ってば、かなり厄介な事情を抱えていたようで……。
「でも、そのスティ……なんちゃら氏族って、そんな大騒ぎするほどのモノなの? 数ある氏族の中の一つでしょ?」
「な、なにを言っておられるのですか! スティルオムですよっ、スティルオム氏族!
生まれる子が必ず両親のどちらかの精霊様の祝福を受けており、数多の精霊様に愛されるのが約束された伝説の氏族! 他種族から、別名『エルフの王族』とまで言われている高貴な氏族なんですよ!
他の氏族から婿に嫁にと、引っ張りだこなんですから!」
「はあ……そうなんですか?」
えらく興奮した様子でアルメリアさんが身を乗り出して力説するんだけど、当事者のボクとしては全く実感が湧かないんだよね。
ボクの場合ってほら、アレでたまたまそうなっただけだし。
それに本人の努力でそうなるわけで、それが生まれによって、精霊に愛される愛されないというのは違うと思うんだけど。
一番酷いのは『婿に嫁に』って。
種馬扱いされてるみたいで何か嫌だな。
さっきからボクはというと、自分の腰にしがみ付くように甘えているユイカやカグヤの頭を無意識にも撫でていた。
そうすることで気分を紛らわせようとしている時点で、この話がちょっと精神的に負担になってしまっているんだと認識している。
「しかもしかも!」
そんなボクの様子に気付いていないアルメリアさんは、また再びヒートアップし出したようだ。
「過去スティルオム氏族から古代種へと至ったお方は、始祖精霊様の加護を授かる事があるというのですから驚きです!
私達にとって、まさに雲の上の世界! 憧れます!」
「始祖精霊?」
「女王様であらせられる永遠の精霊様や運命の精霊様の事です。その御声を耳にするだけで、もう一生思い残す事はないというくらいの方々なのですよ」
「はぁ……。そうなんですね」
彼女の説明を聞けば聞くほど、声から感情が抜け落ちていく。
エターニア様って、始祖精霊って言われてるのね。でも、御声って大袈裟な。
かなり気さくな精霊だし、しょっちゅうメールとか送ってくるんだよ。
あのことがあった後から、エターニア様から気軽にメールが届くようになって、返さないのも何だか悪いなと思って返信していたら、いつの間にかメル友みたいな状態になっちゃったからなぁ。
そもそもあの精霊の声を聴くどころか、抱きしめられたり、額にキスまでされたんですけど?
それにボクが持っているあの感応石、もしこの人に見せたりしたら卒倒するんじゃないだろうか?
でも黙っているわけにいかないよね? この人責任者の一人だし。話すタイミングはアーサーさんに任せちゃおうかな?
あのイベントで得た加護の事は、ユイカ達だけに軽く伝えてあるけど、それ以外には誰にも言っていないことだし、これからも言えるわけがない。
特にこの世界の人達には。
うん、加護のことは絶対黙っていよう。
「セイちゃんと同じ氏族の人達、どこに住んでいるのか分かりますか?」
「それは……不明です」
ユイカの質問にいきなりトークダウンしたアルメリアさんは、気遣わしげにこちらを見やり、そして首を振った。
「三百年ほど前、つまりは先々代の曾祖母様が引退される時の話ですが、その前後辺りでスティルオムを名乗る者は誰一人いなくなったとの話です。
元々スティルオム氏族は他の氏族と比べて少数氏族だった上に、太古より別の氏族と血が混じることが多かったせいで、同じスティルオム氏族同士で婚姻しても子が別の氏族になる事が急に増えたそうです。それに、何故か邪精生物に狙われやすい性質をお持ちでしたから……。もう氏族としては、滅びてしまったとの説が有力です。
いえ、でした、ですね。今私の目の前におられるのですから。ただあなたが最後の一人である可能性は常にあります」
うわぁ、そういうの聞きたくなかったなぁ。
「最後の一人……だと? しかも狙われやすい?
それはまずいね。邪霊生物の対処は私達がするとしてもだ。セイさんの氏族名は必要以上に周りに知られないようにした方がいいね」
「確かにアーサー様のおっしゃる意味は分かりますが……。我々としましては、セイ様に全氏族を束ねていただけるような指導者になっていただけないでしょうかと、お願いしたいくらいなのです」
とんでもないことを言い出したアルメリアさんのその言葉に、ボクは唖然とした。
指導者という言葉が、ドンと重荷になってボクにのしかかってくる。
ちょっと待ってよ!
そんな……ボクみたいのなんかが指導者とか、何考えてるのさ!?
そんなの無理無理!
「今この大陸には、古代種様もスティルオム氏族の方もおられません。両方の資質を兼ね備えたセイ様になっていただけるのが一番なのです。
今は先の大戦で疲弊し、別の大陸の同氏族を頼って旅立つ者もいますし、全氏族で協力しなければ滅びてしまいかねませんから大人しくしていますが、もしこの現状のまま放置していれば好き勝手に主導権争いをし出して、収まりがつかなくなる恐れもあります。
事実、先の邪霊戦役では、スィーナ氏族の指導者争いのゴタゴタを突かれて利用され、ベスティア王国にあった世界樹を破壊されてしまった上、その世界樹を護っていたスィーナ氏族がほぼ壊滅。かの王国までが滅びる事態になってしまいました」
「ほ、滅びたって……そんな」
「とは言われても、だ」
ちらりとボクの方を見たアーサーさん。
その視線での問い掛けの意味に気付き、慌ててプルプルと首を横に振って否定する。
「この先、年若く不慣れなセイさんをいいように政治利用しようとする輩が現れないとは言えない。そもそも誰が彼女を補佐するかで、結局権力争いが生じてしまうんじゃないのか? 今は状況を見つつ、隠しておいた方がいい。
それよりもだ。彼女の口からプレシニア王に進言しないといけない重要案件もある。もちろん貴女にも影響のある話だ」
そうなんだよね。
あの感応石、王侯貴族にも説明しなきゃならない。その際間違いなく権力者に正体がバレる。断言してもいい。
あの時は自分の立場なんて全くこれっぽっちも考えてなかったから、気軽に了承してしまったけど、この感じだと相当ヤバそうだ。
だって……さっき目の前で、周囲から精霊の巫女様とか呼ばれていた人がひれ伏したんだよ?
正直先の展開が読め過ぎて、もう王宮なんかに行きたくないです。
「さ、先過ぎる話はこの際置いておいて、ですね。これからエルフの里に向かうんですけど、そこでセイさんの事聞かれたらどうしましょう? 氏族名、内緒にした方がいいんじゃないかと思うですが」
どんよりとした雰囲気を放ち始めたボクを見て、ティリルがこの話を終わらせようとして、そう声をかけて先に進める。
「そうだな。もし聞かれたら、取り敢えず差し当たりの無い、別の氏族を名乗るのが一番じゃないだろうか?」
「そうですね。今スティルオム氏族を名乗るよりは……。でも、本当は氏族名を騙るのはあまりよろしくないのですが」
溜め息混じりに、アルメリアさんはしぶしぶ了承する。
確かに先のことを心配し過ぎて暗くなっていると、みんなに気を使わせちゃうよね。
よし、とっとと切り替えなきゃ。
「んと、何の氏族を名乗るのがいいかな?」
「じゃ、じゃあ……。その、わ、わたしと同じヴィオ……」
「ヴォルティスの氏族かルナの氏族はどうかな?」
ボクの問いかけにティリルがごにょごにょと小声で何か言い出したけど、横からアーサーさんにそう言われ、途中で口を噤んだ。
「セイさんはよくこの二柱と精霊化を行っているし、何かあればすぐ彼女達に相談できる。対応の仕方も楽だし、丁度いいんじゃないかな?」
「……え、えぇ。それが良い……のかしら?」
アルメリアさんの方を向いてそう話すアーサーさんの横で、ちょっぴり哀愁を漂わせ始めるティリル。
そんなティリルの様子をアルメリアさんはまともに見てしまった為か、その返事に歯切れが悪い。
ボクもその様子に気付いてはいたけど、二柱から歓喜の感情が思念となってボクに流れ込んで来てて、さすがにそれを否定するような助け船を出せない。
「月の氏族は『セリュンティア』だよ!」
「私の加護氏族は『ケラヴィノス』です」
ガバッと起き上がって手を上げアピールするカグヤと、ボクの口を使って公表するティア。
「うーん。やっぱり世間でよく知られている一般的な氏族は、ティアさんのケラヴィノス氏族ではないかな?」
「そうですね。ケラヴィノス氏族の方は帝国にある世界樹を護っておられますし、王国にもたくさん居られますね。それに比べ、セリュンティア氏族の方が奉る世界樹は別の大陸ですから、プレシニア王国にはあまりおられなかったはずです」
「この大陸にありふれている氏族の方が疑いを持たれにくいだろうし、ここはティアのケラヴィノス氏族の方がいいかな……?
──うん、それでいこう。カグヤ、ごめんね」
「んー、仕方ないかなぁ」
こくりと返事をし、
『じゃ今夜セイの方からいっぱいチュウしてくれたら、許してあげる』
うぐっ。
カグヤも交換条件出してくるようになったなぁ。成長を喜ぶべきなのか、これ。
『……その手がありましたか。失敗しちゃいました』
『いや、その手もなにも……』
ティアもへこまないでよ。
ああ、もう。
二柱とも落ち着きなさい。
──ねぇ、エターニア様。
あの日あなたに煽られてからというもの、うちの精霊達、全く遠慮をしなくなっちゃったんだけど?
ボクなんかを必要としてくれて嬉しい反面、恥ずかしいことを平気でしてくるので、ほんと疲れるよ。
次の文通メールの内容にこの愚痴書いてやろうかと思いながら、周りには分からないやり取りを二柱としていると、レトさんが思い出したように手を上げた。
「一つ疑問ね。エルフさんって全員、アルメリアさんみたいな精霊眼持ちなんでしょ? どうやって誤魔化すんです?」
レトさんの質問に、全員の視線が彼女に集中する。
「一般の通常種の精霊眼は精霊様をぼんやりと感知することしか出来ません。本来のお姿をしっかりと視認して本質を見極められる事が出来るのは上位種の、それも相当の修練した者しか無理ですので、誤魔化しは出来るかと……。
──もちろん古代種様の方々の精霊眼は隔絶した性能をお持ちですので、我々はその足元にも及びません」
「あれ、ティリルちゃんはこの前人の魂の形や傷まで見えるって言ってなかった?」
「わたしの精霊眼やこの力は生命を司るアニマ様に直接お目通りして賜ったものだから、あまり参考にならないよ」
「ティリルさん、貴女までそうなんですか……?
──はぁ、異界から来られた方は、とんでもない方が多いですね。それだけ魂の器が大きいのでしょうか?
この馬車もあり得ないレベルの性能ですし、牽引する馬の代わりが幻獣であらせられる麒麟様とか。国宝級どころじゃないんですよ、これ」
もう驚き疲れましたと言わんばかりに、アルメリアさんはそっと嘆息する。
なんだかごめんなさい。
お詫びに何か美味しいもので作って上げようかな?
とそこまで考えたところで、みんなお昼を食べてないことに気付いた。しかももう十五時だし……。
「そう言えば、ごたごたしてみんなお昼抜きになっちゃったよね。それなら夕食は早めに……」
「セイちゃんはあたしと一緒に座っていようね」
「セイさんは動いちゃ駄目」
「……分かってるよ」
ユイカとティリルがボクの発言に被せるように反応してきた。
さすがボクの幼馴染。やろうとした意図に気付いて、釘を刺してくるなぁ。
「今からわたしが腕によりをかけて作るよ」
「ティリルちゃん、私も手伝うわね」
仕方ない。
全員分作るの大変だろうし、何品かはティリルの虚空の穴にボクの料理を移して、そこから出してもらおう。
「……あの、セイ様? ひょっとして、普段はお料理までご自分でなさっているのですか?」
あ、ヤバい。
そりゃあここまで言えば、普通気付くよね。
「ええっと、その。下手の横好きですが……」
「なんで下手って言うの? このお手製のお煎餅のように、セイのお料理はどれもがとっても美味しいんだよ」
「「「あ」」」」
せっかく謙遜しつつ誤魔化そうとしたのに、きょとんとしたカグヤが横から全てを台無しにしてしまった。
この後どうなったかは、あえて何も言うまい。
別にいいじゃないか。御子といえど、ボクみたいな庶民は料理くらい普通にするよ。
……はぁ。
この先どうなるんだろう?