112話 勇ある者
──アーサー──
「急ぎ戻って! 先遣の人と共に、襲われている人の救援を!」
精霊化させた使役聖獣の一柱であるらしい朱雀の幼体へ、悲鳴に似た懇願を発したセイさんの声に、私は咄嗟に反応した。
「私も行く! マーリン後は頼む!」
叫んだ後に、まだ見ぬ敵が私達の分断を狙っている可能性を思い付いたが、既にもう遅い。駆け出した後だ。
彼女の護衛に関しては、マーリンとレント君に任せておけば問題ない筈だと、そう自分に言い聞かせる。
先導するかのように空を駆ける朱雀を見上げ、私は馬を走らせた。
「──ミアさんだったかな? 私に付いてきてよかったのかい?」
これまたセイさんの使役聖獣の一柱である白虎。
私の隣を並走する白虎に跨がる猫族のミアさんに、私はふと声をかける。
「弱っちいミアより強い人達ばっかだし、あっちは大丈夫にゃよ」
「しかし……」
「むしろこっちの方が大変だと思うにゃよ?
特に……住民が絡んだ場合の後始末とか、さっさと終わらせるにゃ。まあ汚れ役はこのミア様にお任せして、泥舟に乗った気でいるといいにゃよ」
「沈没するだろう、それだと。
……いや、すまない。助かる」
こちらの心理状態を見て和ませようと思ったのか、大袈裟な身振りで「にししっ」と笑う彼女に、思わず突っ込みを入れつつも感謝の意を捧げる。
やはり初期プレイヤーだけあって、その可能性も理解しているか。
思ったよりしっかりとこの世界の現実を見て、また経験してしまっているようだ。
セイさんから馬車が襲われていると聞いて真っ先に危惧したのは、被害者と加害者その双方が、共にこの世界の住人である可能性だ。
普通この場所に来るような人物で相手が獣程度ならば、それなりの戦闘対策をしているだろうから、難なく切り抜けられるだろうし、少なくとも私達の別動隊が救援に入った時点で事足りている筈。
そう思って先程クラン掲示板を確認したが、やはりこの住民同士の争いのようで、手に負えずに応援要請がなされている。
いくら私達クランの猛者でも、この世界の住人が敵として相対する事態になれば手こずってしまう。
何故か?
それは相手が犯罪者であったとしても、大抵のプレイヤーは武器を向けその命を奪うのに躊躇してしまうからだと、私はふんでいる。
実際私もそうだった。
この世界の人達にはない〔自動解体〕というスキルコードを、私達は持っている。
この効果により、勝手に解体されて消滅する動物やモンスターと違い、相手がこの世界の人間の場合だと解体が発動せず、当然ながらその場に死体が残り続ける。
これも躊躇してしまう大きな理由の一つだな。
相手が極悪人だったとはいえ、初めてこの世界の人を斬り殺した時は、私も長い間それを引きずっていた。
その行為を、手に伝わる肉を裂く感触を思い出す度に、夜中飛び起きたり、食事も喉を通らなくなったりしたものだ。
この世界の住人に解体が発動しないのは、恐らく赤プレート堕ち──人殺しという行為に抵抗感が無くなるのを防ぎ、また、邪悪なる精霊の使徒へと堕ちる事を防ぐ目的があると、個人的に思っている。
ギルドで指名手配を受けている者への討伐処理に関しては、善良な人達を守る為の必要悪なのだろうと、最近ようやく割り切れるようになった。
そいつらは人ではない。理性を無くした害獣であり、その駆除を行うモノだと思う事にしている。
それにこの世界で生きている人達は、よく言われるNPCのような生易しいモノではない。
彼らをそう呼ぶのは失礼であり、烏滸がましい。
当然の事のように、この世界の住人も普通に生活を行い、街を移動する為に街道を旅している。
それは単に必要にかられての事だったり、商人達による隊商であったり、その理由は様々だ。
私達【円卓の騎士】がこの世界を現実と同等、すなわち異なる世界に来ているかのように感じているのも、この世界の住人の現実味のある行動や思想のせいだ。
彼らは私達と同様に喜怒哀楽を見せ、他者と意思疎通をこなし、日々の糧を得て生活を送っている。
そして出会った男女が共に愛し合い、子を産み、育み、国家という枠組みの中、次代に向けて歴史を作っている。
これだけ抜き出して見れば、至極普通の事だと思うだろう。この世界がVRゲームだという事実さえなければ。
他にもゲームとは思えない根拠がある。
未成年にはとても言えたものではないが、成人限定も含めた全てのコード解除を行った時点で、私達のこの身体も現実と同様の生理現象が発生するようになる。
それに伴い、今までそこにただ在るだけだった化粧室が意味を持ち、住人達だけが利用出来ていた娼館が私達も利用出来るようになったりと、なんら現実と変わりなくなるのだ。
更にはこの世界の住人を妻として娶り、子をなしたプレイヤーまでいると聞く。
それはどう考えてもゲームとしての枠を超えているように、私には思えるのだ。
そして当然ながら、色々な思惑や善悪が入り乱れるのは、彼ら住人とて変わりはない。
もちろん国家間のいざこざもあるし、善良な街の人へ牙をむく悪党も存在する。
この事から、我々の敵はモンスターやPKを行うプレイヤーだけでないという事を、肝に命じておく必要があった。
最悪なのは、赤プレートプレイヤーがそういった悪党を束ねて集団暴徒と化したパターンで、変に近代戦略知識がある分、厄介な存在と化す。
もしかしたら今回の件も……。
「見えたにゃ!」
ミアさんの叫びに、今必要のない無駄な思考を中断し、彼女が指差した河の対岸の状況を視認する。
木立の間から現れた河に沿って上流へと伸びる、私達が駆けるこの街道。それと平行するように、別方面から合流しようとするもう一つの街道が、この河の対岸にあった。
そのもう一つの街道とは、王都と里を直通で繋ぐ裏道だ。その街道にて、その光景は広がっていた。
──酷い有様だった。
周囲の木々が薙ぎ倒されて広場のようになってしまっているその場所に横たわるのは、車軸を壊されて燻った煙を上げながら横転している馬車。
その周囲には、武器を手にしたままで倒れ伏す森精種達。
恐らく馬車の護衛兵だったのだろう。
あちこちに倒れ伏す彼ら全員が既に事切れているのが、この位置からでも分かってしまう程、遺体の損傷が酷かった。
生き残りを幾重にも取り囲んで波状攻撃を仕掛けてくる襲撃者どもに対して、エレックをリーダーとした先遣隊メンバーは盾を翳し槍で牽制しながら、円陣を組んで防御に徹していた。
やはり戦いにくそうにしている。
当然だ。数人の使役系魔法師を除けば、彼らは全員騎兵なのだから。
これは間違いなく、この事態を想定していなかった私の編成ミス。
そもそも騎兵という職系統は、騎乗生物を操り突撃を繰り返すことで、機動力と攻撃力を最大限に発揮する火力型の職だ。脚を止め、誰かを守りながら戦うことに、全く向いていない。
馬を降りれば戦いやすくはなるが、特性と補正が消滅してしまうし、今度はその無防備になってしまう自分の愛馬を失いかねない。
前衛の陰で、回復能力を持つ召喚獣や契約獣と共に、術師達がまだ息のある被害者達の手当てを行っているようだ。
山賊達から放たれる矢や魔法が降り注ぐ中での治療行為は、かなりの危険を伴っている。それでも前衛の援護をしないでその行為を続けているのは、すぐ処置をしないと彼らの命が危ないからなのだろう。
近づくにつれ、その馬車の姿が分かる。
その車体には質素ながらも装飾が施されて紋章が刻まれている事から、地位のある人物が乗っていたのが窺えた。
しかもその紋章、見覚えがあるどころの騒ぎではない。
それは、このプレシニア王国所属の世界樹神殿の巫女や上級神官だけに使用を許可されている特殊な紋章。
色々な状況から推測するに、恐らくこの被害者はあの少女の可能性が非常に高い。
過去幾度か神殿や王宮で顔を会わせ、私を妙に英雄視して懐いているまだ年若い森精種の少女。
樹木の精霊の巫女。
フェーヤ=パァム=ファルナダルム。
恐らく王都からの帰還中に襲われたのだろう。
私の位置からは彼女の姿を、無事であるかどうかすら確認出来ない。苛立ちが募る。
くそっ!
無事でいてくれ。
「お頭! 対岸にまた新手だ!」
「はあっ? 今度はどこの……!? ぶっ、勇者だとぉ!?」
私を知っているか。
プレイヤーか?
スキンヘッドのいかつい顔をした首領らしき男を睨み付けると、目を凝らして〔看破〕のスキルを発動させる。
例え奴がプレイヤーでもこの世界の人間でも、今は関係ない。そして覚える気もさらさらない。
名前など無視して、出現したタグプレートの色のみを確認する。
やはり赤プレート。そしてプレイヤー。
私の仲間を幾重にも取り囲んでいる輩も、全てが赤プレートだ。この時点で、奴らの命は私の中で等しく価値のないモノと成り下がった。
「己の所業を悔いながら、黄泉路へと往け!」
気勢を上げ、背に担いだ愛剣を抜き放つ。
この状況に応じて、私を〔勇ある者〕たらしめている〔誓約〕スキルに組み込まれている〔弱者救援〕と〔窮地打開〕の条件が充たされ、自分の力が大きく跳ね上がるのを感じる。
他にも〔孤軍奮闘〕や〔悪鬼必滅〕など、力の解放に様々な条件が存在するが、今は二つも解放されていれば十分だ。
周囲を見やる。
二つの街道が合流する橋はまだまだ先だ。そこまで回り道している暇などない。
浅そうな場所を見つけた私は、躊躇いなく河へと馬を踏み入れさせる。
エレック達先遣隊も救援しに行く際に、強引に渡った筈だ。問題などない。
もし深いところがあれば、自分の足で跳び渡れば良いだけの事!
「け、牽制しろ! 奴をこっちに近寄らせるな! あと援軍の合図を送れ!」
エレック達へと展開構築していた魔法全てをこちらに向け直すと、弓兵達も手にした弓を引き絞り、タイミングを合わせて同時に放って来た。その攻撃を弾き散らす為の力を、己が闘気を剣に込め……。
「ピィイイイイィーーーーッ!!」
瞬間、声高に啼き叫んだ朱雀が数倍の大きさに巨大化、急降下してきて私の前方へと割り込み、滞空した。
放電を繰り返しながら朱金の輝きを纏った朱雀は、飛んできた魔法攻撃をあらぬ方向へと弾き飛ばし、放たれた矢を飲み込んで炭化させ分解していく。
凄い! 流石は聖獣の一柱!
何という力か!
「なんだそりゃぁああ!?」
奴らの首領の叫びが響く中、自分達に向かって突っ込んでくる大型車のような大きさになった朱雀のプレッシャーに耐え切れなかったのか、その進路上にいた奴らは全員、武器を放り投げて蜘蛛の子のように逃げ出し始める。
その朱雀の進路から外れている他の賊達は、逃げずに私へと矢を放ってきた。その矢から逃れる為、私は乗っていた馬の背を蹴って跳躍する。
その矢は主を背から失った馬へと次々に命中し、そして弾け飛ぶように一枚の穴だらけの札へと変じた。
「なっ!?」
思ってもみなかったのだろう。
虚を突かれ、弓兵達が呆ける。
アレは相棒が作り出した形代の馬だ。札さえあればいつでも呼び戻せるから、今は必要ない。
闘気を纏った足で、沈まぬよう水面を蹴り飛ばし、翔ぶように加速する。棒立ちになったその弓兵との間合いを瞬時に詰めると、その首を刎ね飛ばす。
「ひぃいい!?」
返す刀で、その後方で腰を抜かした魔法使い風の男へと斬撃を浴びせ、そのまま別の奴を袈裟斬りにして斬り捨てる。
「こいつら全員赤プレートだ! 気にするな!」
「──ほいにゃ」
何処からともなく、姿の見えないミアさんからの返事が反響する。
声の出所らしい方角へと目を向ければ、いつの間に攻撃したのか、逃げようと背を向けていた賊達の首筋や頭蓋に針のようなモノや苦無が突き刺さっており、奴らはそのまま前のめりで倒れ伏していく。
奴らの背後を疾風の如く駆け抜け、すれ違いざま一撃必殺の攻撃を繰り返す彼女の姿が、冷徹な眼差しに無表情と化した彼女の姿が、強化されている私の視力に辛うじて映る。
AGI特化のビルド構成か。それにしても速い。
自分の事を弱いと言っていたがどこがだ。相手にもよるが、こと対人戦において彼女に勝てる者がどれだけいるのか。
彼女が乗っていた白虎もその身軽さを生かして、完全に浮足立っている賊達の間をすり抜けるように駆け抜けている。
その動作の合わせるように振るわれる前脚。
男達よりも離れた位置で薙ぐように振り抜かれているが、血飛沫と共に男達の身体が上下左右にズレて分かたれる。
私でさえ見えない不可視の爪撃が、男達を両断していく。
そのまま飛び込んでいった朱雀は横転した馬車の上へと降り立っていた。
その場で大きく翼を広げるようにして、庇を作るように覆い被さり、いまだに降り注ぐ矢や魔法から馬車の側にいる者達を完全に守っている。
「お頭ぁ! あいつ等みないなくなってやがる! 勝手に撤退しやがった!」
「そんな馬鹿な!? あの野郎、話が違うじゃねぇか!」
話が違う?
こいつら何を言っている?
「アーサーさん! 今なら俺達も動けます!」
「頼む! 防衛組と攻撃組に分かれろ。逃げる奴は無理に追わなくてもいいが、首領だけは絶対に逃がすな!」
お頭と呼ばれていたプレイヤーを逃がさぬよう、一挙手一投足目を離さないようにしながら、先遣隊のリーダーであるエレックに指示を出す。
「はいっ!
俺のPTは攻撃を担当する。行くぞ!」
素早く指示を飛ばし、馬を駆るエレック達。
今までの鬱憤を晴らすかのような大暴れによって、山賊達は更にその数を減らしていった。
「……にゃふぅ。森の中に逃げた山賊達の処理は、全て終わったにゃよ」
「ありがとう。こちらも全て済んだ」
一人の男の襟首を手に持ち、そいつをずりずりと引き摺りながら森から出てきたミアさんにそう声を掛けられ、彼女を労いながら出迎える。
私達が参戦してからほんの十数分で、あっけなく戦闘にケリがついた。今この場に五体満足で立っている者は、もう私達しかいない。
奴らの首領であったプレイヤーは縄で厳重に縛られて目の前に転がされ、おかしな真似をしでかさないよう私自ら監視している。
「こっちも終わったにゃね?
で、こいつはさっきの連絡係にゃ。何か知ってそうだから、念の為生かしてるにゃよ」
「助かる」
「しかし思ったよりめんどくさい事態になったにゃね。大怪我を負っていまだに失神中の巫女様に側付き、助かった三人以外殺されちゃった護衛さん達。これからどうしたらいいもんかにゃぁ?」
そうボヤキながらも、転がる首領目掛けて手にした男を放り投げたミアさん。
気絶していたそのプレイヤーは、その衝撃に蛙の潰れたような呻き声を発した。意識を取り戻したようだ。
残党の処理が終わったのを見てとったのか、白虎と朱雀の二柱も私の近くへと寄ってきた。
「まあ細かい処理は後回しにしよう。本隊が来れば彼女もいるし、ちゃんとした治療を施せる筈だ」
念の為に、手持ちの一級ポーションを彼女達の頭部や傷口へと使っておいたから、ひとまずはこれで大丈夫の筈だ。これ以上は回復職でないと、詳しく分からない。
それに相手が女性だから、私では行える限界があるしな。
この場にいる動ける女性はミアさんだけだし、フェーヤの後見人であるあの方もまだ意識が戻らない。
「──さて、今の内に訊きたい事がある。話が違うと叫んでいたが、何の事だ?」
「ちっ……何の話か、言ってる意味が分かんねぇな。人にモノを訊ねる場合は、ちゃんと頭を下げて解りやすい言葉で話せとママに教わらなかったか? なぁ、勇者さんよぉ」
芋虫のように転がりながらも、ニヤニヤと人を食ったようなふてぶてしい態度を崩さないこの男に、ふつふつと怒りが湧くが何とか堪える。
「ふむ。プレイヤーにゃし、どうせ復活するからと考えてるにゃね……。随分とまあ余裕綽々にゃけど、その態度どこまで持つかにゃ?」
「……そこの猫女。何が言いたい?」
「こういう輩はどうせ拷問とかされるの嫌で痛覚ゼロ設定にゃ。痛みを怖がってるにゃん。僕ちん痛いのやだぁ~っていうお子様思考にゃ」
「くっ!? てめえ、ふざけんじゃねぇ! その顔覚えたぜ! 見えない影に怯えて暮らせや」
妙なくらい男を煽り始めるミアさんの対応に、私は先程まで感じていた怒りを忘れて疑問符を浮かべる事になった。
……が、続く彼女の言葉にその答えがあった。
「ほら、全く反省してにゃいようで。ま、こんくらいで反省するようなタマが赤プレートを続けてる訳にゃいからにゃあ。
ね、確認する必要にゃいでしょ。セイにゃん、結局判定は如何かにゃ?」
え?
「──ええ、もしかしたらと思いましたが。無駄な考え方だったと、今は痛感してます。取りあえず……そうですね。痛み以外の罰を受けて貰いましょうか」
「なっ、何だ?」
朱雀の口からセイさんの冷え冷えとした声が響き、片翼を男に指し示した。
「うごっ!?」
紫電が走ると同時にビクンと海老のように身体を跳ねた目の前の男は、小刻みな痙攣を繰り返し始める。
何が一体どうなっている!?
「朱雀にゃんのその能力って便利そうだにゃね。
意識同調に加えて、雷の精霊魔法も遠隔発動させれるって凄いにゃ」
「なんと。そんな能力が……って、いやいや待った待った。ミアさん、それをここで今話すのは問題があるのでは?」
「──いいんですよ、アーサーさん。どうせいつかはバレる事ですし、これはこれで牽制と抑止力になりますから」
ミアさんの代わりに両翼をひょいと上げ、その後片翼をちょいちょいと動かしながら朱雀……もといセイさんが返答する。
馬鹿でかい鳥の姿でそんなコミカルな動作をされると、やっぱり違和感が凄いな。
しかし……セイさんがずっと朱雀の中にいて、この現場を見ていたとは。恐らく初めての事だっただろうに、よくこの惨状を直視出来たものだ。
ただ、やはりというか。
彼女がこの男に向けるその声色は、抜き身の刃のようにとても冷たく鋭い。言葉の端々にも、抑え切れない怒りの感情が見え隠れしている。
悪意を持って人を傷付けてくるような人物をセイさんは必要以上に敵視していると、レント君から聞いていたが、その嫌悪っぷりは私の想像以上だな。
それに出来る限りでいいから見せないように、特に住人の悪党には関わらせないようにして欲しいと、今回の護衛選定の際にそうお願いされていたが、彼女自身がこのように首を突っ込んで来てしまってはどうしようもなかった。
しかしレント君の気持ちも分かる。
プレイヤーの犯罪者はともかくとして、この世界の人間の犯罪者の討伐……つまり人命を奪わせる行為を、彼女にさせたくないのだろうな。
硬い声を発するセイさんの動向を注視する。
このプレイヤーはともかくとして、隣で伸びているもう一人の男へと、手出しさせないようにしなければ。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、セイさんの尋問は続く。
「──首から下の運動神経のみを破壊しただけですので、口は動くはずです。さあ、話して下さい。あなた方は何を計画しているんです?」
「……何の事やら分からねぇな。美味しい獲物がいたから、思わず喰いついただけだぜ?
あーもうめんどくせえ。殺すならさっさと殺してくれねぇかな、掲示板のお姫様よ。どうせ一定期間牢屋入りくらうだけだしな」
白々しい返答を。喋る気はないという事か。
一連の流れを見ていれば、こいつも捨て駒にされたような感じを受けるが、意外と口が堅いな。
やはりもう諦めて始末するしか……。
「──反省する気も更正する気も全く無いようですね。良かったです」
「なに?」
「──あなたにはこれからバンジージャンプで楽しんで貰いましょう。ただし、紐なしで」
朱雀が男に飛び乗り、その鋭い鉤爪でガシッと掴む。
「──終わったらもう一度質問します。
ああ、もし掴み損ねたら、大人しく地面とキスして下さい。その場合は訊くの諦めます」
「ちょっ!? それ最初っから落とす気満々じゃねぇか!?」
想像してしまったのか、顔を真っ青に変えた男を無視して、朱雀はばさりと羽ばたき、空へと舞い上がった。
「まっ、待て! 頼むからやめっ……ひいいいっ!? 怖ええええええっ!!」
「ゆ~きゃんふら~い。立派な潰れたトマトになるんにゃよ~」
絶叫を上げながら空高くに運ばれていく男へと手を振りながら、どこからともなく取り出したハンカチで目元を押さえてよよよと涙をぬぐう真似をするミアさんを見て、私は思わず奴に同情してしまった。
奴のこれからに同情してしまったのは、一時の気の迷いだとしておこう。
しっかり牢屋で反省して、次はまともな人生を……いや無理だろうな、きっと。
本隊がこちらに向かってくる音を聞きながら、深く溜め息をついたのだった。