11話 おっきいの来ました
( ゜Д゜)ファッ!?日間ジャンル別4位にっ!?本当にありがとうございます。
今回エルフちゃんの戦闘シーンですが、全部を1人称にするのが無理でした。
てか戦闘シーンがやっぱりムズイです。何度修正したか……。
5/29 加筆しました。
「さてと、精霊魔法の実戦テストを始めよっと」
今までの成果から、精霊魔法は自分の思考を自然の中に描いて現実化する魔法だと、ボクは考えることにした。
もし考えている通りなら、練習するのは簡単かな。
余計な雑念を消し、大地の息吹きを感じとり、自然に溶け込む。
そして自分と自然を一体化させる。
昔祖父──聖お爺ちゃんに言われて道場でやっていた瞑想。
習っていた護身術は既にやめちゃったけど、これだけはいまだ続けている。
同じことをそのまま実行すればいい。
切り株に腰かけ、瞳を閉じて深く深く集中する。
カチリ。
歯車がはまり込むように、精神が切り替わった。
勝手に精霊眼が起動。
自然が色づく。
周囲には数多の精霊が視える。言うなれば、色とりどりなホタルの光。
ボクにまとわり着こうとしているのか、周囲を乱舞する。
まるでボクの存在に歓喜の声を上げてるようだ。
瞳を開いて立ち上がり、ボクは歩き出した。
セーフティエリアから出た途端、待ち構えられていたかのように襲撃を受ける。
〔気配察知〕が精霊眼と連動して、立体的に情報を脳裏に描く。
前方から狼2匹、左右斜め後方より各1匹、後ろ上空から1……これはフクロウかな?
精霊眼が情報を暴き出し、ボクに伝えてくる。
名 称:フォレストウルフ(獣)
状 態:正常
スキル:突進 噛みつき
弱 点:特になし
名 称:フォレストオウル(野鳥)
状 態:正常
スキル:急降下襲撃 引っ掻き
弱 点:特になし
問題ない。
精霊魔法を起動。
地面から生えた4本の石槍に狼は呆気なく貫かれ、フクロウは振り上げた右手から放たれた風の刃によって両断された。
その後も襲いかかってくる獣達を石槍や樹木の根で貫き、宙に浮かべた水弾で穿ち、風で刻み磨り潰してゆく。
「――ようやく慣れてきたかな?
これなら精霊魔法使いとしてやっていけるかも」
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──???──
もし他のプレイヤーがその場にいたならば、あんぐりとしていただろう。
初心者が北の森、しかも夜の森で非ダメで戦えている事の異常さと、その魔法の威力に。
北の森は昼間はレベル5相当の難易度と言われている。
だからこそ彼の兄は紹介した。
夜の森は入らないだろうと思い込んでいたから。
夜の北の森。
その難易度は跳ね上がる。
視界の悪さに加え、昼間は出ることない上空からのフクロウの奇襲と狼の群れを同時に対処しなければならず、かつ敵レベルも高い。
しかも、夜限定でエリアボスクラスの徘徊系ボスまで出るのだ。
よって推奨レベルは周辺エリアでは一番高く18になっていた。
勿論PTプレイ前提で。
特記することはいくつかあるが、彼の精霊魔法は異常である。
大抵のプレイヤーはここまで威力がでない。一般的なファンタジー世界であることが邪魔をして、よくある魔法の外面だけを真似し、イメージしてしまっているせいだった。
下手に他のプレイヤーの元素魔法を見てしまっているからかもしれない。
だが彼は想像だけの産物ではなく、身体の動作と連携したり、実際にあるモノの動作の物理法則をイメージすることで補っていた。
振り下ろす右手の手刀から繰り出される風の刃は、鋭き居合の抜刀。
回転を加えた水弾のイメージは、銃弾の回転と投擲ナイフの動作の組み合わせ。
地面から飛び出る石槍も槍の突き動作と回転を加えたイメージを。
当然ながらしっかりと根拠のある物理法則のイメージは、かなりの強度と威力をもって相手に襲い掛かった。
いくらビギンの街の周辺では敵が強いといっても、程度が知れている。
あっさりとHPを全損させて、光に変わっていく。
しかも同時に複数並列起動している。
幼い頃の組手が影響しているが、それとは別の要因の方が大きかった。
一般的に男性は同時に物事を複数考えるという並列思考を苦手としているが、彼はなぜか昔から得意としているからだ。
更に追い風になったのは、MPの消費の低さだった。
実は、他の精霊魔法士のMP消費量の高さの原因は、イメージの貧困さにある。
必要な強度と威力が足りない時は、MPを余分に消費させることで補おうとするシステムだったのである。
当然補助前提で組み込まれているものを、必要ないどころかそれ以上の強度で振るわれる彼の魔法。
彼は何も特別なことはしていない、と思ってる。
異常さに気付いていない。
ある意味質が悪かった。
本来以上の強度で連続して放たれる魔法を、どうして耐えられるのか?
フクロウは一撃離脱攻撃を得意とし、狼は集団で威力を発揮する個体な為、どちらも1体当たりの強さはない。
虐殺と言ってもいいレベルで、彼ら獣たちにとって森は屠殺場と化したのである。
森に狼の悲鳴と仲間に助けを呼ぶ声が響く。
むしろ仲間に「逃げろ」と言ってるのかもしれない。
だが、現実でもその身体的特徴から好奇の視線に晒され続け、その結果、周囲の気配に敏感になってしまった彼が、スキルの恩恵まで受けているのである。
逃げられず、発見され、殲滅される。
周辺500メートル圏内の動物すべてを把握するようにまで至っていた。
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調子に乗って討伐を繰り返していたら、やたらと大きな個体の反応を感じた。
しかも、こちらに向かってかなりのスピードで突撃してきてるっぽかった。
「大きいなぁ……ボスかな?」
逃げようとしても、すでに逃げ切れる距離じゃない。だけど、少しでも視界と場所の確保を優先する為、出来るだけ開けた場所に移動する。
あっという間に追いつかれ、ボクの目の前に躍り出てきたそいつ。
視線を合わせる。
名 称:ジャイアントウルフ(魔獣)ボス級
状 態:正常
スキル:突進 噛みつき 咆哮 爪撃 眷属強化(狂犬)
弱 点:特になし
魔獣だって!?
しかもでかっ!
子牛ほどの大きさのボス狼が、いきなり咆哮を上げた。咄嗟に風の精霊の力で空気の膜を作り、聴覚を保護する。
周りに残っていた他の狼たちの目が急に血走り、口からは涎が流れ出し始める。さっきまでのようなへっぴり腰な動作じゃない。
完全に正気を失った状態で、同時にボクに跳びかかってきた。
風の刃で全ての狼を迎撃。だけどその間隙を縫って、ボス狼が突撃してきた。
イメージが追いつかない。
狙われたっ!
杖で捌こうも捌き切れず、完全に力負けして右肩を噛まれ、地面に叩きつけられた。
「いっぅ!?」
顔に掛かる生臭い吐息。
肩口に走る鈍い痛み。
喉に近づいてくる牙。
現実と思うかのような恐怖。
ボス狼の腹を左掌底で打った。
態勢が悪く力が入るわけがないので、同時に風の噴流をイメージ。補助とする。
その結果、なんとかボス狼を右横へと吹き飛ばした。
そのまま地面を転がって距離を離し、その勢いのまま跳ね上がるように飛び起きる。
「ウオォォォォォーーーン!!」
「っなっ?」
こちらの起き上がりにボス狼が咆哮を重ねた。
風の保護を突き破って、咆哮が耳を抜ける。
身体がこわばり、急に力が抜けるような感覚。持っていた杖が地面に転がる。
その隙を逃さず、ボクを押し倒す勢いで再び猛烈な突進を繰り出して来た。
即座に、跳びかかってきたボス狼の側頭に手のひらを添え、それを支点に身躱す。
ボス狼は掌に込められた螺旋の風の渦に巻き込まれ、首が捻じれ着地のバランスを崩して頭から墜落し、自身の突進の勢いのまま地面を転がっていく。
「……何とかボクでも覚える事が出来た御陵流護身術・反攻型の一つ『螺旋』……この世界でも普通に通用して良かったよ」
レントの話を聞いて、ボクも身体バランスのアシストコードを外しておいてよかった。
とはいえ、時間をかけていられない。
ボクはレントと違って『武闘派』じゃないし、どっちかというと『避ける』『逃げる』『生き延びる』を重点に教え込まれただけだから、攻撃は苦手なんだよなぁ。
それに早く倒さないとボス狼の声に従って、再び新手が現れるかもしれない。
そうなる前に止めを刺さなければ。
噛みつかれたことで、ボクのHPは激減している。
視界の端のHPゲージはもうほとんどない。もう一度なんらかの攻撃を食らえば、確実にHPが吹き飛ぶ。
レベルアップ祭りに調子に乗って、BPを振り分けるのを後回しにしていたのが原因。自動で上がるHPやMP以外のステータスが、まだレベル1のまま。
よくこれで死に戻りせずに耐えられたなぁ。ホント。
MPも強引な使い方をしたせいかな?
一気に減少して、もう残りわずかだし。
さっき作った10級ポーションはあるけど、割合回復とクールタイムがある為、時間がかかりすぎて先に倒しきった方がいい。
今まで余裕過ぎたのが、逆にあだになったかな。
こまめにBPは振っていかないと。反省反省。
「さてっと、あとは止めかな?」
独りごち、落としてしまった杖を拾う。
死に戻りも覚悟したけど、ボス狼はさっきの一手で首と頭に致命的なダメージを負ったようだ。
立ち上がろうとするたびに脚に力が入らず崩れ落ち、ふらふらして一向に立ち上がることが出来ない。
回復する前に一撃で決める為、魔力を練り直し、風の刃で首を刎ねたのであった。
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《ASの知識の何故?何?TIPS》
●徘徊系ボス
特定の条件のもと出現するボス級モンスター。
大抵がエリアごとに設定されているフィールドボスよりも強い。
中にはレイド級と呼ばれるモノもいるとか?
そのかわり討伐できれば、報酬が通常よりもはるかに多く実入りが多い。
『北の森』の徘徊系ボスは〔ジャイアントウルフ〕であり、夜限定/狼討伐100匹以上/フィールド滞在時間3時間以上(セーフティエリアを除く)の条件を満たした時のみ出現する。
個体としてはさほど強くはないが、眷属強化からの集団蹂躙戦を行う事を得意としており、第1陣の時は出現条件がわかってないプレイヤー達の前に恐怖とともに現れ、始まって間のない連携不足なPTを多数死に戻りさせた。
今回も満を持して登場したが、あっさりと眷属を全滅させられた挙句、エルフちゃんに首ちょんぱされたかわいそうなボス。