107話 イベントの結果は?
「さて、これより本題。
──まずは表彰から。全並行世界総合個人の部門でセイが第一位を獲得。おめでとう。ぱちぱちぱち~♪」
「……はい、ありがとうございます」
自分の事のように嬉しそうな表情で手を叩くエターニア様。
そんな彼女とは対照的に、なんだか疲れきった気の抜けた声になりながらも、ボクは何とかそうお礼を返していた。
感応石などの映像越しではなく、こうして実際に向き合ってみると、床(?)から少し浮いていることを考慮しても、ボクと同じくらいの背丈しかなく、そしてとても可愛らしい精霊だ。
純白の生地をベースに、淡い空色を始め青色系のフリルがふんだんに使われたドレスを纏い、金色の髪を兎の耳のように結って長いツインテールにしたこの女王様は、どちらかというとその言動も相まって、着飾られたお年頃のお姫様にしか見えない。
きっとエフィと並んで手を繋いだら、親子じゃなく姉妹にしか見えないだろうな。
もちろんエターニア様が妹の方ね。
しかもあのミィンの町の感応石の画像越しで見ていたエターニア様と違い、えらく感情豊かで、さっきからずっとニコニコ顔。
前にエフィから聞いたんだけど、エターニア様って極度に緊張しちゃったり不機嫌だったりすると、棒読み口調になったり、つっけんどんな様子で態度を硬化させたりするらしいから、今はとてもリラックス出来ているんだろう。
つまりこれがエターニア様本来の素の性格ということになるのかな?
「もちろん第三八世界の個人一位は言わずもがな。団体の一位もセイチーム。三冠独占おめでとう」
いや、レントチームだから。
ボクはリーダーじゃないです。
「流石ご主人様だね~」
「お兄様なら当然の事です」
右腕にティア、左腕にカグヤ。
どこまでもボクをヨイショしようとしてくるこの二柱。
機嫌が直るどころか、それ以上にデレデレのふにゃふにゃになってしまい、さっきからボクの腕にしがみついたままで時折頬擦りしてくる。
そんな状態の彼女達と触れ合っているのに、こうしてボクが何とか素でいられるのは、さっきまでの記憶をとりあえず頭の片隅に追いやる事にして、今もずっと意識を別の事に逸らしているからだ。
そうでもしないとさっきの行為の恥ずかしさが込み上げてきて赤面してしまうし、テンパって頭が回らず、会話が頭に入ってこなくなっちゃう。
だいたい今だって、まともに二柱の顔も見れないんだよ。
それに今更なんだけど。
今回の一位入賞は努力した結果が認められた証であり純粋に嬉しいんだけど、これまた派手に目立っちゃったなぁ。
しかし何で一位取ったくらいで、こんな個人面談みたいにエターニア様と向き合う事態になっているのだろうか?
「あの、今更なんですけど、この狭間の世界にボクだけしかいないのは何でですか?
それに他のみんなは?」
「他の人? そっちはまとめてディスティアに転送処理を押し付け……お願いした。多分もう元の世界に帰ってるはず」
……あの?
今聞いちゃいけない台詞が聞こえた気が?
「生セイに会いたかったから、女王権限と力を使って拐……精霊島に別空間を創り出して特別招待した。他意はない」
「職権濫用!?」
しかもこの精霊拐かすって言いかけたよ!?
それより生って何っ!?
「女王やってると気苦労が多いの。たまには好きな事して羽を伸ばしたい。それに……こんな機会でもないと、そうそう本体で会えない。精霊島から動けないから」
精霊島?
また知らない単語が出てきたよ。
普通に考えると、上級精霊達の本拠地なんだろうけど、一体どこにあるんだろう?
今エターニア様やティアに訊いても多分無駄なんだろう。秘匿されているだろうから、答えてくれないはず……。
ボクが疑問符を浮かべているのを見て取ったエターニア様は、ボクの様子にこてんと小首を傾げ、そしてようやく気付きましたと言わんばかりにポンッと手を打った。
「んっ。精霊島というのは私達の本拠地であり、空に浮かんだ浮島のこと。常に世界を巡っている」
「えぇっ!? そうもあっさり言っちゃっていいんですか?」
けろりとあっさり気負いもなく暴露した事に、ボクは思わず突っ込む。
気遣いとか、お約束をあっさり無にしてくるな。この精霊。
「セイとその親しき縁者なら構わない。女王の名において、情報の記憶と伝達を許可する。
ただし不可視の結界がある上、今何処に島があるかは、普通の人は分からない。視えるのは私が許可した者か、力ある者のみ。今は始まりの街の上空にあるけど」
そりゃそうか。
なんかボクの事を普通の人扱いしなかったみたいに思えたけど、そこはスルーして聞きたかった本題に入る。
「ところでエターニア様。訊きたいんですが」
「何?」
「一位の特典ってどんなんです?」
「……セイ。創造神様の伝達文読んでない?」
「いや、その……。
──そもそも一位なんて取れると思ってなかったので、全く見てません」
ジト目になったエターニア様から目を逸らしながら、そう言い訳をする。
面倒くさかったとは言わない。
「全く……この愛し子は……」
彼女の口から微かな音がもれる。
頬に手を当て呆れられながらも、教えてくれた。
「個人褒賞は二つ。全体と各世界ごと。戦績や功績に応じたアイテムがどっさり。それと称号。なるべく多くの人にいい褒賞をと、総合よりも各世界ごとの方がおいしくなっている。
あと団体褒賞だけど、こちらは一位になれば決戦投票に移る」
「決戦投票?」
個人は分かったけど、団体の決戦投票って何?
「各世界の一位のチームは、創造神様の手によって映像化され、ギルドを通じて全旅人に配信される。そこで投票戦が行われて、最終的に全四十ある平行世界の頂点が決まる」
とどのつまり、それは動画かな?
へえ、じゃ一位のパーティーの功績が動画として世界に配信……。
理解が進むにつれ、嫌な汗が流れてきた。
「あ、あの……それって」
「そこでも一位を取れば、セイの勇姿と功績があなたが来た別世界のお茶の間にも流れる」
「やっぱりぃ!?」
お茶の間って言わないで!
つまりあんなこととか、こんなこととかがPV化すると!?
川原での出来事や宿の出来事が脳裏を過る。
あんな恥態が配信されたら、生きていけません!
「大丈夫。えっちぃのは無し……と思う?」
「全っ然! 安心出来ませんっ!」
顔を真っ赤にして、思わず叫ぶ。
「な、内容はっ!? 今から作るんでしょう!? なんとかその作成に介入して待ったを……」
「クリア申請された時にダブルスコアでぶっちぎりだったし、もう既に創造神様作られていた。私まだ見てないから、内容は何とも言えない。私も楽しみにしてる」
「じゃ、褒賞いらないから直ちに棄権……」
「投票戦ついさっき開始されたよ?」
「はうっ!?」
遅かった!?
「今までは〔勇なる者〕と〔聖者〕の二人チームばかりが優勝してたから、新たなヒロイン誕生に創造神様大喜びされてた」
「ヒロイン違います!!」
せめて男扱いしてよ!
……まさか男バージョンのシーン全削除して、女の子のシーンばっかり入れてるんじゃないだろうね? もしそんな事されてたら、ホント泣きそう……って、あれ?
──よく考えてみたら、初日の寝ている時以外全部精霊化していたような……?
ああ……これ終わった。
「映像は既にギルドで公表されているし、そちらを確認して?
それとセイにも投票権利あるから、忘れないように。ささやかながらプレゼントがある」
「……はぃ」
はぁ、もう回避は無理っぽい。
確かに全く確認しないまま、みんなと一緒がいいと、気軽にランキング戦の参加を決めちゃったからなぁ。
しかしそれとは別に、今回の結果に少し気が重い。
あのティアの時、坑道の結果であれだけ言われたんだ。今回はどれだけ言われるんだろう?
そう考えると、【円卓】の二人って凄かったんだね。首位を取り続けて、多くの同郷者の色々な思惑や害意がぶつけられても、その矢面にずっと立ち続けているんだから。
「……ほら、元気出す」
ボクが悩んでいるのを見てとって、ボクの目の前にいたエターニア様がスッと消えた。瞬間移動したのか、ボクの背後から現れたエターニア様はそのままボクの背中にのしかかるように抱き締めてくる。
「え、エターニア様?」
「何を悩んでいるのか知らないけど、胸を張って堂々と帰るといい。セイはこの試練を見事乗り越え、最高の結果を叩き出した。誰がなんと言おうとも、女王がその功績を保証する」
顔を寄せ、ボクの耳元で囁くようにそう宣言する。
「わ、私も保証します」
「うん、そうそう。私達のご主人様は世界一だから」
そんな温かな言葉を掛けてくれる精霊達に。
「ありがとうございます」
そう心から感謝の言葉を伝えた。
「んっ♪」
嬉しそうに一声頷いたエターニア様は、再びボクの目の前へと空間を跳んだ。
「──では、あなたを元の精霊世界へと転送する。さあ、手のひらをこちらに出して……」
その言葉にそっと差し出したボクの右の手のひらに、エターニア様もそっと前に左手を出して手のひらを合わせてきた。
そして柔らかく微笑んだ彼女は、お互いの指と指を絡ませるように手を繋ぎ。
「王都へ旅立つ前、しっかりと準備をすること。そして、必ずエルフの里へ立ち寄ること。そうすれば、今のあなたに必要なモノがきっと見つかるはず……」
繋いだまま腕を曲げてボクに顔を寄せ、再びボクのおでこにそっと唇を落としてきたエターニア様。
「──あなたに精霊の導きを」
そのまま祈りを捧げるように、その絡んだ手に右手で包み込むように重ね合わす。
「御子たるあなたにはこれからも気苦労をかけるとは思う。この先何があったとしても、私を始めとして、全ての善なる精霊があなたの味方である事を心に留め置いて欲しい……」
エターニア様の声がだんだんと遠くなる。
それと同時に段々と何故か眠気が湧き起こってきて。
……あれ?
何で……眠……く……?
「──必ずどこかでまた……元気で……」
そして浮遊感。
──無事でいて……。
薄れゆく意識の中で。
電子音と共に、今まで止まっていた試練クリアアナウンスが、次いでシステムアナウンスが響いていた。
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《プレイヤーの皆様。第三回運営主催の試練クエスト〔あの山を越えて逝こう〕はいかがでしたでしょうか?
クエスト内で発生する事象への〔行動値〕及び〔貢献度〕のポイント集計結果に基づいて順位が決定し、メールにて褒賞が付与されます。
また各順位は冒険者ギルドにて閲覧可能となりますので、ご確認のほどよろしくお願いします。
採点内容の詳細はメール及びヘルプガイドをご確認ください》
『試練クエスト〔あの山を越えて逝こう〕をクリアしました。
サーバー〔第三八世界〕個人成績一位を獲得しました。
全サーバー総合個人成績一位獲得しました。
サーバー〔第三八世界〕団体戦を一位通過しました。
詳細はメニュー及びヘルプガイドをご確認ください』
『サーバー〔第三八世界〕個人成績一位を獲得をしたことにより、褒賞が授与されます。
称号〔第三回各サーバー個人一位〕を獲得しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『全サーバー総合個人成績一位を獲得をしたことにより、褒賞が授与されます。
称号〔第三回総合個人一位〕を獲得しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『サーバー〔第三八世界〕団体戦を一位通過しました。事前申告に則り、サーバー対抗PV決勝戦へ進出しました。
投票に使用するチケットを取得しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『精霊の女王永遠の精霊と盟約が交わされました。
称号〔精霊女王の加護〕及び〔女王様のお気に入り〕及び〔精霊女王の許状〕を取得しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『雷鳴の精霊との盟約が女王の承認を得て上限突破しました。
称号〔雷鳴の精霊のお兄様〕が〔雷鳴の精霊の最愛のお兄様〕へと変化しました。
称号〔雷鳴の精霊の寵愛〕が〔雷鳴の精霊の深愛〕へと変化しました。
〔精霊化〕の秘技〔雷精の侍獣巫女〕の性能が限界突破しました。
雷精の加護衣の性能が向上しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『月の精霊との盟約が女王の承認を得て上限突破しました。
称号〔カグヤのご主人様〕が〔忠犬(?)カグヤのご主人様〕に変化しました。
称号〔月の精霊の寵愛〕が〔月の精霊の深愛〕に変化しました。
〔精霊化〕の秘技〔月精の寵授巫女〕の性能が限界突破しました。
月精の加護衣の性能が向上しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
『称号〔精霊ホイホイ〕を取得しました。
詳細はメニュー及びメールにてご確認ください』
この章もようやくあと数話……どんどん増えちゃって困りました。
あの人の視点話をやって掲示板、最後にまとめになる予定です。
2018/10/15 語呂が悪い為、〔○○の真なる愛〕→〔○○の深愛〕に変更しました。