106話 狭間で兎は何を想う
「お兄様、あと少しでこの世界とお別れですね」
「そうだね」
広縁に置かれた長椅子に座っているボクの隣に座り、腕を絡めてしなだれかかってきたティアの言葉に同意する。
「あと十数分で日付が変わって終了かな。どうなるんだろう?」
「よく分かりませんけど、順位はお兄様が絶対一番ですよ。断言します」
「あ、うん。ありがとう」
ティアからの信頼と好意が凄い事になっている。
嬉しい反面、きちんとそのティアの想いに応えることが出来ているかどうか不安にもなる。
ボクの自己評価でいえば、まだまだ至らないところも多々ある。これからも頑張っていかないとね。
今この場には、ボク達ふたりの他に誰もいない。
さっきまではみんないたんだけど、この広縁から天空に輝く月をティアと見上げ話しているうちに、一人、また一人と退出し、最後にはボク達だけになった。
ボクの中にいるカグヤもずっと無言のままだ。
このイベントが始まり、あの月夜の戦闘が終わってから、いや一昨日のあの事件から、みんなは気を利かせているのか、すぐにティアとふたりっきりにしようとしてくる。
今朝も、「一緒にいてちゃんと心のケアをするように」と、ユイカにそう言われたばかりだ。
確かに今回かなりの負担をかけちゃったし、ボクもティアにはずっと笑っていて欲しい。
みんなの心遣いに感謝を捧げながら、最終日の今日、日付が変わるのを待っていた。
イベントが始まる前、つまりティリル達が合流してから今日までの短期間に、幼馴染二人に大きな心境の変化があったようだ。ボクや周囲に対する反応が、かなり変わったように思う。
現実世界では必ず一歩引いた立場で、常にボクと結衣の仲を取り持とうとして、ボクへの恋心を必死で押し殺そうとしていた美琴。
本人はずっと隠し続けようとしていたのだろうけど、恋心は日を追う毎に抑えきれなくなるほど大きく膨らみ続けたのか、ここ最近は誰の目から見ても分かってしまうような状態になってしまっていた。
それでも必死で隠そうとしていた彼女に、ボクもどう対応していいか分からないまま、本人の気持ちを尊重して気付かないフリをするしかなかった。
当然ながら、結衣が気付かないわけがない。どう思っていたのか、何をしていたのかも知らない。
けど何かがあって、またどういう心境の変化があったのか、この世界で出会ってからは、内に秘めていたその想いをボクへと少しずつ吐き出し始めた。
ここ最近ボクとの身体的接触がかなり増え、更に寝床に潜り込むようになったのなんて、その最たる例だと思っている。
そしてユイカはというと、事あることに引っ付いてくるのはいつもと変わらないんだけど、どう言えばいいのかな?
ちょっと酷い言い方になるけど、以前とは違って、ティリル以外の他の女の人を排除しようとする攻撃的な雰囲気が減ったように感じた。
逆にみんなのまとめ役みたいな立場を確立して、自分に賛同する仲間を増やし、ボクの周囲を固めようとし始めてる気がする。
それが良い事なのか、駄目な奴なのかは分からないんだけどね。ただ今回のように、ティリルもティアもカグヤも……その、みんな恋人にしろと暗に言われてるみたいでちょっと落ち着かない。
それ自体は嫌じゃないんだ。ボクなんかを好いてくれている、好意を持ってくれるというのは、とても嬉しい。
ここにいていいんだと、とても幸せな気分になる。
だからこそ、ふとした時に悩む。
傷付けないように、このままどっち付かずの方がいいのか、と。
たとえ傷付け合っても、白黒きっぱりした方がいいのか、と。
それに相手を意識した時には、ボクにとって既に大切な存在になってしまっているからこそ、ずっと傍にいて欲しいと思ってしまって。
もう自分から拒否出来なくなってしまう。
いくら何でもそんな不誠実な事を続けていれば、やっぱり相手を傷付けてしまう。みんな離れていってしまう。
その事に底知れぬ恐怖を感じて、一体どうするのがいいんだろうと思ってしまうんだよ。
昔中等部に上がりたての時、料理クラブの仲の良かった先輩がボクの頭を撫でながら言った言葉をふと思い出す。
──理玖君はうさぎ系男子みたいなところが少しあるわね。黒じゃなくて白い方のうさぎだから、余計困っちゃうのよ。
黒とか白とか。
正直いまだに意味がよく分からないんだけど、『うさぎ』というこの言葉が示している通り、きっと自分で思っている以上に、さみしがりやな人恋しい一面がボクにはあるんだろうな。
だから矛盾を抱えながら、全部受け入れちゃうんだ。きっとそうだ。
ホント二人のどちらかが異性ではなく、樹のように同性だったら気が楽だったのになぁ。
そう思う事がたまにある。
だけど、それは言っても仕方がないことで。
いつものようにそう悩みながら、ずっと月を見上げていたんだ……。
昨日の会談はレントが予想した通りだった。
あの領主代行の女性は、エインヘリア帝国、ひいてはこのルーンヘイズの街にボクを勧誘したかったようだ。
彼女から「精霊王女様の神殿を建てさせていただきますので、就任していただけませんか?」と言われた時には、やっぱりこうなったかと思った。
あまりに予想通りだったので、レントが用意した回答をそのまま用いて断りを入れた。まあ向こうもダメ元で訊いたみたいだったから、特に揉める事なく、綺麗に断ることが出来てホッとした。
念の為に「体調を整える為一週間は滞在します」と、先方に伝えた。こうしてイベント終了までの安寧を確保した上で、権力者との初めての会談は終わりを迎えた。
別に影響がないからといって適当にしても良かったんだけど、今後のケースとして、誘いを断ることが多くなりそうだから、その練習をしておいた方がいいという結論になったからだ。
自分では、何とか上手くこなせたとは思う。最初の挨拶で、ボクと言いかけて噛みそうになったこと以外は。
そう言えば、と。
あの日の夜、レトさんとミアさんがボク達のクラン【精霊の懐刀】に入りたいと言ってきた。
あの二人ならどこのクランでも引っ張りだこになりそうなのに、ボク達みたいな弱小クランでいいのか心配になり、確認の意味でもそう聞いてみたんだけど、絶対にここがいいらしい。
同じ場に居合わせていた幼馴染三人とも了承したし、ボクからも是非お願いしたい。送られてきた申請に同意する。
きいてみれば、今までどのクランに所属した事がないそうで、「色々教えて下さい。お世話になります」と畏まって頭を下げてきたレトさんに、慌てて顔を上げるように言った。
第一弾からこの世界で暮らしてきた二人だ。色んな所に行ったのだろうし、むしろ教わるのはボク達の方だ。
こちらこそよろしくお願いしますというボクの言葉と同時に、お互い頭を下げ合い、そして顔を見合わせ、つい可笑しくなって笑い合ったりもした。
王都へ向かう前に、本当に心強い仲間が出来て嬉しかったな。
そして今日は一日ゴロゴロと、この旅館に缶詰めされて過ごす羽目になった。
何故かというと、みんなから外出を禁止され、またスキルが封じられている為に、本格的にやることがなくなったからだった。
スキル封じられても料理くらい出来るんだけど、この宿じゃ調理場所がなかった。あの見事な庭園でバーベキューとかするわけにもいかない。
仕方なくこっそりと監視の目を盗んで買い物に出掛けようとすれば、ボクの中にいるカグヤからティアへと念話が飛び、ティアからみんなへと情報が伝わって取り囲まれ、連行されて連れ戻される始末。
ちょっとみんな連携良すぎない?
まだ見ぬ食材がボクを待ってるんだよ。まだまだ買い足りないのに……。
戦えないのに出掛けてまた何かの事件に巻き込まれたらどうするのと叱られ、それでも出掛けるなら派手な馬車でこの街の守備兵の護衛付きじゃないと駄目と言われ。
冒険者ギルドへ出掛ける義兄さんと姉さんにお金を渡し、ほぼありったけ買ってくるように頼むしかなかったんだよね。
元の精霊世界に帰れば、封じられていたスキルも復活する。ストレス解消として思う存分料理でもしようと諦め、また時差の影響がありそうだしということで、夜までふて寝していたんだ……。
──という訳で、今は全く眠くない。
ティアを始め、みんなもボクの周りで寝ていたから、今もまだ元気なはず。
この世界が消えた時、自分の持ち物じゃない浴衣がどうなるか分からないから、念の為に本来の月精の加護衣に着替えている。
ティアもいつもの服装だ。
メニューにある時計を見ながら、ティアとふたりで大晦日の年明けカウントダウンのように数字を刻みながら、待つこと数十秒。
──そして日が変わる。
開始時と同じく、キィンッと甲高い音が夜の静寂を破った。辺りから聞こえていた鳥の鳴き声や風のざわめきが消え、ボク達の周囲に虹色の光が立ちのぼる。
そして周囲の景色がまるで解けていくように、揺らぎ、消えていき……。
──チュートリアルで訪れた真っ白な空間に切り替わった。
そしてボク達は。
──ふたり仲良くその場に転がっていた。
長椅子にもたれていた体勢からいきなり放り出された為、ふたりとも見事に勢いよく後ろにひっくり返ってしまったのだ。
「いつぅ……」
「……はうぅ」
ゴンッっていった! ゴンッって!
めちゃくちゃ痛い。床も天井もない空間なのに、何故か後頭部をまともに打ちつけたじゃないか。
それに〔健常状態固定〕が解除されている。痛む頭に手をやると、ちょっとたんこぶが出来始めているようだ。
「……あぅ」
「ティア大丈夫?」
隣で頭を押さえて蹲っていたティアを、ボクは膝を崩して座り込んだ体勢のまま抱き寄せて、その頭をそっと撫でる。
「──じー」
あ、ティアの頭にもたんこぶ発見。
「ほらほら、ティア大丈夫? いい子いい子、痛くない痛くない……」
「……あ♪ お兄さまぁ~もっと♪
もっと、撫で撫でして欲し……いっ!?」
「──じぃー」
何故かボクの背後を見て固まったティアを不思議に思いながらも、その頭を撫で続ける。
このイベントのリザルト空間は個別のようだし、ボクとティアしかいない。
すっ転んだ恥ずかしい所を、誰にも見られずに済んで良かった……。
「じぃーじぃー」
──だからなんだよ?
さっきから口に出して、じーじーうるさ……。
……。
……え?
やっぱり誰かいるの?
「──誰?」
慌てて振り向けば。
「ん♪」
そこにはしゃがんで膝に頬杖をつきながら、至近距離でこちらを興味深そうに眺めるウサギ耳のようなツインテールをした少女が……って!?
「精霊女王様!?」
あまりにお互いの顔と顔の距離が近いため、思わず仰け反りながら、わたわたと後ろにずり下がった。そして、一体どうしてここにいるのかと問うためにエターニア様へと視線を向けて……瞬時に真っ赤になって固まってしまう。
何故かというと。
その……丸見えだったから。
エターニア様が着ているフリルドレスのスカートは二重構造みたいになっていて、前側は膝上までしかないデザインだ。
そんなスカートでハの字に脚を開いてしゃがみ込んでいるせいで、大事な場所が全く隠れていない。その本来見えてはいけないスカートの中の全てが、ボクの視界いっぱいに広がっていたからだった。
この精霊いったい何考えてるの!?
近くではっきり見てしまったエターニア様のスカートの中。
白のストッキングを吊り下げているガーターベルトや、僅かに覗く小さなおへそは全く隠れていない。その奥にある下着だけを隠す細く疾る一条の光のせいで、カグヤの時と同じように何も履いていないように見えてしまう。
いや、ガーターベルトやおへそが見えてしまっている分、逆に悪化している。
だからこの謎の光システム、いい加減何とかしてよ!
これじゃ下着見えた方がまだマシだって!
真っ赤に火照る顔を横へと逸らし、尻もちをついた状態から立ち上がろうと……。
「えいっ♪
……ねぇ、何で逃げるの?」
今度は逃がさぬとばかりに飛び付いてきて、ボクの頭をぎゅっと胸に抱き抱え、耳元でそっと囁いてきた。
「ほら、いい子、いい子。痛くなーい、痛くなーい」
そして、さっきボクがティアにした事を真似をして、ゆっくりとボクの頭を撫で始めて。
あんまりな事態に目を白黒させていると、挙げ句の果てに。
「んぅー……チュッ♪」
ボクの前髪をかき上げて覗き込んで来たと思ったら、顔を寄せて額に口付けをしてきて……!?
「うわっ!?」
「ん……ぅー?」
ようやく硬直が解け、恥ずかしさのあまり咄嗟に振りほどいて離れたボクを見て、キョトンとしたのち首を傾げたエターニア様。
「……もしかして、私嫌われてる? 嫌……だったの?」
ボクの態度を悪い方にとらえてしまったのか、その目にうっすらと涙が浮かんだ。
それを見たボクの胸中にすさまじいほどの罪悪感が生じてくる。
「ち、違います! 恥ずかしかっただけです! 嬉しかったです! 御馳走様でし……じゃなくてっ!?」
ぐぅっ!?
なに口走ってるのボクは!?
「あ、ありがとうございました」
「ん♪ 良かった。一度やってみたかった。それと……」
にこりと笑ったエターニア様がボク達に手をかざして、
「──時よ戻れ」
その言葉に、頭の物理的な痛みが完全に消失した。
なにこれ凄い。
これって、怪我を負う前の状態に時間を戻した?
「あの、それで治るなら最初からそれをし……」
「嫌。撫でたかったの」
「……はぁ。でも、だいたいどうしてここにいるんです?」
喋っている途中で頭を振りながら答えたエターニア様に、不敬だと思いながらも溜め息がもれた。
脱力しながらも訊いたその問いかけに、よくぞ訊いてくれましたと言わんばかりに、ニコッと満面の笑みを浮かべ。
──あ、なんか既視感。
「直接会ってみたくて。
……来ちゃった♪」
えへっ、と無邪気な笑顔を見せるエターニア様に、収まっていた頭痛がぶり返した。
うわぁ、やり口がエフィとおんなじじゃないか。
やっぱり親子だなぁ。
「──じょっ、じょじょじょ女王ちゃまっ!?
お、おおにいちゃまに、い、いいまさっきにゃにをぉ!?」
そうこうしているうちに、ようやくティアの硬直が解けたようだ。
けど代わりに今度はあわあわ言いながら、完全にパニックになってしまっている。全く呂律が回っていない。
「んぅ? 『レクティア』もいっぱいすればいい。あと今度は寝てる時じゃなくて、ちゃんと起きてる時にしてあげること」
「ひゃいっ!? にゃんでばれてぇっ!?」
へっ?
寝てる時じゃなくて、起きてる時?
「……ティア?」
「わ、わぁああっ! にゃんでもにゃいでしゅっ!」
顔を真っ赤にして凄まじく噛みまくりながら、手をぶんぶん振り回すティアの様子に、何となく事態を察した。
な、何したのこの子!?
まさか……いつからなの?
『セイ~。ティアってずるいんだよ。私が参加出来ないのをいいことに、二日前の夜一人で何度もチュッチュッしてたんだもん。ズルいズルい~』
「でも唇の横までしかしなかったあたり、『レクティア』もヘタレ?」
「ふええぇぇん! やめてぇ!!」
ずっと黙ったままだったカグヤが突如参加して暴露してきた上、エターニア様にそんな事まで指摘されて両手で顔を覆って悶え始めるティア。
二日前というと、あの【リア獣】事件の後か!
うわぁ、これはヤバい。顔から火が出そう。
どうすんのこの状況?
収拾がつかなくなってきた。
あーもう、これじゃ何しに狭間に来たのか分かんないよ。
「ん、『セレーネ』は前してたでしょ?」
「……え?」
『まだ一回だけだよ。やっぱり何度でもしたいよ』
「か、カグヤ様? 何を言って?」
『真名と同時に初めてのチュウをご主人様に捧げたんだけど、それからまだ一度もしてくれないんだよ。
ねぇねぇ、ご主人様~。二度目はいつしてくれるの?』
「なら待たずに『セレーネ』の方からするといい」
『あ、そっか。じゃ今晩でもしようね』
ひぃいい!?
こんな状況で、なんて会話しているの!?
「……お兄様?」
そのカグヤの念話に、今までの事が嘘のようにぴたりと動きを止めたティア。ガシッとボクの襟首付近を掴むと前後に揺らし始めた。
「あの時ですか!? 朝カグヤ様の匂いをぷんぷんさせてたあの時ですかぁっ!?」
「ちょ、待っ……!?」
「その通り」
「なんでエターニア様がどや顔で答えてるんですか!」
てか、どこまでボクの事見てるんだよ!
「ちなみに狐の娘が初めての宿泊で寝込みを襲って以来、定期的に唇奪ってるのも知ってる」
「ぶっ!?」
初めての宿泊って、いつ……あ、まさかミィンの町に旅立つ前日?
あの時か!
「……マーキング?」
「し、知りません!」
ユ、ユイカ!
何やっているんだよ!?
このあと時間は掛かったけど、ひとまず場を落ち着かせる事が出来た。
そしてこの空間に来てからスキルが復活しているのを見て、まずは精霊化を解除する事にする。
それで五日ぶりにようやく男の姿に戻れたんだけど、あまりに長く変化し過ぎていたせいか、少し違和感を感じていた。獣人種の姿から森精種に戻ったせいかもと思いながら、とりあえず元に戻れてホッとする。
また、カグヤもちゃんとエターニア様に挨拶した方がいいと思い、カグヤを顕現化したのがつい先程のこと。
で、次にした事といえば。
最後にユイカの事を持ち出したエターニア様のせいで二柱が完全に拗ねてしまい、あの手この手で宥めていたのである。
だけど当然の如く、なかなか機嫌を直してくれなかった。
彼女達曰く「ユイカだけ何度もズルい」らしい。
困り果てていたらエターニア様がいい方法があると言い出したんだけど、それが「愛を囁きながら仲直りのキスをする」という斜め上な提案で。
けど、それに飛びつくように二柱が同調してきた。
そもそもキスしてと言われるのは、昔よく結衣にせがまれる度にしていた時以来だ。
しかもそれは小さい頃の話であり、ボクのラブラブな両親の真似をするように結衣にしていただけで、その行為の意味をよく分かってない時の話である。
それ以外では、その……事故──つまり寝ぼけた結衣に襲われ組み伏せられて唇を奪われたのが一度あるくらいで……。
でもまさかこっちの世界では、寝ている間にそんな事が起こっていたなんて思ってもみなかった。
いやこれは二柱に発破をかける為のエターニア様が作った嘘じゃないのかと、正直疑いたくもある。
「好意を寄せてくる女性を心身ともに満足させるのが、この世界の男性の必須技能であり義務。唇を奪うくらい序の口。さあ二柱の唇にむちゅっと、熱くねっとりと情熱的な接吻を」
「そ、そんな恥ずかしい言い方止めて下さいよ!」
好きとか嫌いとかそういう次元じゃなくて、こういうの恥ずかし過ぎるんだよ!
それなのにボクの目の前にぺたんとお尻を落として座り、頬を染めながらも上目遣いでこちらを見上げながら、今か今かと待っている美少女二柱に自分から口付けしろというのは、あまりにも難易度が高すぎる。
それもエターニア様の期待に満ちた視線の前で。
何この羞恥プレイ。
ヘタレなボクは必死で逃げ道を探すも、こんな状況でいい手が思い付く訳もなく、また逃がしてくれる訳もなく、孤立無援の状態で。
しかもティアには「ユイカさんにはちゃんと許可をいただいています」とまで言われて、断る理由まで失った。
あの時の裏山の頂上では、何をするにも初々しく恥ずかしがって照れていたカグヤも、今や完全にふっ切れちゃっているのか、もう羞恥心の欠片もなく甘えてきて、早く頂戴と言わんばかりに犬のように尻尾振っているし。
更にティアには「あの時約束した『お願い』を使います。私の唇を……は、初めてを奪って下さい」と、羞恥で顔を真っ赤に染めながらも言われてしまうし。
「わ、悪いんだけど、せめて目を閉じて……」
そう言って目を閉じさせたボクは、エターニア様が目を輝かせて見守る中、緊張でおっかなびっくりになりながらも軽く触れるように順番に重ねていったのだった。