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7 ヘリウムガスの気持ち



 岬に毎朝挨拶ができて、昼飯を一緒に食べられるのは本当に愉快な事だった。気分はヘリウムガスをたっぷり詰めた風船のように浮ついた。最初はどう話をしていいのか分からなかったから、まずは三人組の一員として、信頼してもらえるよう相槌役として努めた。それから楓が僕を時折からかうので、僕は大げさに反論し、狼狽し、開き直ってみせた。岬は僕のリアクションを気に入ってよく笑ってくれたし、楓は僕を「おいしく」からかってくれた。僕が何かを言って岬が笑うのを、楓は本当に愉快そうにして眺めていた。

 もっとも、普段の会話は楓と岬が二人で話す方がずっと多かった。僕もまた、友人と片思いの相手が滞りなく話し込むのを見るのが好きだった。そして、岬のいないところで僕と楓は今日の岬がいかに可愛かったかを評し合った。

 十月に入る頃には、休日に三人で集まって出かけるようになった。どこに行きたいかは岬が発案し、食事場所や道順は楓が計画する。僕は何もせずに当日を楽しみにする。時間通りに駅に集合すると、道中はいつも女子二人が楽しそうに話し合っている。僕は一歩引いて何もせず眺めて楽しむ。それで十分だった。時には僕と楓が話をして盛り上がる事もあったが、そんな時は岬が無理やり割って入るか露骨にふて腐れるかした。僕らはそのたびに恋の可能性について冷静に否定した。岬は本当?と言って疑り深そうに、寂しそうに言う。その口調や表情もまた、我々ファンにはたまらなかった。


 僕らは安定した正三角形の関係を保っている。それだけに、岬に一歩踏み出してアピールするのは難しかった。僕が岬に嫌われれば、岬は楓だけと会話するようになる。楓は僕にも話し掛けてくれるだろうが、岬はいい気がしないだろう。そのような気まずさは避けたい。胸の内には桃色の感情が噴出してはだらしなく流れ落ちていくのを繰り返したが、今以上に岬に近づくことはできずにいた。


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