2 クラスに馴染めない人たち
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七か月前に高校に入学した際、僕ら三人は同じクラスでありながら全く言葉を交わさなかった。僕も岬も、クラス内で間に合わせの友情を築き休み時間や昼食を過ごした。
岬に一目惚れしたのは、同じクラスになって一週間も経たない頃だった。肩に届く緩めのくせ毛と色白の肌、機敏そうな小さな体。くっきりとした目鼻立ちはどこか寒い北国の美人を連想させた。僕は岬を事あるごとに視界の中に入れていた。恵まれたルックスをしているのに、それほどクラスメートとは馴染んでいないところも、何か健気に感じてかわいらしい。
ある時、曖昧な笑みを浮かべ談笑している岬を遠くからまじまじと見ていると、向こうがこちらに気付いて目が合った。合ったとたんに表情を曇らせ、不快な物から目を逸らすように首をふいと背けた。
その日の授業はまるで頭に入らなくなった。帰り道風が吹きすさぶ土手を、大声で歌って自転車を漕いだ。通学路の土手は山からの吹き下ろしが強く、自転車がちっとも進まなかった。
梅雨が始まる頃、クラスで目立たない、暗くて孤立した背の高い女子生徒が姿を消した。夏休みが終わると包帯をいくつも巻いた姿で登校してきた。最初は保健室に通い、包帯の規模と痛々しさが薄れるにつれ教室で授業を受けるようになった。寡黙ではあるが、かつての猫背はまっすぐになり、目に穏やかな生気が宿っていてどこか気さくな雰囲気がある。おどおどした傷つきやすい様子から、腹が据わっていて歩く姿も颯爽とした様子へと変化した。それが楓だ。
僕の席は楓のとなりだった。話し掛けてきたのは楓からだった。