幻
また二の腕が!
キン・ニク・ツウ!!
3日後とかにこないだけマシか?
……トホホ(;´д`)
転移で戻ると、ミシェルに抱き付かれた。
「夜になっても戻られないので、心配致しましたわ~!」
「はは、ゴメンね、また倒れちゃった。」
ミシェルは私に抱き付いたまま、ヴァンを睨む。
「お身体は何ともありませんか?意識の無いお嬢様に、あんな事やそんな事を……!」
「いや、無いから!?ティオとバルトも居たから、ね!」
ヴァンが髪を掻き上げながら呟いた。
「信用がないな。」
「信用を得るだけの付き合いは御座いませんから、本当に何も無かったのですよね?」
「「無い!」」
私とヴァンの声が重なる。
「……そうですか、残念です。」
「どっちなんだ!お前は!?」
「あら、嫌だわ。心の声が……。」
味方だと思ってたのに、悲しいよ……ミシェル。
キースメリアさんが、ミシェルの隣に立った。
「ヴァン様と巫女様が一緒になれば、ミシェルも此処で働けるでしょう?私と巫女様、両方と共に居られるのは此処ですから。」
「別に、魔王様の味方はしませんよ!私はお嬢様の行かれる所へ付いていくだけです。」
ビシッとヴァンに向かって指を指した。
「寧ろ、お嬢様の匂いが嗅げるこの位置で引っ付いていたい。」
うっ、ミシェルから変態臭が……!?
「そんなミシェルに私が引っ付くので、ヴァン様の入る余地が無いですね。残念ですが。」
キースメリアさんも何を言うのか……。
「其れはちょっと、落ち着かないから止めてね?」
ヴァンと距離が取れるのは良いけど、其れはそれで嫌だ。
「私と先輩で充分ですヨ!」
「そうなのニャ~。ご主人の側は、うちの場所ニャ!譲らないニャ~!」
ティオが私の腕の中で、更にギュッとしがみついてきた。
猫バルトがパタパタと飛んで頭に着地した。
う~!うちの猫は可愛いの~!
ティオの頭に頬をスリスリした。
「あ、頭振らないで下さいヨ~。落ちる~です~ヨ~。」
私は頭を振るのを止めた。
「今、ヴァン様の部屋の飴玉を数えさせて下ります。まだ、暫く部屋は使えません。」
「だろうな。執務室を使う。早速、他国にも飴玉を教えてやらんとな……。数え終わったら、ギルドの分と城の分に別けて届けとけ。金はチナツのギルドの口座に入れといてやってくれ。」
「了解しました。」
「やっぱり、ギルドに有るんだね。お金預ける所。」
定番だね。
ギルドランクが上がれば収入は増えるし、ギルドや国から月収も有る。
わざわざ、冒険者呼びつけて手渡しなんてやってられないしね。
「チナツはまだ利用した事が無いのか。好きに出し入れ可能だ。…………国の月収はどうする?一応、拠点はアルヒレスタだろう。だが、SSになったのは此処だ。好きな方を選べるぞ?」
「……そうなの?今すぐ決めなきゃ駄目?」
「いや…………。」
「?」
「アルヒレスタだと、即決すると思ってたぞ?」
「あ~、成る程ね。いろいろ有るのですよ?私でも考える事がね!」
ヴァンが眉間に皺を寄せた。
「……其れも、言えない事か?」
「ん、今はね!その内言うかも知れないけど、今は言わない。」
「そうか……。」
あれ、素直に引き下がった?
む~、もっと突っ込んで来るかと……まぁ、いっか。
何かもやっとしたものが、有るような無いような……?
「話が終わるまで好きにしてて構わん。メイドもチナツの側に付いてろ。」
「……分かった。行っちゃ駄目な所とか有る?」
「いや、何処でも好きにしてくれて良い。何なら、街で買い物して来ても良いぞ。」
「うん、じゃあミシェル行こうか。」
特に欲しい物とか無いんだけど……。
ミシェルを連れて廊下を歩き出す。
背後で、ヴァンとキースメリアさんが執務室に入って行く音が響いた。
「……いきなり、時間出来ちゃうと何したら良いのか分からないものだね~。」
廊下を歩きながら、誰とは無しに話しかけた。
「そうですわね、お昼にはまだ少し早いですし、たまには庭でお茶でもしますか?」
「まったりするのも良いんじゃないですか?ニャ~。」
お茶か~。
そう言えば、私って一応貴族だったっけ~。
「そうだね。たまにはのんびりするのも良いかもね。あ~、取り敢えず庭の散策とか?じっくり見てないし、お城の庭なんて見た事無いから。」
「其れが良いですわ。綺麗な花をバックにお嬢様をこの「写る君」で撮らせて下さい!」
「う、写る君?」
「魔法道具ですわ。被写体そっくりの絵が撮れますの!クロイツ家所有の逸品ですわ!」
ああ、写真か~。
「余り驚きませんのね。お嬢様?」
「私の居た世界には普通に有ったからね。そう言うの。折角だから、いろいろ撮りたいな!ティオもバルトもミシェルもね!写真撮影会だ!」
「写真……と言うのですか?良いですわね。沢山撮りましょう!」
「わ、私もですか?主と一緒なら良いですヨ!ニャ~!」
「ご主人、楽しそうニャ。だから、うちも楽しみニャ~!」
キャッキャ、ニャ~ニャ~騒ぎながら中庭へと降りて行った。
中庭で花を眺めながら歩いていたら、手入れを任されている魔族のお爺さんが居て、いろいろ案内してくれた。
綺麗な小川が流れている所。
ーー魚に夢中になったティオが、小川にダイブ!
実をつける植物エリア。
ーー猫バルトが食中植物に食べられる!(誰も助けない!)
ーー「写る君」に夢中だったミシェルが、蔓に巻き付かれ危機一髪!(様子を見に来たキースメリアさんが悶絶!)
薔薇(バラではなくバティラと言う)の温室エリア
ーーティオと猫バルトが噎せ返る匂いに、鼻を押さえ悶絶!
お爺さんが咲き誇る花を選び、東屋に花瓶に挿して飾ってくれた。後で部屋にも運んでくれるらしい。
其処で軽い昼食を取る事にした。
「庭、廻っただけなのに楽しめたね~。」
「びちょびちょになったのニャ~!」
「群生したバティラの匂いは、凶器ですヨ!猫にはキツイですヨ。ニャ~!」
「……人型に戻れば良かったんじゃないの?」
「ニャ!?」
「気付かなかったのね……。」
「うう~、キースにあんなところを見られるなんて、一生の不覚ですわ。」
ミシェルが落ち込みながらお茶を淹れる。
キースメリアさんも、ちゃっかりしてたしね。
ミシェルが落とした「写る君」で、写真を撮ってから助けてたからなぁ……。
「ふふふ、思い出すと笑えるね?ミシェルの写真、持ってっちゃったしね!」
「…………後で怒っておきます!」
とか言いながら、結局イチャイチャするんだろうね~。
サンドイッチを食べながら、庭を見渡した。
知っている花に似ている物が多い。
前に出したカスミソウみたいに、大きかったり 逆に小さいもの、花弁が多いもの、色が虹色だったり 花はそっくりなのに葉が全く違ったり。
見ていて飽きなかった。
「ねぇ、ミシェル。それって幻術みたいなのも撮れるかな?」
「……大丈夫でしょう。此れ自体が魔法で出来てますから。撮りたいものが有るんですか?」
「うん、私の国の花。似てるの無かったからさ!幻でも写真に収められたら良いなぁって」
此処に無い花って事に庭師のお爺さんが興味を示した。
「お嬢様の国の花ですか!是非!」
私はティオと猫バルトを残して、少し空いたスペースに移動した。
瞳を閉じて想像する。
お祖母ちゃんの……本家の神社に在る1本の桜の大樹。
魔力が溢れる。
日本の神社の風景なので巫女装束に替えてみた。
目を開け、懐かしい風景に涙が出そうになったがなんとか堪える。
「ミシェル、此れで撮って!」
桜の下に立つ。
撮ってくれたのを確認してから、桜を見上げた。
触れる筈もないのに、私は手を伸ばした……。
直後、後ろから抱き締められて驚いた。
顔だけ振り返ると、何故か慌てた様子のヴァンが居た。
「……どうしたの?いきなりで心臓に悪いよ~!」
「…………悪い。何故か消えてしまう気がして、」
「私が?」
「ああ、」
私は笑いながらヴァンの腕を解いた。
「あはは、私は消えないよ!もう、驚かさないでよね?」
幻の桜は、私が驚いたと同時に消えてしまった。
名残惜しくて幻の有った場所をもう一度見た。
「はぁ、驚かされたのはこっちだ。本当に消えるかと思った。」
巫女装束からいつもの格好に戻す。
うん、私は消えない。
もう、この世界が私の現実だから。




