幌馬車と箱馬車
現れた聖職者さんは私達の方を見て、握った右手を胸に当て礼をした。
「この度は助けて頂き有り難う御座います。私、シュメール聖樹教会オルク方面を任されておりますホンリューテと申します。御会いできて光栄です。双黒の天使様。」
しっかりと私を見て微笑んだ。
……その呼び名 嫌なんだけど!
ホンリューテと名乗った聖職者さんは、定番の茶髪に深緑の瞳をしていて、見た印象は人の良いお人好しって感じ。
何とか私も微笑む。
「……チナツ・クロイツです。それと猫のティオとバルト、親友のミシェルです。少しでも助けに為ったのなら良かったです。」
ホンリューテさんはオルク方面を任されていると言った。
オルクは私達の目的地から更に進んだ先にある街の名前だ。
その方面と言う事は、オルクの周りに在る町や村の教会のまとめ役と言う事。
…………大司教ですか。大物ですね。
1つの教会を任されてるのが司教(神官)で、王都にある様な大きな教会や町や村の教会を地方で任されてるのが大司教。
その上に枢機卿がいてトップが法王、シュメール聖樹教会では法王ではなく教王と言うらしい。
どっちでも良いけどね~。
只、ホンリューテさんが見た目通りの人では無いだろう事は分かったかな?
がめつい教会で大司教まで出世してるんだからね。
然も、若い!
お礼も言われた事だし、さっさと退散したい。
思うに、私が断った依頼がゴーリさん達に渡った。
チャムさんとチャッツさんとはもう少し話しもしたいけど、此処は速く退散するのが吉。
本当に、チャムさんとチャッツさんには申し訳無い。
「では、依頼先に急いでおりますので私達は此れで失礼させていただきます。」
私は軽くホンリューテさんに向かって礼をし、幌馬車に向かいたかったのだが、
「向かう方向は同じと思いますが、どちらまで行かれるのかお聞きしても良いでしょうか?」
くっそ!
ひき止められた!
まぁ、そうくるよね!
護衛に加われ的な流れだ。
答えない……訳にはいかない。同じ方向だからね。
でも、半日で到着だから大丈夫か……?
「……テテンの村です。」
私の答えにホンリューテさんは嬉しそう微笑んだ。
「やっぱり同じ方向ですね。宜しければ、その村まで御一緒頂けませんか?此方としては襲われたばかりなので、同行して頂ければ心強いのですが?」
不安そうな顔をして言ってるけど、断られるとは思って無いんだろうなぁ。
まぁ、断る様な人なら最初から助けて無いし。
ミシェルの方をチラッと伺うと、仕方無いって感じで頷いた。
「分かりました。テテンの村迄ですが……私達の馬車が先行しますので、付いてきて頂く形で宜しいでしょうか?」
「ええ、其れで構いません。有り難う御座います。出来れば、双黒の天使様には私の馬し…」
私はホンリューテさんの台詞を慌てて遮った。
「ホンリューテさんの馬車にはゴーリさんが乗ってください。ゴーリさんがリーダーですから依頼主と離れるのは宜しくないでしょう?で、チャムさんとチャッツさんは私達の馬車にどうぞ。この分かれかたなら四人四人になりますから、宜しいかと?」
此れでもかとニコニコの笑顔で捲し立てた。
「……えっと、俺だけこっち?俺もチナツちゃんと一緒が良いんだけど?」
直ぐに反論してきたのはゴーリさんだった。
そのゴーリさんの前にチャムさんが両手を広げて立ち塞がった。
「ダメだよ~。チナツの言う通り、ゴーリがリーダーなんだから~!」
チャムさんの腕の下を潜って、チャッツさんがそっとゴーリさんに近付くと、何事かを耳元で囁いた。
「…………、…………。」
ゴーリさんの眉間に皺が寄る。
溜め息を吐くとポンポンとチャッツさんの肩を叩いた。
「はぁ~、分かった!俺はこっちに乗るさ!ホンリューテさんも、俺で我慢して下さい。」
ゴーリさんはホンリューテさんの方を向いて、ふんっと鼻を鳴らすと、ずんずんと箱馬車へ歩いて行ってしまった。
呆気にとられていたホンリューテさんも溜め息を吐くと、肩を落とした。
「……仕方有りませんね。機会があれば是非、双黒の天使様とは御食事等供したいところですが、今回は諦める事に致します。其れでは、テテンの村まで宜しくお願い致します。」
私の方を見て礼をすると、来た時同様 騎士を連れて馬車へと戻って行った。
……今回はって、次回が有るのか!?
そんな機会、こっちから願い下げですよ!
「チナツ様。取り敢えず馬車へ」
ミシェルに言われて、ハッとする。
此処に立ってても仕方無い。
さっさとテテン村に行って、依頼に取り掛かろう!
「じゃあ、チャムさんとチャッツさんも乗ってください。中で色々お喋りしましょう!」
「久しぶりだもんね~。い~っぱい、話そ~~~!」
「…………話すの、楽しみ。」
皆で幌馬車に乗り込むと、テテン村に向けて出発した。
■幌馬車の中で
「そうそう!私とチャッツもね~チナツのファンクラブってのに入ったのよ~。だから~チナツの情報と言うか~何してたか~だいたい知ってるの~!凄いよね~。会報!」
「ふぇ!?入っちゃったんですか!マジですか!!」
「ニャ!」
「ニャ~!」
「……会員なると、会報誌…安い。」
「魔王様とデート~って書いてあったよ~。チナツもやるね~!ひゅ~ひゅ~!」
「あっ!あれは!案内してもらってただけ!観光だよ!観光!!そう言う仲じゃないから!」
「……チナツ、顔、赤い、よ?」
「そ、そそそそんな事が載せられてる事に驚いてるだけだよ!赤くない、赤くないから!」
「チナツ可愛い~!」
ぎゅっ!!
「うぐっ!?く、くるひいれふよ~ひゃふひゃん~。」
「ごめ~ん。」
「ぷはっ!……そう言えば、さっきゴーリさんに何を言ってたの?」
「お~、私も気になるよ~。何言ったの~?」
「……騎士の目、冷たい。居心地、悪いって」
「…………。」
「人族至上主義だっけ、教会……。」
「……うん。」
「ホンリューテさんはね~普通に接してくれるんだよ~。でもね、騎士2人がね~。」
「……ね。」
「ゴーリは~馬鹿で短慮で~、この依頼もお金で決めちゃったの~。後から気付いて~気にしてたから~。」
「……依頼、請けた、罰。」
「はぁ、其れで簡単に退いたんだ。納得。」
「良い奴なんだけどね~。一緒に居るのも楽しいし~!」
「……チャムさんは~ゴーリさんとは……その、そう言う仲、とかではないの?」
「……………………プッ!!あははははははは、あは、あ、ははははははない!其れはないよ~~~!!あは、く、苦し~~!」
「……プッ!ゴーリが、兄さん。……有り得ない!プッ!」
「2人とも笑いすぎだよ!」
■箱馬車の中で
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………(息詰まるわ!!)」




