召喚対決
訓練所の中央で、私はルークさんと向かい合う。
いつもの爽やか笑顔ではなく、口元は笑みの形だけど目が笑ってない。
「やるからには全力」と言った通り、本気で戦う様だ。
……怖いんですけど。なんと言うか、威圧?其れがビシビシと私の肌を刺激する。
本気モードのルークさんとは正反対に、私のテンションは下がっていく。
自分で言うのも何だけど、乙女ですよ?
勇者だ、世界樹の巫女だと言われてても、16歳の女の子ですよ?
騎士って、フェミニストのイメージ強かったんだけど?
この世界だと、戦闘職が強いのか……。
少なくとも、青鷹騎士団にはフェミニストでいて欲しかったよ。
戦闘狂は王国騎士団で間に合ってる!
……言える雰囲気じゃないから言わないけど。
「顔にやりたくないって、書いてあるね?」
フフ、顔(目)は口ほどに物を言う……。
口尖らせてブーブー顔してますからね~。誰でも分かるか~。
「いや~。ルークさんが怖いわ~的な?」
「そうかな?俺的には、チナツちゃんが何をやって来るか分からないから、気を引き締めてるだけだけど?」
「分からないのは私も同じですよ?」
「だね。さっき全力でって言ったからね~、最初から出させてもらうよ。俺の取って置き。」
「?」
言うと、ルークさんは地面に剣を突き立て目を閉じた。
何を出すのだろう?
まさか、ルークさんも悪魔と契約してるとか?
ルークさんの周りの砂が舞い上がり、マントがパタパタと旗めいた。
足元から炎が渦を巻き始めた。
目を閉じたまま、ニヤリとルークさんが笑った。
「我が喚び声に答えよ!火の精霊王にして炎の化身、イフリート!!」
ルークさんの言葉に、渦を巻いていた炎が人の形を取り始めた。
悪魔ではなく、精霊でしたか……。
うん、騎士っぽい。しかも精霊王ときた。
イフリートと言えば四大精霊だよね?ヤバくね?
何て思ってる内に、召喚は終わっていた。
イフリートは長い髪が炎で出来ている以外は人に見えた。
……うん、美形だね!
身長は2メートルは有る。彫りの深いキリッとした精悍な顔。褐色の肌。全体的にヒラヒラとした布を身に纏っている。
手に持った剣は長剣、長剣自体が炎で出来ている様だ。
私は心の中で思いっきり叫んだ。
(ヤバいって!強そうです!炎の精霊王イフリートと戦えますか~!どんだけ強いか分かんないっす~!ヘルプ~!!)
(…………、……!)
(本当!?バルトより頼りになる~!)
(……!)
私の脳内会話が終了すると同時に、猫バルトがくしゃみをしてたが私のせいでは無い!無いったら無い!
「女の子相手に2対1はあんまりですよね?」
「ぐはっ!?そ、其れはそうなんだけど……取って置き、見せたかったし?」
胸元を握り締め、頬を引き攣らせながらルークさんが言う。
そんなルークさんに向かって、満面の笑みで私は告げた。
「なので、私も喚びます!」
「バルト以外にも契約してるとは聞いてないよ!?」
ふふふ、驚いてる。驚いてる。
私自身、驚いたからね!
瞬時に巫女装束に変わると、魔力に意識を集中した。
「我は望む。眼前の敵の断末魔……。云々かんぬん!お出でませ~。魔喰牙獣のひ~ちゃん!!」
私の横に、かなり大きな魔方陣が現れた。
その魔方陣からぬっと大きな前足が現れ、魔方陣の外の地面にガリッと爪を立てた。
もう片方の前足も同じ様に地面に爪を立てると、ググッと力を入れ一気に飛び上がる様に魔方陣から全身を現した。
私が喚び出したのは、地龍と戦った時にバルトが痛い呪文で喚んだ魔獣のひ~ちゃん。
あの時は前足だけしか見えなかったけど、今日は全身を現している。一言?で言うなら超巨大なコモンドール。長い毛に全身を覆われた犬だ。モップ犬が分かりやすいかな?
長い毛に覆われていても、その存在を主張する巨大な牙と爪。
額から生える巻き貝の様な角。
体長は……2階建ての家くらいかな?
訓練所に居る全員が目を見開き驚いている。
1番驚いているのは猫バルトで、目だけでなく口まであんぐりと開けていた。
「ひひひひ~ちゃん!?ひ~ちゃんが何故!?」
両前足で頭を抱えて、プチパニック状態になっている。
「がうがうがうう~がう!」
「ううう、主の主は主~!!」
猫バルトは「ニャ~」を付けるのをすっかり忘れている。
そう、ひ~ちゃんが言うには主の主は主。バルトの主である私も自分の主だと言うのです!
「バルトの物は私の物って事だよね!でも、私の物は私の物!」
何処ぞのガキ大将理論だけれど、その通りなので仕方無し。
「…………主が私のを使うのは、まぁ良いですヨ。実際に喚べてますし……只、云々かんぬんて何ですか!?はしょり過ぎでしょう!!」
「え~、あの呪文言うの恥ずかしいし、長いし、面倒くさい!はしょっても喚べたんだから良いじゃない?」
「普通は喚べませんヨ!!ちゃんと唱えてた私の存在って!」
「ん~、恥ずかしい人(悪魔)?」
「がうがう」とひ~ちゃんも頷き、前足で目元?を押さえて悶えて見せた。
「……ひ~ちゃんが教えたんでしょうが!!」
「がう、がうう~。」
ひ~ちゃんの言葉を訳すと、「僕、知らな~い。」だ。
「あ、主とひ~ちゃんが酷い!」
ニャ~と叫びながら泣き崩れてしまったので、弄るのは此れくらいで止めといてあげよう。
ティオが猫バルトの頭をポンポンと叩いて慰めている。
良い子だね~。
「さて、ひ~ちゃん。火耐性上げとく?」
私はひ~ちゃんを見上げて聞いた。
其れに対し、ひ~ちゃんはブンブンと首を横に振った。
「あ~、バルト同様 私のステータスが反映されるのね?でも、リジェネくらいは掛けとくよ?」
「がうがう。」
ひ~ちゃんが頷いたので、早速「リジェネ」を掛けた。
改めて、ルークさんと向き合う。
「此れで2対2ですね!イフリートの相手はひ~ちゃんがします!」
「……やっぱり、何してくるのか分からないのはチナツちゃんの方だったね。」
「ははは」と、乾いた笑いを乗せ既に疲れた感じのルークさんが言う。
見ると、観覧席の全員が苦笑している。
みんな失礼ですね!
気にしない事にして、両手に鉄扇を出す。身体強化もして準備OKですよ!
ルークさんも準備OKと剣を構える。
ひ~ちゃんは前傾姿勢で、イフリートは炎の剣を構えた。
構えた状態で誰も動かず、静寂が支配した時が流れた。
訓練所に一陣の風が吹く。
其れを合図に3人と1匹が動いた。
「もふもふ」犬追加。
チナツ(イフリートと戦えますか~的な心の叫び)
ひ~(バッチコイ!っすよ!)
チナツ(バルトより頼りになる~!)
ひ~(当たり前っすよ!)




