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02/08
霧が濃い
せっかくの機会だったけれど 残念だ
助手席に座るその子は 退屈そうに目の前の椿を眺めていた
ずっと上の方で鯨が潮を吹いたようなので あの子は持っていた傘で車を覆った
僕はと言うと いつの間にか霧の街に身を投げていて
振り返ると あの子が僕に手を差し伸べていた
そこで気が付いた
街を覆う霧は 僕の涙だった
そっと柔らかい物が僕の手に触れて 優しい声が喉を撫でた
はっとした目で見た視線の先に 淡い桃色の椿が風に揺れていた
僕は彼女の手を握って もう一度街を見下ろした
霧はもう どこにもかかっていなかった