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将軍閣下の育成日記  作者: 三好八人衆
~シュナ12才の春の章~
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第5話~セクハラは止めてくださ~い!~

シュナの部屋の掃除が終われば、ナナは基本的に暇である。彼女は『シュナ専属』のメイドである為、普通のメイドの業務に従事することはない。

(最初の頃は『暇そうでいいわね』なんて言われてたけど・・・)

今ではそんな嫌味を言うメイドはいない。『シュナのメイド』という精神的激務(他のメイド目線)に挑むナナを寧ろ尊敬している者もいる。

城郭都市であるラス市は外郭と内郭に分かれている。外郭は町民や騎士が住む都市部、内郭はラス城、つまり北域将軍が住む城がある。そして城外には畑が広がっており、農民や樵、猟師など、農業や林業に従事する者が住んでいる。ラス城のシュナの執務室からヒラリー平原を一望することが出来、ナナが仕事を行う上で、窓から外を眺めるのが楽しみの一つになっている。

それはともかく、仕事がない時のナナは暇である。外郭に出て市場で買い物をしたり、孤児院に戻って子供たちの相手をしたり・・・

「今日は何をしようかなぁ・・・」

ラス城の廊下を歩くナナは、ふと廊下の窓から外を眺める。そこから見えるのは城郭都市ラスの巨大な街並み。しかし空は厚い雲に覆われ、窓を雨が叩いていた。

「外、は雨だし・・・今日はお城の大図書館に行ってみようかな」

ラス城のはずれには、歴代将軍が集めたという貴重な本たちが収められている図書館がある。ナナやシュナも暇な時に足を運んで暇をつぶすのだ。

ちなみにシュナは現在会議に出席して不在である。重要な客を招いての重要な会議である為、ここのトップである彼の出席が必要不可欠なのだそうだ。

「あ・・・」

ナナは向こうから歩いてくる人物を認め、ピタリと足を止めた。向こうの人物もこちらに気が付いたらしい。

「ナ~ナ~ちゃ~ん~!!」

向こうから来る人物は、それこそ砂埃でも立ちそうな勢いでこちらに駆けてくる。その人物は青色の髪を後ろでアップにした20代前半の女性。手足は長く、モデルのような体型をしている。しかしそれ以上に目を惹くのは彼女の腰である。両腰に提げられた二振りの剣。普通、剣を使う者はもちろん、槍を使う者でも弓を使う者でも帯剣するのは一振りだけである。ナナはその二振り目の剣が、ただの飾りではないことを知っていた。そして、彼女がこの将軍府はおろか、神聖帝国でも五指に入る実力の持ち主であることも。

彼女の名はハル・ローリッチ。大陸中に名を轟かせる5人の剣聖のひとりで、シュナの剣術師範でもある。神聖帝国出身の22才で、階級は中尉。

そして―――ナナが苦手とする人物のひとりである。その原因は、ニギニギと卑猥な感じで開閉を繰り返す彼女の両の手。とっさに両手で自らの身体を抱くようにして防御態勢を取るが―――

「甘いっ!」

ハルは防御態勢を取るナナの両腕の間を強引にこじ開ける。ナナ(獲物)を逃がさないように後ろに回り込み、腕を回して確保。そして―――

メイド服に包まれた、ナナの胸の膨らみを思い切り、容赦無く揉みしだいた。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「おー。しばらく会わない間に、ちょっとは大きくなった?」

「知りま・・・せぇんっ!」

「ふっふっふー。ナナちゃんがちょっとやそっと暴れたところで、おねーさんの腕からは逃げられないよー」

美女からセクハラを受け、顔を真っ赤に染めたメイドの少女が身を悶えさせている姿を目撃してしまった若い男性文武官は、一様に心なしか前のめりになって何かを隠すように足早にその場を離れ、彼らは女性たちから一様に白い目で見られることになった。





「むふふ~。余は満足じゃ~♪」

「も・・・もうお嫁にいけない・・・」

数分後、満足げな笑顔を浮かべたハルとその足元に崩れ落ち、着衣を乱されて涙目のナナの姿があった。グスグスと泣くナナの肩に手を置き、ハルは『大丈夫』と励ます。

「ナナちゃんは結構人気あるんだから。お嫁の貰い手はいっぱいあるよ」

「ほっといてください!」

ナナはプリプリ怒りながら着衣の乱れを直す。全くこの人はもう・・・と溜息を吐きながら、彼女が差し出した手を握って立ち上がる。

「ごめんってば、ナナちゃん。ほら、明日晴れたらこの間話してたカフェで奢ってあげるから」

ハルをジト目で見上げ、ナナはぼそりと呟いた。

「・・・スペシャルビッグパフェ」

「げ、ナナちゃんあれ食べるの・・・?私、あれ食べて胸やけ起こしたんだけど・・・」

金額面と味覚面で非常に強烈な一品を思い浮かべ、ハルは顔を引き攣らせた。

乙女の胸を弄んだ代償は、高く付きそうであった。






北域将軍シュナ・ベルティオンの基本方針は『逆らうなら潰す。逆らわぬなら放置する。従うならば遇する』というものである。これは宗教政策に関しても同じ事。自分に逆らわないなら邪神を崇拝しようが、イワシの頭を信じる新興宗教を起こそうが関与しないのである。『布教をするのは自由。ただし北域将軍府はそれに関与しない』。これが北域将軍府宗教政策の根本。

荒々しく閉じられた扉を睨み付け、シュナは苦々しく吐き捨てた。

「・・・あの金満の豚め。余を舐めておるな・・・」

無駄に豪奢な法衣を身に纏った先ほどの来客―――『ミコーハウディ教北域支部長』を指して『金満の豚』と罵ったシュナを、傍らの男が笑いながら訂正した。

「フェッフェッフェ・・・将軍閣下、支部長殿は『豚』というほど太ってはおりませぬが?」

「体格の事ではない。奴は脂肪ではなく着服で肥え太っておると言っているのだ」

「なるほど。言いえて妙でございますなぁ。フェッフェッフェ・・・」

奇怪な笑い声をあげるのは、くすんだ金髪をオールバックにし、碧眼の目をぎょろりとさせた不気味な老人であった。

彼の名はリッチモンド・ビュワーズ。北域将軍配下の軍事貴族であり、爵位は伯爵。階級は少佐。シュナの片腕であり、参謀長として軍務に参与している。

「・・・リッチモンド、その気味の悪い笑い声をやめろ」

苦々しそうに発言したのは武官筆頭のバーボンス。彼が浮かべる表情には嫌悪感だけが浮かんでいた。

彼だけではない。北域将軍府に、シュナに仕える文武官、軍事貴族たちの中で、リッチモンドに対して嫌悪感を持たない人間の方が少ないのである。それは、彼のこれまでの経歴にあった。

彼は元々反神聖帝国を掲げていたリリリオール帝国に、代々重臣として仕える家柄に生まれた。リッチモンドは生まれ持った謀略の才を発揮して政敵を次々と蹴落とし、宰相にまで上り詰め、ついには皇帝すらも傀儡に仕立て上げ、事実上の皇帝に君臨した。

そのリリリオール帝国に、シュナの祖父ガイア率いるベルティオン軍が攻め込んでくる。リリリオール軍はリッチモンドが全軍を率いて迎撃することになった。出陣の際、彼は皇帝にこう述べたという。

「陛下、このリッチモンドにすべてお任せを。陛下に素晴らしい報告をしてごらんにいれましょう」

―――リリリオール皇帝に宰相リッチモンド率いる軍が一戦も交えずベルティオン軍に降伏したという報告が入ったのは出陣した2日後であった。さらに3日後、わけのわからぬ間に首都が包囲され、為す術もなく皇帝はガイア・ベルティオンに降伏し、リリリオール帝国はわずか5日間で、滅亡することになってしまった。

捕縛され、ガイアの前に連行された皇帝にリッチモンドはニヤニヤ笑いながら告げたという。

「おお。元皇帝陛下。貴方が逝く前に素晴らしい報告を行うのを忘れておりました。私は国と軍を無傷で新たな主ベルティオン将軍閣下にお渡しし、さらには後宮の女たちを献上した功績によって、ジュノサイド神聖帝国の軍事貴族になる事が出来ました。どうです。素晴らしい報告でしょう?」

こういった経緯、さらに北域将軍家の配下となった後も何度か謀反を起こしており、リッチモンドを処断するよう家臣たちは何度もガイアやシュナに進言したが、彼が有能で得難い人材である為、反乱を鎮圧して彼が降伏するたびに謹慎刑や罰金刑などは課したが、降伏を許してきた。

「おお、これは失敬・・・」

フェッフェッフェ、と笑い、バーボンスは目を釣りあがらせるが、口は開かなかった。言っても無駄だという事だろう。

「それはともかく、閣下。教会のタカ派には監視を付けねばなりますまい」

唯一神ミコーハウディを信仰するミコーハウディ教であるが、その内部は必ずしも一枚岩ではない。

ともに異教徒を教化するという目的は同じだが、将軍府の武力を以て異教徒を押さえつけて教化しようとするタカ派と、自分たち宣教師が現地に赴き、地道に教えを広める事で教化しようとするハト派に分かれている。

厄介な事に、ミコーハウディ教には各地に自警団がいる。『白鹿団(はくかだん)』というこの自警団は、大きなもので1万余ほどの兵を擁し、自警団というよりはもはや軍隊と言ってもよい。熱心、というよりは異教徒を許さず、滅ぼしてしまえというタカ派よりの狂信的な信者や戦争を求める傭兵たちによって組織された非正規の軍で、指揮権は教会にある。彼らは教会幹部の護衛や異教徒狩りが主な任務となっている。

「そもそも余の足元に独自の軍を置くという行為自体が気に食わん」

「我らに対する抑止力のつもりなのでしょうな。」

将軍府の動員命令を受けた軍事貴族は、求められた兵数の不足を補うために教会に援軍を要請する場合がある。教会は援軍として白鹿団を送る代わりに、軍事貴族の領地内での布教への協力、酷い時には領内の領民を全員改宗し、若者を白鹿団に入れるよう求めるのだ。

「バーボンス。余の配下の軍事貴族どもは教会に援軍を要請していることなどあるまいな?」

「はっ。閣下が教会への軍事協力要請を禁止されて以降、そういった事はございませぬ」

シュナとおじ達の家督争いに、教会タカ派はおじ達に味方した。結局彼らは敗れ、シュナに屈することになった。彼らはそれによって北域領での影響力、勢力を失い、争いに関与しなかったハト派にそれまで独占していた司祭長をはじめとする多くの重要ポストを奪われることになった。

「・・・タカ派の動きが怪しいと聞く。ハト派の連中に気を付けるよう伝えよ」

「はっ。閣下、それでは失礼します」

一礼してバーボンスが立ち去る。しかし金髪の老人は全く動かないまま。

「・・・リッチモンド、何か用があるのか」

「・・・いえ。一言だけ申し上げたき儀が」

リッチモンドは恭しく首を垂れると、厳かに告げた。

「先日わしが行った触診(セクハラ)によると閣下の侍女殿は安産型にございます。さらにさる筋からの報告では、胸も最近―――」

「去ね」






ナナの日記

もう!ハルさんってば、胸揉むのいい加減にやめてくれないかなぁ。

それよりもやめてほしいのは、リッチモンド卿のセクハラ!本人は挨拶代わりだっていうけど、あれ完全に犯罪だよね。挨拶代わりに女の子のお尻触るってどうなのよ?

この前ハルさんとリッチモンド卿が談笑してたけど、セクハラ犯同士で意気投合する事でもあるのかしら?


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