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出逢い


大型アップデート『失われた記憶』が実装された初日、カグヤは卵を首からかけている保管袋にいれて過ごしていた。その卵は時間が経てば召喚獣が産まれる物であり運営が全てのプレイヤーに配られた物であった。


「……」


運営の公式発表にによると卵はプレイヤー達の経験値やアイテムを側に供えて置いておくとそれの力を吸収して孵化する。カグヤはそれを聞いて態々、慣れない手つきで毛糸を買ってきて卵専用の保管袋を作っていたのだ。卵はイベント限定のユニークアイテムである為に他者が奪う事も壊す事も無い。そうした理由もあったからこそカグヤは保管袋を作った。本人はカンガルーのお母さん気分である。


だが、そのたまごを囲っている素材は明らかに異質であった。卵の大きさは大体15cmで保管袋にすっぽりと入っていた。卵に衝撃がいかないようにとキングスライムのコアから抽出物した柔らかい液体と黒龍の血を混ぜ合わせた液体を纏わせ、それをカラミットから得た皮膜で覆い、その上からカゴメからゆずってもらった毛皮で保温し、ある石ころを御守りの代わりにいれていた。カグヤはもっと大事にするべきだと思い、さらに素材を入れようとした時にカゴメが慌てて止めたのである。それ以上は見ていて心臓に悪いと。カグヤは渋々とそれ以上なにもしなかった。


そして今カグヤは新しく実装されたフィールド『渓谷』に向かう為に最初のBOSSジャイアントゴブリンを求めて森を歩いていた。


最初はカゴメも着いていくと言い張ったがカグヤがそれを拒否した。カゴメもカグヤも渓谷には一早く辿り着かなければならない。今回のイベントの本当のメインイベント『記憶結晶とSランク召喚獣の卵の争奪戦』の為に地形を把握し、かつての相棒を取り戻さなければならなかった。


記憶結晶は一部のプレイヤーを除いて膨大な経験値の結晶体であり、S ランク召喚獣の卵もただのレア商品。だが一部のプレイヤー…元エターナルエデンで継承の証を取ったプレイヤー達にしたら意味合いが変わってくる。記憶結晶はかつてのエターナルエデンで仲間だった召喚獣の記憶、つまり戦闘経験と戦闘思考が封印されていてSランク召喚獣とは強化された相棒が帰ってくる。


カグヤは継承の証を召喚獣のミーくんに使っている。エターナルエデンで最弱の称号と最強の称号を得た召喚獣はカグヤがリアルではできないモフモフを持っていた。カグヤはできるだけ早くモフモフをもう一度味わいたい。アレルギーの為にリアルではできない事がロストエデンなら可能になる。今のカグヤの頭の中はカンガルーとモフモフの二つで支配されていた。


「……」


隠蔽スキルを使って限りなく戦闘を行わないまま、カグヤは森の奥地に辿り着こうとしていた。カゴメに聞いた情報ではエターナルエデンと同じ様に設置されているBOSSゲートを潜るとBOSSエリアに移動できる事を知っていた。カゴメは一向にBOSSエリアを目指し歩いていた。


………けて…


何かを聞き、カグヤの足が止まる。辺りを見渡すがカグヤの視界には木しかない。


…………て……


遠ざかっているのか聞きにくくなる。カグヤは瞬時に索敵スキルを発動させた。視認できない位置情報をカグヤは習得する。


「トレイン…」


進行方向ではない二百メートル東側にモンスター10体程度とプレイヤーキャラの反応があった。プレイヤーは戦闘をしている様子は無く、一向に走って逃げているようだった。どうやらモンスターから逃げていて更にモンスターに認知されて追いかけられるを繰り返し、MMOでよくある迷惑行動の一つトレイン行動になってしまったのだろう。


「……」


カグヤはここで考える。何時もの自分なら放置してBOSSに向かう。だが今のカグヤには卵があった。動物とは親の背中を見て育つと文章には書いてあった。エターナルエデンでもそれを思って行動してきた。困ってる人が居たら極力たすける…正し召喚獣がいる時だけ。もしそれをせずに新しく産まれてくる召喚獣がどうしようもないプー太郎だったら…カグヤは凡そ三秒で考えて結論をだした。


「助ける…」


左手で大切に保護袋を護り、右手に漆黒の金槌を装備する。


アクティブスキル、『暗殺の足音』を発動。それに伴いパッシプスキル自動迎撃を一時的に停止。AGIに25%上昇及び初撃のクリティカル率50%上昇、高レベルに対してパッシプスキル『暗殺』が有効かつ低レベル以下の敵に対して50%の確率で状態異常『即死』、INT30%DOWN、DEF45%DOWN。


カグヤは“全力"で走った。


ーーーーーーーーーー


「誰か、助けて…!」


私はそう言って走っていた。後ろを向けばゴブリンやスライム達が私を追いかけてきている。森の浅い目の所で料理に使う香草を摘んでいて、運悪くゴブリンのPTに鉢合わせたのが私の不幸だった…料理スキルと調合スキルしかとってない私にとって唯一使える武器は短刀でスキルレベルもそこまで高いわけでもなかった。何より、実質的な戦闘経験が一切ない。かれこれ一週間はやっているが戦闘をするより戦闘補助に廻っている私は戦った事が無いのだ。


「誰か…っ!」


脚をもつれさせて前に倒れこんでしまう。


ぎゃあ、ぎゃあ…


ゴブリン達が退路を塞ぎじわじわと私に迫って来ていた。


「ひっ!」


短刀を握り締めるがどうあがいても私に勝ち目はない。


ギャアア!


ゴブリン達が勝てると判断したのか雄叫びを上げて此方に突撃してくる。私は恐怖で眼を瞑ってしまう。


ドン!


一際大きい衝撃音が辺りに響き渡る。私は死んだのだと思い、

ゆっくりと眼を開けた。


だがそこは協会ではなかった。私の目に映ったのはポリゴン化して消滅していくゴブリン達と逃げ惑うスライム。そして私を護るようにして立っている漆黒のローブを着たプレイヤーだった。


「…大丈夫?」


凛とした声でその声はそう訪ねてきた。ものすごく小さい背中なのにとても大きく私に安心感を与えてくる。


「は、はい!大丈夫です」


私は慌ててそう返した。落ち着いて辺りを見渡すと追いかけて来ていた敵が半分以上消えていた。


「そう……」


男か女かが解らない声の主は右手に禍々しい金槌を握っていた。


そして次の瞬間、私は蹂躙の意味を知る。


ブン!


金槌を横に薙ぎ払うように振ると巨大な衝撃波が形成されて目の前にいた残りのスライム達を吹き飛ばし、木々を次々にへし折っていく。木の倒れる音が鳴り止んだ時には大量の木々と其れに巻き込まれたモンスター達のドロップの山が出来上がっていた。


「じゃあ」


漆黒のプレイヤーはそう言うと森の奥に進んで行こうとする。私は茫然とそれを見ていたがある事を思い出す。


『料理人や薬剤師は誰かの専属になった方が効率が良くかつ楽しい』


私は目の前にいる存在がそうなんだと私の直感がそう告げていた。


「ま、待ってください!」


気がついたら私は声をかけていた。


「…?」


漆黒のプレイヤーが初めて此方を向く。太陽の光が漆黒のプレイヤーを照らし、その顔を見えるようになる。目元まで覆う髪から覗く眼は赤よりも紅い、真紅の眼があまりにも歪に見えた。


「わ、私を雇って下さい!」


捻りも何もない言葉を漆黒のプレイヤーに言う。普段の私ならもっと別の気の効いた言葉を言えるのに…


「……名前は?」


漆黒のプレイヤーは此方に歩きながら聞いてくる。


「リリアです!」


私は即答でそう応えた。


「……カグヤ」


漆黒のプレイヤーはそう名乗ると私の目の前にある文章が浮かび上がる。


『プレイヤーカグヤからPT要請がきています』


私は直ぐにそれを了承する。カグヤさんはそれを確認するとまた歩き出した。


「……」


私はPT メニューからカグヤさんのステータスを選ぶ。


「えっ、なんで…」



名前:カグヤ

職: 閲覧権限がありません

性別:閲覧権限がありません

武器:閲覧権限がありません

防具:閲覧権限がありません

スキル:閲覧権限がありません

能力値: 閲覧権限がありません

加護:閲覧権限がありません


名前以外の全ての項目が見れない。普通ならPTになった時点である程度の情報が見れる。スキルや武具を隠す人は居るがここまで隠す人は居ない。


「…着いた」


私が考え込みながらカグヤの後ろを歩いているとカグヤは唐突にそう言った。


私はは顔を上げて正面を見る。そこには虹色に輝くBOSSゲートがあった。


「…行くよ」


カグヤはそう行ってBOSSゲートに触れる。そしてクエスト名が表示される。


『森林の伝説、大狼襲来』


私は聞いた事もないクエスト名に茫然となる。森林のBOSSはジャイアントゴブリンかレックスゴブリンだったはずだ。決して大狼などではなかったはず…


『クエストが受理されました。これによりあと十秒でBOSSエリアに転移します。10…9…』


私が何かを言う前にカグヤさんはPTリーダーとしてクエストを受理する。


「…大丈夫、カンガルー…強い」


カグヤさんは意味能解らない言葉を言ってどや顔していた。


『…0』


そして転移魔法が発動し、私達はBOSSエリアに転移する。


そこに待ち受けていたのは全長四mはある巨大な銀色の狼だった。


隠しBOSSクエスト発生


森林の伝説、大狼ルフ襲来


参加プレイヤー

カグヤ リリア


クエストクリア条件

大狼撃破又は5分間の生存


クエスト難易度very hard


クエストクリア報酬

大狼素材


撃退報酬

大地の契約指輪


討伐報酬

??






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