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始動


「お姉様~!」


金髪の女性はそう言いながら漆黒のフードを着たプレイヤーを抱きかかえて頬擦りしていた。


場所は工房カグヤに唯一ある待合室。女性とカグヤは久々に再開していた。


「…くすぐったい」


凛とした声でカグヤは女性にそう訴えるが女性はそれを無視する。普通なら過度のハラスメント行為により運営が介入するのだが二人にとってこれは当たり前の事であった。


「ああ…お久しぶりです。あれから約二年、どれほどこの時を待ち望んでいた事か。エターナルでのあの感動的な別れから二年ですよ、二年…携帯の番号を教えたのにお姉様は一切かけてくれなくて…カゴメは捨てられたのでないかと悲しんでいたんですよ?」


カゴメと名乗った女性はそう言ってカグヤを離す。カゴメはほぼ初期装備のレザー系の防具を装備し、背中に身の丈より大きい大剣を背負っていた。


「装備は…?」


カグヤはカゴメの装備を習得している鑑定スキルで測るがどうみても大剣以外はカゴメには不釣り合いだった。唯一背負っている大剣もレアBOSSのジャイアントゴブリンの亜種レックスゴブリンがドロップするアイテムで現段階では最強の部類に入るがカグヤにとってそれはただの鈍であり、カゴメがエターナルエデンでつかっていた武器とは違っていた。


「こんなみすぼらしい装備で申し訳ございません、お姉様。ただ私の装備を作るに値する職人がまだいなかった事と『殲滅』からお姉様がこの世界にいると聞いていたので初期装備のままで今まできました」


カゴメは深々と頭を下げる。カグヤはそれを見て少しだけ頬を緩めた。つまりこれは初の依頼なのだとカグヤは思ったのだ。だがそれよりもカグヤは確認しないといけない事があった。


「チーちゃん、居るの?」


そう唯一かつての友人でウィスが飛んできていないチーちゃんがロストエデンに居るのだとカグヤは初耳だった。


「います。『殲滅』はお姉様がカラミットを“嬲って”撃退する所を見ていて、人形が完成するまでは会わないそうです」


カゴメは飛んできたウィスをカグヤの前に展開しながらそう言った。そのウィスには確かにチーちゃんのプレイヤー名が書かれていた。


「……残念」


カグヤはその文章を読み少しだけ顔を顰めた。人形が完成するまであと半年は掛かるとカグヤは思っていた。裁縫スキルの代わりに文字スキルを優先して習得しているカグヤは人形の魂や武器は作れるが人形は作れない。それはつまり誰かがチーちゃんの納得する人形を作らないと会えないのだ。カグヤが知っている裁縫職人でそれができるのは9人しか居らず、その9人はロストエデンでの消息が全く掴めていなかった。


「大丈夫ですよ、お姉様。『殲滅』の事は嫌いですが信頼はしています。アレはお姉様を裏切りません。近いうちに必ずここのドアを叩きます。それよりも今日は私の武具を作って欲しいのです。素材も現段階で揃えられる物を可能な限り揃えました。これでまた私専用の武具を作って欲しいのです。見返りはエターナルエデンと同じ、貴女の盾となりありとあらゆる敵から護り敵を押し潰します」


カゴメはそう言って大量の素材を机の上に置いた。そこには本当に現段階で用意できる殆どの素材があった。カグヤはそれらを鑑定で見て行き、一つだけ異質な物を見つける。それは


鳳凰石 ランク7

幻獣鳳凰が死ぬ時に落とした涙が数千年の時を得て石に変わった石。


カグヤは手に取り観察しようと細い腕をコートの中から出し触れようとするとソレは起きた。


ボウ…


鳳凰石がカグヤが触れようとした瞬間に燃え上がり、黒龍の手袋からは黒の波紋が出てそれを防いだ。まるでそれはカグヤに触れられるのを否定しているかのように燃え上がる。


「お、お姉様!」


カゴメが近づいてこようとするのをカグヤは右手で制した。素材に拒否反応を示されたのはエターナルエデンで幾度もあった。それは殆どが今回の時と同じ様に相反する物を近づけると起きるのだ。この事から鳳凰…いや幻獣とドラゴンは敵対関係にあるのだとカグヤは知る。


メニュー画面を開き、黒龍の装備を全て外す。そうするとカグヤはほぼ産まれたままの姿になる。身長150cm、目元と背中まで伸びている黒の長髪。胸元には白のレザーが巻かれていて凹凸などなかった。


「お、お姉様…」


カゴメは顔を真っ赤にして恥ずかしがるがカグヤを凝視している。


カグヤは鳳凰石を掴むと目の前にメニュー画面が出てくる。


『黒龍の呪いを解除しますか?Yes/No』


カグヤはそれを見ながらカゴメの前に見せる。


「……武具は黒龍で揃える」


カゴメは赤い顔を一瞬で素面に戻し、考える。答えは決まっているが前で捨てられた子猫のような表情でこちらを見ているカグヤを楽しみたいのだ。


「良いですわよ。それよりもお姉様、黒龍の呪いとはなんですか?」


「…これ」


カゴメに問われたカグヤはステータスの状態異常の画面を提示する


黒龍の呪い 対象カグヤ


黒龍カラミットの呪い。六天龍の中でも深淵を司るカラミットの呪いは対象を死に導く反面、契約する為の試練とも呼ばれる。


呪い内容

HP50%DOWN

全能力ステータス20%DOWN

モンスターヘイト率40%UP

パーティーメンバー全ステータス15%DOWN

戦闘時パッシプスキルランダム封印


「……お姉様、失礼ですが今のステータスを見せて貰って構いませんか?」


カゴメは目の前に映し出されている呪いの画面に唖然とした。呪いの内容が明らかに異常なのだ。下手をしたら掲示板に晒しあげ、GMに抗議をしてもいいレベルであった。


「…うん」


カグヤはカゴメの反応を特に気にする事なく呪いの一つ前のステータス画面に戻す。



名前:カグヤ

職: 閲覧できません

レベル45

性別:不詳

武器:なし

防具:なし

スキル:閲覧できません

能力値: STR 249(20%DOWN)

VIT 184(20%DOWN)

AGI 268(20%DOWN)

INT 184(20%DOWN)

DEX450

加護:戦神 精霊王 黒龍

称号:


カゴメは改めて目の前の存在が廃人(化け物)だと理解した。現段階でこれだけのステータスを保持してるのは間違いなく目の前にいる存在だけだ。自分の最大能力であるVITは100に満たない。全てのステータスがそれらを越えていて、職業も十中八九上位または最上位なのだろたう。


「…?」


カグヤが不思議そうな顔でカゴメを見る。髪の間から覗く黒い目には感情が読み取れない。カゴメはその眼が好きだった。あの時から何も変わらず、本当にゲームの世界の住人ではないかとおもってしまう程に暖かい(冷たい)眼。


「ぜひ使ってください。お姉様が呪いに掛かってるなど私は認めません」


カゴメはそう言ってカグヤを抱きしめようとするが流石にハラスメント行為とみなされ、見えない壁に阻まれる。


「…ありがとう」


カグヤはそう言ってYesを選択する。


ボウ…


鳳凰石からさっきとは違う真紅の炎がカグヤを包み込む。炎から逃げる様にしてカグヤの身体から漆黒の影が溢れ出るが炎がそれを飲み込む。炎がカグヤの右手に集まりカラミットの片翼と見た事もない鳥の片翼がクロスである。


『運営から皆様にお知らせです。あるプレイヤー達の協力により黒龍カラミットの呪いが解かれました。これにより呪いの代償により黒龍カラミットが狂化し怒り狂いプレイヤー達に襲い掛かるイベント『黒龍襲来』が実装されます。『黒龍襲来』はあと一週間後に実装される大型アップデート『失われた記憶』から2ヶ月後に発生します。勝利条件は黒龍カラミットを討伐する事です。敗北条件は伏せさせて頂きます。それでは良き楽園の旅路があらん事を。運営からのお知らせでした』


ワールドボイスでそう発表される中でカグヤは笑っていた。目の前でマヌケの様に口を開けているカゴメに対してではなく約束をした黒龍がこんなにもは早く帰ってきてくれる事が嬉しいのだ。次こそは負けないと意気込む。目の前に居るカゴメが何かを言っているがカグヤは気にしない。二ヶ月であの黒龍を殺す為の武器を作らないといけないのだ。小さな事にかまっていられない。カゴメの装備を作り直ぐにまた新しい素材を集めないといけない。失われた記憶でミーくんをもう一度仲間にしてまた一緒にドラゴンを狩りに行く。カグヤの思考回路はその事にしか向けられていなかった。そしてその一歩としてカグヤはカゴメに言う。


「全部…脱いで」


別の意味で部屋が慌ただしくなったのは別の話。




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