木と私
いま私は木に身を委ねて座っている。
大草原の中にポツンと、いや見方によっては堂々と立っている木。
ここに存在するのは草と木、そして私。
地平線の向こうまで果てしなく広がる草原が、私の中に存在する苦しみや侘しさを何処か遠くの見えない場所まで運んで行ってくれそうだ。
一見それは有り難く思えるが、その感情を私から奪い取ったら一体、私の中には何が残るというのか。
木は、いわば私自身だ。孤独だし、言いたいことを口に出すこともできない。
だがこの木が今までどのような環境で生きてきたのかなんて、知りもしない。
生まれた時から1人だったのか、それとも周りの仲間はすでに死んでしまったのか。
私としては後者であることを願っている。この木が初めて体験する別れの相手が私ごときであってはならない。
あるとき私は木漏れ日を浴びた。今までにない感情が芽生えはじめた。いや、はるか昔に感じた、忘れかけていた感情だ。
それをこの木が思い出させてくれた。
この時私は、木と私が違うことに気付いた。
あるとき雨が降った。木は私を守ってくれた。
私は1人じゃないと感じた。
この木が感じさせてくれた。
私は木になりたいと思った。