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キーボードをゴリゴリ叩いて1週間で約12万字

 社会人2年目の夏、私は数年ぶりの新人賞応募に向けて長編のプロットを書き起こした。図書館に行って題材の情報収集を行い、モデルとなる実地に足を運んだ。学生時代と変わらないスタイルでプロットを作る。


 そして初稿を書き殴った。多少の微妙な表現があっても、やきもきしない。ひたすら書く。修正は最後に行うとして、手を止めずに1日中書いた。夏季休暇合わせて1週間近く、部屋でキーボードを叩きまくった。この間、他のことはしていない。せいぜい1日だけ近所の豚骨ラーメンを食べに行ったくらいだ。


 久々に充実した時間だった。加えて、自分はまだ長編を書けるという安心もあった。筋トレと同じで、一度止めると調子を取り戻すのも一苦労だからだ。


 面白いかどうかはさておき、創作活動は生みの苦しみを味わう。特に重要なのは忍耐力で、妥協する程度なら時間の無駄だからやらない方が良いとすら思っている。


 初稿を書き終え、数日寝かせてからもう一度読み返す。さすがに雑な仕上がりだった。


 物語の構成に違和感があったので、書いては消してを繰り返し、シーンを入れ替えて、全体的な改造を図った。もう一度読み返して、気になるところは手を加えていく。1つのエピソードを丸ごと消したこともあった。


 ほぼほぼ完成し、作曲家を目指す友人にも試し読みを依頼した。学生時代、公募で全落ちした経験は忘れていなかった。


 新人賞の投稿方法を改めて確認すると、紙原本の郵送は廃止され、インターネットの特設サイトにアップロードする手続きに変更されていた。投稿はすんなり終わり、その日はスーパー銭湯でご褒美にコーヒー牛乳を買った。


 小説を書くのはキツい。そもそも創作活動はゼロからの自己発信だから、作業途中で孤独と不安に襲われる。


 本当に自分が書いた作品は面白いのか。人に読ませられるレベルなのか。読んでくれた友人は、本心を私に教えてくれていただろうか。


 けれど考えても仕方ないなと開き直る。結果が出たら面白いかどうか分かる。読者がいない限り、答えは出ない。だから書いているんだ、と自分に問い質す。


 3年ぶりの新人賞の投稿を終え、久々の充実感に浸ったところで、別の現実に向き合った。


 長編小説を書いていた時期、仕事はかなり伸び悩んでいた。案の定、転職も視野に入れ始めていた。そりゃそうだ。大学時代の専攻学部と全く関わりのない分野に就いて、興味もクソもない仕事なのだ。


 転職を踏み止まったきっかけは、当時つき合い始めた恋人の存在だ。その恋人は後に妻となる。


 彼女がいなかったら、2年目の秋に仕事を辞めていたのは間違いない。一緒にご飯を食べたり、バイオリンコンサートに行ったりするのがリフレッシュになっていた。


 とはいえ、仕事を上手く回せず、燻っていた時期だったので、精神的には厳しかった。上司からもストレートに意欲低下を指摘されたし、私も半ば不貞腐れていた。


 だが、同じくらい悔しかった。分不相応な業務をしているわけではなく、自分の仕事に対する勉強不足が原因だったからだ。


 なにくそ、という気持ちでもう一度勉強した。その後すぐに上司は転勤したが、いまだに飲み会で当時の話をすることがある。その度に「辞めるかと思ったら踏ん張ったな」と笑われる。


 社会人3年目の7月、私にとっての受験シーズンに突入した。1次審査結果の公表日、仕事終わりに出版社のサイトをチェックすると、ページが更新されていた。


 学生時代の全作品1次審査落選という経験をしていながら、やはりどこかで期待する自分がいた。


 今度こそいけるんじゃないか。自分で生計を立て、仕事しながら執筆の時間を作って作品を完成させた。『小説家デビュー計画』は継続している。私はまだ諦めていないのだ。


 1次審査を通過した作品のリストを開く。


 倍率は3年経ってもいまだに高い。作品名がない。でも、難易度の高さを承知で、この新人賞に絞って挑戦している。ない。ない。自分が書いた本を手に取ってくれた誰かを楽しませたい。書く仕事がしたい。ない。ジャンルにこだわらず、幅広く挑戦してみたい。ない。


 ないなあ。


 ああ、このパターンよく知ってる。というか、これしか知らない。


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