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手にした切符と7年後越しの告白

 関東生まれ関東育ちの私だが、就職先は九州だった。希望していた事務職である。もし九州行きを拒めば、警察官か陸上自衛官になるところだった。


 もし警察官か陸上自衛官を選んだらどうなっていただろうと想像する。集団行動アレルギーは明白なので、研修の時点で夜逃げしただろう。


 とはいえ、事務職を選ぶためだけに、縁もゆかりもない九州に飛ぶのは、さすがに躊躇われた。いくらなんでも好奇心1つだけでひょいっと行ける場所ではない。ましてや母に何と話せば良いのか。


 「本当は小説家になりたかったけど新人賞は箸にも棒にも引っかかりませんでした。他にやりたいことがないから公務員試験を受けたけど、事務職で採用された行先は九州でした。奨学金の返済もあるし、退学歴がありながらも内定をいただけたので、ちょっくら九州で働いてきます」


 意志ブレブレで将来フラフラな言い分が完成した。ただ、ここまで積み重ねてきた失敗と選択の数々を振り返ると、相応なのではないかと納得してしまう。


 ある日の夜、缶ビール2本目を開ける母に進路を伝えた。


 「九州行ってくる」


 きっと断られるだろうなと思った。今からでも市内、せめて関東圏で仕事を探せと言われるだろうな。そんな諦観を抱きながら母の言葉を待った。


 母は缶ビールを置いて一言、


 「遠いねえ。でも、あんたがそう決めたなら良いんじゃない」


 それだけだった。


 姑息な私は、多少酔っ払った状態で進路を伝えてイエスをもらおうという魂胆だった。だが、母は適当に答えた様子もなく、事実を事実として受け入れていた。


 母はビールで喉を潤してからさらに言葉を発した。


 「正直びっくりしたけどね。でも自分で決めたならそれで良い。あんた、昔から何も言わないから心配だったけど。そのくせ、いきなりやらかして学校辞めるし」


 母にとっても相当堪えた出来事だったのは間違いない。ビールの苦さとは違うニュアンスで、母は口をへの字にした。


 思えば、高校を退学してから、母の厳しさは和らいだ気がする。あれは良くも悪くも、母なりの子離れの努力だったのかもしれないと、このとき気づいた。


 であれば、仮に私が大学受験の際に小説家として働きたいという本音を話していたら、母は認めてくれたのだろうか。そう考えたとき、私もまた親離れできていない事実と対面した。


 認めてくれなければ、小説家を目指してはいけないのか。そんなわけがない。事実、私は秘密裏に小説を書き続けてきた。


 とどのつまり、私に『個』を打ち出す勇気と熱量が足りなかっただけなのだ。みんなで足並みを揃えて歩く時代はとっくに終わっているのに、私は周りの歩幅を気にし過ぎていた。


 今更そんなことに気づいても、もう遅い。対話をせず、自分の解釈だけで嘘の選択を続けてきた代償だ。後悔はなかったし、むしろ今こそチャンスだった。私は15歳に抱いた夢を7年越しに伝えた。


 「あのさ」


 「何」


 「いつか物書きになりたいと思ってる」


 「いやー、物書き?それで食べていくのはさすがに難しいんじゃないの。ちゃんと働いておきな」


 やはり、母は母であった。


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