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嘘で塗り固めた主体性の末路

 中学3年生の頃、将来は小説家として働こうと決めた。秋の受験シーズン直前に、友人と呑気に語り合ったのを憶えている。


 友人は作曲家。私は小説家。大人になったらいつかコラボしよう。放課後、友人宅の前で胡坐をかきながら3時間近く話し込んでいた。


 中学時代は専らライトノベルにハマり、ひたすら読みふけっていた。いつしか「自分で書けるんじゃないか?」という根拠のない自信が生まれ、友人に宣言したのだ。


 だが、家に帰った私は本気だった。塾に行くまでの時間、受験勉強そっちのけでパソコンに向かった。小説家デビューまでの過程と小説執筆の技術を調べ、大学ノートに書き込んだ。脳内でずっと燻っていたネタもノートに大放出した。当時好きだった作品のテイストに寄っていたが、自分以外に誰も知らない物語の断片を創出した喜びを覚えた。


 タイムリーなことに、受験生として進路を考える時期だった。けれど、母に小説家の話をすることはできなかった。


 以前、私は鉄道会社に就職すべく、鉄道に特化した高校への進学を母に相談したことがある。その際、母から「鉄道業界一本に進路を狭めることはないんじゃない」とやんわり断られた。


 今思えば、鉄道以外にも興味関心を持って進路を考えてほしいという意味だったのかもしれない。ただ、当時は「もう話しても通じないだろうな」と意気消沈してしまった。また、母に言い返すほど鉄道会社に熱意がなかった自分にも気づき、失望した。


 母子家庭なので、母は労働と家事を1人で背負い、私と妹を育てた。長男だった私にはとりわけ厳しかった。私は私で情けなく、怒られても全然反抗できなかった。毎回黙っているだけで、いつしか「個」を発信する意思と自信を勝手に捨てていた。


 結局、母に夢を打ち明けられないまま、私は小学生の頃から続けていた剣道をやるために市外の高校に進んだ。これも自分の意思に反した行動で、本当は市内の高校で十分だった。けれど、母から「理由もなく進学しても意味がない」と却下され、取ってつけたような理由として「剣道を続ける」名目で進路を決めた。


 本音は剣道を辞めて、高校と大学は勉強と並行して小説執筆に時間を充てたかった。けれど、私は自分に嘘を吐いて、中途半端な感情を抱いたまま次のステージに駆け出した。


 高校進学後、午前5時20分に起床し、電車を乗り継いで自転車を漕ぎ、1時間かけて高校に通っていた。道場の清掃と、先輩が練習中に飲む2リットルペットボトル8本の水汲みを済ませてから、学業の1日が始まる。


 放課後は練習に励み、学校を出るのが午後8時頃。帰宅はいつも午後9時過ぎで、就寝が午後11時頃だったか。布団に入ると死んだように眠り、一瞬で目覚まし時計の喧しい音に起こされる。


 決して異常な日々を過ごしていたわけじゃない。高校の運動部なんてこんなものだ。ましてや強豪校でもないし、日曜日はオフだった。


 実際に過ごしてみると、なんだかんだ適応していた。怪我に見舞われて辛酸をなめる時期もあったが、泣くまいと歯を食い縛って剣道に向き合って、困難が成功に切り替わる瞬間も経験した。


 部活動に精を出す一方、通学中の電車で小説の書き方を勉強した。休日の日曜日に書いた小説を投稿サイトにアップしたら感想がついて、少し自信が持てた。読んでくれる第三者がいたことに、心の底から感動した。自分の人生を自分で動かしている実感に包まれた。


 部活動と学業と執筆活動。バランスさえ守れば両立できただろう。でも、当時の私は「適宜」を知らず、「忍耐」も甘く、「失敗」と「叱責」を恐れた。


 自己中心的で曖昧な心が、自分勝手に折れた。


 家族や友人に相談できなかった私は、高校を辞めた。高校を辞めるということは部活動も辞めることだから、その選択は当時の私にとって間違いなく善だった。


 退学後、本当にスッキリしたのを記憶している。枷が外れて、自分がこの先何にでもなれるような錯覚に囚われた。最終的に高校を決めたのも、母に夢を話さなかったのも、進学の言い訳に剣道を使ったのも自分なのに。


 結局、知人が見つけてくれた私立高校に編入し、留年を免れた。幸い、勉強にはついていけていたので、学業に支障はなかった。過程は最悪だったが、小説を書く時間を得た私は執筆に時間を費やしていく。


 小説投稿サイトで連載を始めた作品は、少しずつ読者を得て、感想もいただけるようになった。小さなサイトだったが、オリジナル作品の閲覧数で上位にランクインする日もあった。そうした結果が自信に繋がり、創作意欲を刺激した。


 もっと面白い小説を書きたい。読者の日常に楽しい時間を提供できる作品を生み出したい。そんな思いでネタを探し続けた。


 一方、作曲家を目指す友人もニコニコ動画等のツールを使って作品投稿を続けていた。同志の活動に触発されて、さらに活動の意欲が増した。


 ちなみに、大学ノートに書き殴った『小説家デビュー計画』によると、高校在学中は小説投稿サイトで研鑽を積み、大学在学中に公募に長編を投稿して就活前に受賞、と計画されている。


 希望に満ちたライフプランを構築し、人生無敵状態だった私だが、退学から1年ほど経ったある日、再び理想と現実の間でモヤモヤすることとなる。


余談ですが、文中に出てくるネット小説の投稿作品が、当時「暁」で連載していた小説です。「なろう」にも投稿しており、今も公開中にしていますが、読むに堪えません。読まないでください(爆)

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