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夢はふっと覚めるもの

 外科的処置を終えた入院1日目は、発熱と右胸の疼きでろくに寝られず、白い天井を眺め続けた。管の先には、肺の外に漏れた空気を吸い上げるドレナージがついており、寝返りも胸の痛みと引き換えに行わなければならない。


 睡魔と鈍痛の狭間で、白い天井に自分の選択の数々を貼り出してみた。


 勉強し直したら実務に活かせるようになってきた仕事。小説家としてデビューするために続けた創作活動。日中の活動を増やすために削った睡眠時間。パンや即席ご飯で時短を図った食事。今の自分に必要なライフサイクルを整備したつもりだったが、気づかぬうちに肉体の悲鳴を聞き逃していたらしい。


 先生は気胸の原因を言わなかった。ストレスとも過労とも栄養失調とも言わない。先生はハキハキと、穏やかな声音で説明した。


 「若い人は突発的になるんですよ。罹患の傾向に痩せ型とか長身とかはあるけど、それだって一概には言えないですし。何が原因とは明言し難いですが、今はとにかく休んでほしい」


 入院は1週間と指示された。その間に穴が塞がらなければ延長になるし、場合によっては手術に移行するとのことだった。


 翌日以降、私は1日の大半を睡眠に費やした。今までの睡眠時間を取り返すように、ひたすら寝た。別に無理やり寝たかったわけではなくて、本当にずっと眠かった。胸痛は断続的ながら、睡魔には勝てない。


 入院中、いろいろ考えた。仕事のこと。小説のこと。少なくとも今と同じ生活をこれ以上続けるのは厳しい。


 先生は断定しなかったが、気胸の原因に過労はあるはずだ。身体は1つしかないのに、何もかも全力でやろうとするのは傲慢なのだと言い聞かせた。


 入院5日目に胸部レントゲンを撮ったところ、肺の穴は自然治癒で塞がり、肺も膨らみ始めたため、退院の許可をいただいた。7日間の入院生活だった。


 退院当日、先生は枕詞のように「次また肺に穴が開いたら、確実に手術ですからね」と念押しした。穏やかな声にもかかわらず、医学の知識に裏打ちされた圧はいまだに忘れられない。


 退院後は職場の先輩や妻に謝り、母にも顛末を報告した。不摂生で仕事に穴を空けるような暮らしをしているようでは、とても社会人とは言えない。ふわふわした心地で病院を後にした。


 土日を挟んだ翌週には仕事に復帰し、生活のギアを少しずつ上げていった。


 創作活動は自粛していた。入院中に体重が減り、体力も全快していなかったからだ。ただ、結局その年度は小説を書かなかった。


 10年近くライフサイクルの根幹に君臨してきた創作活動に影が差したのを、私は実感した。


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