第五章:帝国動乱編 第3話 帰都 ― 王が戻る場所
王が都へ戻る時、
それは必ずしも凱旋ではない。
歓声も、
祝福も、
沈黙さえも、すべてが試金石となる。
王が戻るのは、居場所ではなく、問いが集まる場所だ。
帝都は、
王を迎える準備を整えていた。
帝都へ続く街道。
白い石畳が、
遠くまで伸びている。
アリアは、
馬上ではなく、
徒歩で進んでいた。
外套を羽織り、
剣も旗も持たない。
エリオン
「歩く必要は、
なかったのでは。」
アリア
「……見たい。」
アリア
「……この国を……
足で……
感じたい。」
街道沿いの村。
人々が、
遠巻きにこちらを見る。
誰も、
近づいてこない。
だが、
視線だけは、
確かに集まっていた。
市民A
「……王……?」
市民B
「……前線の……
あの……。」
囁き。
ためらい。
アリアは、
一人ひとりに、
軽く頭を下げた。
それだけで、
誰も追ってこなかった。
***
帝都・北門。
巨大な城門が、
ゆっくりと開く。
号令はない。
音楽もない。
衛兵たちは、
整列しながらも、
剣を掲げなかった。
衛兵隊長
「……風哭の王アリア。」
衛兵隊長
「入城を、
許可します。」
その声は、
事務的だった。
アリア
「……ありがとう。」
城内。
いつもより、
人通りが少ない。
市民たちは、
通りの端に寄り、
無言で見送る。
歓声は、
上がらない。
罵声も、
ない。
それが、
何より重かった。
ロウガ
「……空気、
重すぎだろ……。」
エリオン
「試されている。」
アリア
「……うん。」
***
皇城・評議院前。
石段の上に、
評議員たちが並んでいた。
拍手はない。
第一評議員
「風哭の王アリア。」
第一評議員
「ご足労、
感謝します。」
その言葉に、
温度はない。
第一評議員
「本日、
王権整理に関する協議を行います。」
第一評議員
「王も、
一参加者として。」
その言葉が、
はっきりと告げた。
アリアは、
“上座”ではない。
アリア
「……わかった。」
その反応に、
一瞬、
評議員の眉が動いた。
***
協議の合間。
中庭。
アリアは、
一人、
噴水の前に立っていた。
水は流れている。
風は、
ほとんどない。
そこへ、
一人の老人が近づく。
老官僚
「……久しぶりですな。」
アリア
「……はい。」
老官僚
「昔の王は、
この庭に立つだけで、
空気が変わった。」
アリア
「……今は?」
老官僚
「今は……
皆、
自分で考えねばならない。」
アリアは、
噴水を見つめた。
アリア
「……それは……
悪いこと……?」
老官僚
「……さあ。」
老官僚
「だが……
楽な時代では、
なくなりましたな。」
老人は、
静かに去っていく。
***
その夜。
城内の一室。
簡素な客間。
王の部屋ではない。
アリアは、
椅子に腰掛け、
深く息を吐いた。
アリア
「……帰ってきたのに……
帰った気が……
しない。」
エリオン
「それが、
都だ。」
エリオン
「役割を、
人から切り離す場所。」
アリア
「……私は……
何を……
試されてるんだろう。」
エリオン
「王である必要性。」
沈黙。
窓の外で、
帝都の灯が揺れる。
アリアは、
静かに立ち上がった。
アリア
「……明日……
全部……
聞こう。」
アリア
「……逃げずに。」
その決意に、
風は、
答えなかった。
だが、
帝都そのものが、
返事を準備していた。
評議院での本格協議。
王権整理案の中身が、
ついに明かされます。




