第五章:帝国動乱編 第2話 反意 ― 王を必要としない帝国
国は、
王がいなくても回る。
少なくとも、
そう信じたい者たちは、いつの時代にも存在する。
秩序。
制度。
前例。
それらは便利だ。だが同時に、変化を拒む盾にもなる。
帝国は今、王ではなく、“王の不在”を裁こうとしていた。
皇城・評議院。
朝の光が、
高窓から差し込み、
半円の議場を照らしている。
だが、
空気は重い。
第一評議員
「本題に入ろう。」
第一評議員
「風哭の王アリアは、
帝都への帰還要請を拒否した。」
ざわめき。
貴族A
「拒否……?」
文官B
「命令ではないとはいえ、
要請を無視する前例は……
問題だ。」
軍高官
「彼女は、
現在も前線で民の救済を続けている。」
貴族C
「それが問題だ。」
視線が集まる。
貴族C
「王が、
戦場でも宮廷でもなく、
“現場”に留まる。」
貴族C
「それでは、
帝国の中枢が空洞化する。」
第一評議員
「つまり……
王が“必要ない”状況が、
生まれている。」
その言葉が、
議場に落ちる。
反王派。
その輪郭が、
はっきりと浮かび上がった。
***
別室。
数名の評議員と貴族が、
小さな円卓を囲んでいる。
貴族A
「王が前線にいれば、
民は王を見る。」
貴族B
「だが、
帝都は誰を見る?」
文官
「制度だ。」
文官
「我々が作った、
秩序だ。」
貴族A
「風哭の王は、
制度を越えすぎた。」
貴族B
「ならば、
制度の側を
強化すべきだ。」
沈黙。
文官
「……“王権整理案”を
進めましょう。」
その言葉に、
全員が頷いた。
***
同じ頃。
帝都下層区。
広場では、
即席の演説台が立てられていた。
市民A
「王様が……
帝都に……
いないんだって……。」
市民B
「前線にいる方が、
正しい気もするけど……。」
演説者
「皆さん!」
ざわめきが、
静まる。
演説者
「我々は、
王に頼りすぎていませんか!」
演説者
「制度がある。
軍がある。
評議院がある!」
演説者
「王がいなくても、
帝国は回る!」
拍手と、
戸惑いが混じる。
その光景を、
路地裏から見ている影があった。
影
「……始まったな。」
***
北方。
風なき地。
アリアは、
子どもたちと一緒に、
壊れた柵を直していた。
子ども
「……王……
お城に……
帰らないの?」
アリア
「……うん。」
アリア
「……今は……
ここ。」
子ども
「……怒られない?」
アリアは、
少し考えて、
笑った。
アリア
「……怒られるかも。」
子ども
「……へへ。」
その背後で、
エリオンが、
静かに声を落とす。
エリオン
「帝都が……
動き始めている。」
アリア
「……うん。」
エリオン
「王を、
必要としない方向へ。」
アリアは、
手を止めた。
アリア
「……それも……
選択だよ。」
エリオン
「受け入れるのか。」
アリア
「……受け入れるか……
向き合うか……
まだ……
決めてない。」
その時。
遠くから、
帝国の伝令馬が近づく。
封書。
皇城の紋章。
アリアは、
それを受け取った。
封を切る。
中の文面は、
短く、
だが重かった。
『王権整理に関する協議のため、
帝都への出席を要請する。』
アリアは、
目を閉じた。
アリア
「……来たね。」
風が、
ほんのわずかに、
揺れた。
戦場ではない。
だが、
次の戦いは――
確実に、
帝都で始まろうとしていた。
アリアがついに帝都へ向かいます。
それは凱旋でも、
召還でもない。




