第五章:帝国動乱編 第1話 静かな火種 ― 王の不在
戦争が遠ざかった時、人は安堵する。
だが、
本当に危険なのは、剣が振るわれない場所で生まれる。
王が前線に立たない時、
誰が決め、
誰が責任を負うのか。
風災編の終わりは、平和の始まりではない。
それは、
別の火種が、静かに燻り始める音だった。
帝都。
白い石畳の大通りは、今日も人で溢れていた。
商人の声。
馬車の軋み。
いつも通りの光景。
だが、
その裏で、確実に何かが変わっていた。
酒場の片隅。
男A
「……聞いたか。」
男B
「風哭の王の話だろ。」
男A
「戦争を止めたって?」
男B
「いや……
止め“なかった”って言う方が、
正しいらしい。」
男A
「曖昧だな。」
男B
「王が……
命令しなかったんだと。」
男A
「……は?」
男B
「選ばなかった。
どちらも殺さなかった。」
男A
「それで……
帝国は助かったのか?」
男B
「……それを、
今、
みんなが考えてる。」
笑い声は、
起きなかった。
***
皇城・評議院。
半円形の議場。
久しぶりに、満席だった。
貴族。
軍人。
官僚。
誰もが、落ち着いた顔を装っている。
第一評議員
「風災は終息しました。」
第一評議員
「ですが……“王の行動”について、整理が必要です。」
別の評議員
「整理とは?」
第一評議員
「前線で、王が……軍令を越えた判断をした件。」
ざわめき。
軍高官
「結果的に、戦線は維持された。」
文官
「ですが、“前例”ができた。」
貴族
「王が命令しないなら、誰が責任を負う?」
別の貴族
「そもそも……あの王は……帝国の王なのか?」
その言葉に、空気が凍る。
***
同じ頃。
皇城の奥。
高窓の部屋。
皇帝ガルディアスは、一人、立っていた。
側近
「陛下……評議院が……騒がしくなっております。」
ガルディアス
「わかっている。」
側近
「風哭の王の存在が……制度に合わないと……。」
ガルディアス
「制度が、現実に合わなくなっただけだ。」
皇帝は、
ゆっくりと振り返る。
ガルディアス
「王とは、命令する者ではない。」
ガルディアス
「選択の重さを、背負う者だ。」
側近
「……ですが……民は……混乱しています。」
ガルディアス
「混乱は、成長の前触れだ。」
皇帝は、机の上の書簡に目を落とす。
差出人。
――帝国北方軍。
そこには、短い報告があった。
『前線、風哭の王、帝都への帰還要請を拒否。』
ガルディアス
「……戻らぬ、か。」
その表情は、怒りでも、失望でもなかった。
むしろ――
覚悟だった。
***
北方。
風なき地の外れ。
アリアは、小さな集落の修復を、まだ続けていた。
アリア
「……これで……大丈夫。」
住民
「王……帝都へ……戻らなくて……いいんですか?」
アリアは、少し考え、答えた。
アリア
「……今は……ここに……必要だから。」
その背後で、風が、ほんのわずかに揺れる。
帝国では、新しい火種が生まれ。
前線では、新しい秩序が芽吹く。
王は、まだ知らない。
この選択が、
次に試される場所が――
戦場ではなく、“帝国そのもの”であることを。
帝国内で、
明確な「反王派」が動き始めます。




