第四章:風災編 第36話 招かれざる使者 ― 王への問い
王は、
剣で問われることもあれば、戦で試されることもある。
だが、
最も重い問いは、いつも静かに届く。
それは命を奪わず、血も流さない。
ただ、
逃げ場を与えない。
風は、
その問いが近づいていることを、すでに知っていた。
北方前線。
夜明け前の野営地。
焚き火は落ち、
兵たちは交代で眠りにつく。
アリアは、
まだ起きていた。
アリア
(……眠れない。)
その時。
見張り兵の声が、
低く響いた。
兵
「……使者だ。」
霧の向こうから、
一人の影が歩いてくる。
武器は持たず、
旗も掲げず、
ただ真っ直ぐに。
セレスタ
「止まれ。
名と用件を。」
影は立ち止まり、
外套のフードを下ろした。
若い女。
灰色の瞳。
風を拒む、
静かな気配。
使者
「私は、
風無き王国の使者。」
兵たちがざわめく。
ロウガ
「堂々と来やがって……。」
使者
「武器も、
脅しもない。」
使者
「ただ、
王に“問い”を届けに来た。」
アリアは、
一歩前へ出た。
アリア
「……私?」
使者
「はい。
風哭の王アリア。」
使者は、
一通の封書を差し出す。
使者
「我が王、
カイロス陛下から。」
セレスタ
「罠だ。」
使者
「それでも、
あなた方は読む。」
アリアは、
静かに封書を受け取った。
封を切る。
中にあったのは、
たった一行。
『もし、
風が一切存在しない世界で、
人は救えるか。』
アリアの胸が、
強く鳴った。
アリア
「……これは……
質問……?」
使者
「はい。」
使者
「剣ではなく、
戦でもなく。」
使者
「“答え”を、
見たいのだと。」
エリオン
「答えなければ?」
使者
「答えは、
いずれ示される。」
使者
「我が王は、
あなたが……
“どこまで耐えられるか”を
知りたがっている。」
ロウガ
「……嫌な野郎だ。」
アリアは、
紙を見つめたまま、
しばらく黙っていた。
アリア
「……風がない世界……。」
アリア
「……それでも……
人を守れるか……。」
風は、
何も答えない。
それが、
逆に重かった。
アリア
「……答えは……
すぐには出ない。」
使者
「構わない。」
使者
「急いではいない。」
使者
「ですが……
次に会う時、
王は“結果”を
見るでしょう。」
使者は、
一礼し、
霧の中へ戻っていく。
セレスタ
「行かせるのか。」
アリア
「……うん。」
アリア
「これは……
戦争じゃない。」
アリア
「……私への……
問いだから。」
夜明け。
空が、
ゆっくりと白む。
風は、
まだ戻らない。
だが、
アリアの胸の中で、
新しい戦いが始まっていた。
・風無き王国からの正式な使者の来訪。
・カイロスが突きつけた“思想としての問い”。
・戦争から哲学的対立への深化。
・アリアが答えを急がず、受け止める選択。
が描かれました。




