第四章:風災編 第35話 余波 ― 王の選択が残したもの
戦わなかった戦場は、血を流さない代わりに、心に深い痕を残す。
剣を振るわず、敵を討たず、それでも世界を動かす選択がある。
王が示した“選ばない”という答えは、誰にも奪えないはずの秩序を、静かに揺さぶり始めていた。
北方平原。
戦車が去り、
人々が散り、
戦場は空白を残した。
風は、
まだ戻らない。
だが、
沈黙は、
先ほどまでとは違っていた。
帝国兵の一人が、
地面に腰を下ろす。
兵A
「……生きてる……。」
兵B
「……誰も……
死んでない……。」
信じられない、
という声だった。
セレスタは、
陣の中央に立ち、
全体を見渡した。
セレスタ
「戦闘終了。」
短い言葉。
だが、
誰もすぐには動かなかった。
兵たちは、
アリアを見ていた。
英雄を見る目ではない。
神を見る目でもない。
“選択を見届けた者”の目だった。
アリアは、
民たちの元へ歩み寄る。
震えていた老女が、
アリアの外套の端を掴んだ。
老女
「……ありがとう……
王様……。」
アリア
「……王じゃなくて……
アリアだよ。」
老女は、
涙を浮かべて頷いた。
老女
「……それでも……
あなたは……
王だった……。」
その言葉に、
アリアは何も返せなかった。
***
野営地。
焚き火が、
低く燃えている。
ロウガ
「……勝ったのか?」
エリオン
「……違う。」
エリオン
「ただ……
終わらせた。」
アルフレッド
「帝国本国から、
すでに伝令が飛んでいます。」
ゼフィール
「“戦わずに民を救った王”。
……噂は、
止められないな。」
セレスタは、
黙って焚き火を見つめていた。
セレスタ
「帝国は……
この王を……
どう扱うべきか……
答えを持っていない。」
アリア
「……迷惑……
かけた?」
セレスタ
「いいや。」
セレスタ
「ただ……
秩序が、
追いついていない。」
その夜。
帝都。
皇城の高窓で、
皇帝ガルディアスが、
報告書を閉じた。
ガルディアス
「……殺さず、
選ばせず、
退かせた……か。」
側近
「前例が……
ございません。」
ガルディアス
「前例は、
作られるものだ。」
ガルディアスは、
夜空を見上げた。
ガルディアス
「……風哭の王。」
ガルディアス
「帝国は、
お前を……
簡単には手放せん。」
***
同じ頃。
北の彼方。
無風の城。
歯車の音だけが響く玉座の間。
カイロスは、
仮面を外していた。
疲労。
苛立ち。
そして、
わずかな……興味。
カイロス
「……折れなかった、
か。」
側近
「王よ。
次は……
より確実な手を……。」
カイロス
「必要ない。」
側近
「……?」
カイロス
「彼女は、
“選ばない王”だ。」
カイロス
「それは……
世界にとって、
最も危険だ。」
歯車が、
低く唸る。
カイロス
「次は……
彼女自身に、
選ばせる。」
***
前線野営地。
アリアは、
一人、
空を見上げていた。
風は、
まだ戻らない。
だが、
胸の奥で、
何かが動いている。
アリア
(……これで……
良かったのかな……。)
その問いに、
答える風は、
まだ吹かなかった。
だが、
世界は確実に、
彼女の選択を覚えていた。
・戦わずに終えた戦場の余波。
・兵と民の視線の変化。
・帝国皇帝の評価と政治的影響。
・風無き王カイロスの新たな狙い。
・アリア自身の内面に残る迷い。
が描かれました。




