第四章:風災編 第34話 対抗策 ― 王を折る戦争
王を殺すことは、戦争を終わらせない。
だが、
王の心を折れば、その国は立っていても、もう前には進めない。
風無き王は、剣よりも残酷な答えを選んだ。
それは、
力ではなく、“選ばせる”という戦争だった。
北方平原。
無風陣を前に、
風無き王国軍は後退していた。
だが、
それは敗走ではない。
整然とした、
計算された距離。
セレスタ
「……引き際が、
あまりに綺麗すぎる。」
アルフレッド
「撤退ではありません。
再配置です。」
アリアは、
胸に手を当てた。
アリア
(……嫌な……
感じ。)
その時。
前線の空気が、
さらに重くなった。
風はない。
だが、
“圧”がある。
ロウガ
「……来るぞ。」
地面が、
低く鳴る。
遠くから、
運ばれてくるのは――
人の声だった。
兵
「……あれ……
民……?」
視界の先。
無武装の集団が、
ゆっくりと前へ進んでくる。
老若男女。
子ども。
負傷者。
帝国北方の、
境界集落の住民たち。
エリオン
「……人質……?」
セレスタ
「……いや……
盾だ。」
アリアの息が、
詰まる。
アリア
「……そんな……。」
その集団の後ろで、
黒鉄の戦車が進む。
カイロスの声が、
再び、
直接響いた。
カイロス
「選べ、
風哭の王。」
カイロス
「前へ出れば、
民が死ぬ。」
カイロス
「退けば、
帝国軍が崩れる。」
カイロス
「どちらを、
守る。」
戦場が、
凍りつく。
兵たちの視線が、
一斉にアリアへ向かう。
期待。
恐怖。
信頼。
そのすべてが、
彼女に突き刺さる。
アリア
(……折る……
って……
こういうこと……。)
セレスタ
「王よ。」
セレスタ
「これは、
軍が対応する。」
アリア
「……違う。」
アリアは、
一歩、前に出た。
アリア
「……これは……
私の……
戦争。」
ロウガ
「アリア!!」
アリア
「……私は……
選ばない。」
カイロス
「……?」
アリア
「どっちかを……
犠牲にする選択は……
しない。」
アリアは、
武器も、
風も使わず、
歩き出した。
無風の地を、
一直線に。
セレスタ
「戻れ!!
撃たれるぞ!!」
アリア
「……撃たない。」
アリア
「彼は……
“王を折る”戦争を
してる。」
アリア
「ここで……
撃てば……
負ける。」
民たちの前で、
アリアは立ち止まった。
アリア
「……大丈夫。」
アリア
「……誰も……
見捨てない。」
民の一人が、
震える声で言った。
民
「……本当に……?」
アリア
「……うん。」
その瞬間。
無風の空間に、
小さな“揺らぎ”が生まれた。
風ではない。
だが、
確かに“動き”。
民たちが、
一歩、
横へずれる。
盾ではなくなる。
兵たちも、
呼吸を合わせ、
陣をずらす。
無風陣が、
形を変える。
カイロス
「……愚かな……。」
だが、
砲撃は来なかった。
カイロスの沈黙。
アリア
「……あなたは……
王を折りたい。」
アリア
「でも……
私は……
人を折らせない。」
長い沈黙の後。
カイロス
「……撤退だ。」
黒鉄の戦車が、
後退を始める。
民たちは、
その場に崩れ落ちた。
戦場は、
血を流さずに終わった。
だが――
これは、
勝利ではない。
王と王の、
最初の“本当の対話”だった。
・風無き王国の非対称戦術「王を折る戦争」。
・民を使った究極の選択の強要。
・アリアが「選ばない」という第三の答えを示す。
・無風陣が“思想として進化”する瞬間。
・カイロスが一時撤退を選ぶ理由。
が描かれました。




