第四章:風災編 第33話 無風陣 ― 人がつくる戦場
風がないなら、
人が動けばいい。
王が力を失った時、
残るのは、選択と行動だけだ。
戦場は、自然だけでできているわけではない。
恐れ。
信頼。
覚悟。
それらが重なった時、無風の地にも、確かな“流れ”は生まれる。
北方平原。
無風の戦場。
砲撃の間隔が、
一瞬、
空いた。
セレスタは、
その隙を見逃さなかった。
セレスタ
「今だ。」
セレスタ
「全軍。
陣形を――
“無風陣”へ移行。」
指揮官たちが、
一斉に号令を飛ばす。
指揮官
「第一列、
盾を合わせろ!」
指揮官
「第二列、
間隔を詰めろ!」
兵たちが、
互いの呼吸を確認しながら、
一歩ずつ動く。
風はない。
だが、
混乱もない。
アリアは、
兵たちの中心にいた。
アリア
(……みんな……
同じ方向を……
見てる。)
誰かが命令しなくても、
誰かが支えれば、
次が動く。
その連鎖が、
陣を形作っていく。
ロウガ
「……これ……
不思議だな。」
エリオン
「王が前にいるだけで、
兵が……
迷わない。」
アリアは、
小さく首を振った。
アリア
「……違う。」
アリア
「私が……
前にいるからじゃない。」
アリア
「……みんなが……
誰かを……
見捨てないって……
決めてるから。」
その時。
黒鉄の戦車が、
再び前進した。
砲身が、
無風陣の中心を狙う。
アルフレッド
「……直撃コース……!」
アリアは、
一歩、前へ出た。
ロウガ
「王!!」
アリア
「……大丈夫。」
アリア
「……守る場所は……
ここじゃない。」
アリアは、
振り返り、
兵たちを見る。
アリア
「……下がって。」
一瞬の迷い。
だが、
兵たちは動いた。
号令がなくても。
陣が、
わずかに開く。
次の瞬間。
砲撃。
地面が抉られ、
爆炎が上がる。
だが、
そこに人はいなかった。
兵
「……避けた……。」
アリアは、
煙の中で、
立っていた。
無傷で。
アリア
「……今。」
その声を合図に、
第二列が前進する。
盾が、
戦車の進路を塞ぐ。
槍が、
連動して突き出される。
セレスタ
「……美しい。」
セレスタ
「命令ではない。
だが……
完全に統制されている。」
遠くで、
カイロスが歯を噛みしめた。
カイロス
「……人の意志を……
ここまで……。」
側近
「王よ……
風を封じただけでは……
足りません……。」
カイロス
「……認めよう。」
カイロス
「風哭の王は……
風だけの存在ではない。」
戦車隊が、
一時後退する。
無風陣は、
崩れなかった。
アリアは、
深く息を吐いた。
アリア
「……怖かった?」
兵の一人が、
小さく笑った。
兵
「……はい。」
兵
「でも……
王が……
一緒に震えてたから……
動けました。」
アリアの胸が、
少し、
温かくなる。
アリア
「……ありがとう。」
その言葉に、
兵たちが、
静かに頷いた。
無風の戦場に、
確かな“陣”が刻まれた。
それは、
風でも、
魔法でもない。
人が作り出した、
新しい戦い方だった。
・無風環境下での新戦術「無風陣」の成立。
・命令ではなく信頼による統制。
・アリアが戦術的中心ではなく“精神的中心”になる描写。
・風無き王国側が王の本質に気づき始める。
が描かれました。




