第四章:風災編 第32話 初撃 ― 風なき戦場
風がない戦場は、静かだ。
叫びも、悲鳴も、空気に溶けず、地面に叩きつけられる。
王の力を奪えば、王は無力になる。
それが、風無き王国の信念だった。
だが――
力とは、本当に一つだけなのだろうか。
北方平原。
夜明けとともに、
戦場は姿を現した。
風は、
完全に消えていた。
旗は垂れ、
煙は立たず、
音だけが、
重く響く。
帝国軍陣地。
セレスタ
「……想定以上だ。」
セレスタ
「風術部隊、
完全に沈黙している。」
アルフレッド
「遮断領域が、
広すぎます……。」
ロウガ
「ちっ……
王の力を
潰しに来てやがる。」
アリアは、
静かに立っていた。
アリア
(……聞こえない。)
(……風の声が……
ほとんど……。)
胸の奥が、
ひどく冷えた。
アリア
「……ごめん。」
エリオン
「何がだ。」
アリア
「……今の私は……
王として……
弱い。」
セレスタ
「違う。」
セレスタ
「今は、
“人”として
試されている。」
その瞬間。
地鳴り。
北方から、
黒鉄の戦車隊が動き出した。
轟音。
砲撃。
地面が抉られ、
帝国前線が揺れる。
兵
「前方!!
砲撃開始!!」
防壁が砕け、
兵が倒れる。
だが、
風がない。
救援も、
緩衝も、
間に合わない。
アリア
「……こんな……。」
アリアは、
歯を食いしばった。
その時。
一人の負傷兵が、
地面に倒れ込む。
兵
「……くそ……
足が……。」
アリアは、
迷わず駆け寄った。
アリア
「……大丈夫。」
アリアは、
兵の肩を抱く。
風は、
使えない。
それでも――
アリア
「……息、
合わせて。」
兵
「……え……?」
アリア
「……一緒に……
立つ。」
アリアは、
自分の体重を預け、
兵を支えた。
銃弾が飛ぶ。
砲声が近づく。
だが、
アリアは離れなかった。
ロウガ
「王!!
下がれ!!」
アリア
「……下がらない。」
アリア
「……今は……
王じゃない。」
アリア
「……一人の人として……
ここにいる。」
その姿を、
兵たちが見ていた。
誰よりも前に。
誰よりも低く。
セレスタは、
歯を食いしばった。
セレスタ
「……全軍。」
セレスタ
「王を中心に、
防御陣形を再構築!!」
兵たちが動く。
王を守るためではない。
王と共に立つために。
その瞬間。
完全に断たれていたはずの空間に、
ごく微かな揺らぎが生まれた。
アリア
(……?)
風ではない。
だが、
“流れ”がある。
人の動き。
呼吸。
意志。
アリア
「……これ……
風じゃない……。」
ゼフィール
「……共鳴だ。」
アルフレッド
「人の意志が、
場を……
作っている……。」
兵たちの動きが、
噛み合い始める。
砲撃を避け、
盾を合わせ、
互いを支える。
無風の戦場に、
“流れ”が生まれた。
遠く。
戦車の上から、
カイロスがそれを見ていた。
カイロス
「……王の力を……
奪ったはずだ。」
側近
「ですが……
戦列が……
崩れません……。」
カイロス
「……風以外の力か。」
アリアは、
兵を支えながら、
前を見据えた。
アリア
「……風がなくても……
守れるものは……
ある。」
その声は、
風に乗らなかった。
だが、
確かに――
人の心に届いていた。
無風の戦場で、
最初の一撃は終わった。
勝敗は、
まだ決まっていない。
だが――
王は、
倒れていなかった。
・風を完全に封じられた戦場。
・王の力が使えない状況。
・アリアが「人として」兵と共に立つ選択。
・人の意志が生む新たな“流れ”。
・カイロスが想定外の事態に直面。
が描かれました。




