第四章:風災編 第26話 救済の代償 ― 王を見る帝国
救われた命の数と、納得できない者の数は、必ずしも一致しない。
災害の後に残るのは、感謝だけではない。
恐れ。
嫉妬。
計算。
王が力を示せば示すほど、それを秤にかける者が現れる。
帝国は、救済を見ていた。
同時に、“代償”を数え始めてもいた。
都市ヴァル=グラード。
暴風は、
ようやく収束しつつあった。
倒壊した建物の間を、
帝国兵と市民が行き交い、
負傷者の救助が続いている。
市民A
「……助かった……。
本当に……。」
市民B
「風が……
言うことを聞いたみたいだった……。」
市民C
「……あれが……
王……。」
感謝の視線。
畏怖の沈黙。
その中に、
別の目があった。
都市評議会の仮設本部。
破損した石庁舎の一角で、
数名の男たちが集まっている。
評議員
「被害は想定より軽微だ。
だが……
王が直接、
風脈に干渉した。」
別の評議員
「前例がない。
帝国の管理体系を、
一人の判断で変えたことになる。」
第三の男
「つまり……
制御不能ということだ。」
その言葉に、
空気が冷えた。
***
瓦礫の外。
アリアは、
膝をついて呼吸を整えていた。
エリオン
「無茶をしすぎだ。」
アリア
「……うん。
でも……
やらなきゃ……。」
アルフレッド
「風脈の再分岐、
理論的には不可能でした。
ですが……
事実として、
都市は持ちこたえています。」
ロウガ
「助かった人間がいる。
それで十分だろ。」
セレスタは、
少し離れた場所で、
街全体を見渡していた。
セレスタ
「……評価は、
二つに割れる。」
アリア
「……うん。」
セレスタ
「“王に救われた”と感じる者と、
“王に支配された”と感じる者。」
アリアは、
視線を落とした。
アリア
「……どっちも、
本当なんだと思う。」
その時。
帝国中央からの伝令が、
駆け込んできた。
伝令
「羽将軍セレスタ。
皇城より、
正式通達です。」
セレスタ
「内容は。」
伝令
「……風哭の王アリアの行動を、
“帝国緊急介入事例”として、
記録、審査する……とのことです。」
ロウガ
「はぁ!?
人を助けて、
審査だと!?」
ゼフィール
「……政治だ。」
アリアは、
静かに立ち上がった。
アリア
「……私の行動が、
帝国の秩序を揺らしたなら……
説明する。」
エリオン
「アリア……。」
アリア
「……逃げないって、
決めたから。」
セレスタは、
アリアを見つめ、
小さく頷いた。
セレスタ
「皇城へ戻る。
評議会と、
皇帝の目の前で。」
***
その夜。
仮設医療所の片隅。
昼に救われた子どもが、
母親の腕の中で眠っていた。
母親
「……あの方が……
王様……?」
子ども
「……うん……
風が……
やさしかった……。」
その言葉が、
風に乗って、
遠くへ流れる。
アリアは、
その声を聞き、
目を閉じた。
アリア
(……代償が必要なら……
払う。)
(……でも……
この風を……
後悔だけにはしない。)
遠くで、
帝都へ向かうための風が、
再び動き出していた。
・都市救済後の評価の分裂。
・「救われた」と感じる者と「支配された」と感じる者。
・帝国評議会による正式な審査の開始。
・アリアが逃げずに説明を選ぶ決意。
・帝国政治と王の行動が正面から交差。
が描かれました。




