第四章:風災編 第23話 帝都の影 ― 泣かない風の正体
風が泣かない場所がある。
それは、風が穏やかなからではない。
そこでは、風が拒まれている。
石と鉄と沈黙に閉ざされ、感情も、祈りも、悲鳴さえも、外へ逃がさない場所。
帝都の光の裏側で、“泣かない風”は静かに腐り始めていた。
アリアの王風は、その違和感を見逃さなかった。
謁見の夜。
帝都は静まり返っていた。
灯りは整然と並び、
巡回兵の足音だけが、
規則正しく石畳に響く。
だが、
その静けさの底で、
アリアは眠れずにいた。
アリア
(……風が、
ここだけ……止まってる。)
エリオン
「アリア。
起きてるな。」
アリア
「うん。
……この帝都、
“泣かない風”がある。」
エリオン
「泣かない……?」
アリア
「泣けない、かな。
閉じ込められてる。」
ゼフィールが静かに口を開く。
ゼフィール
「帝都地下区画だろう。
古い封風施設がある。」
アルフレッド
「……帝国初期に作られた、
反乱鎮圧用の……
風遮断層ですね。」
ロウガ
「聞いただけで嫌な場所だな。」
アリアは、
胸に手を当てた。
アリア
「……そこに、
“王を拒む意思”がある。」
その瞬間。
風哭の王風が、
かすかに震えた。
***
帝都地下。
石段を下り、
さらに下へ。
光は届かず、
湿った空気だけが満ちている。
アリア一行は、
帝国の許可を得ず、
静かに進んでいた。
エリオン
「ここ……
本当に入っていいのか。」
アリア
「……今は、
“入らなきゃいけない”。」
風が、
何も語らない。
それが、
異常だった。
アルフレッド
「風遮断層……
完全に機能しています。」
ゼフィール
「王風すら、
ここでは囁きしか届かない。」
やがて、
巨大な扉が現れた。
錆びついた鉄。
封印紋。
そして――
人の気配。
ロウガ
「誰か……いるぞ。」
アリアは、
そっと扉に触れた。
アリア
「……ここ。」
扉の向こうから、
かすかな声が聞こえる。
???
「……王など……
いらない……。」
エリオン
「誰だ!」
扉が、
きしみながら開く。
中にいたのは、
痩せ細った男。
かつての帝国学術士。
今は、
拘束衣を纏った研究者。
男は、
虚ろな目でアリアを見た。
学術士
「……風哭の王……。」
アリア
「……あなた、
ここで何を……。」
学術士
「王を……
否定する研究だ……。」
ゼフィール
「……禁忌研究……
“王風遮断理論”。」
学術士
「王は……
争いを呼ぶ……。
だから……
王風を……
消す方法を……。」
アリアの胸が、
締め付けられる。
アリア
「……それで……
風を……閉じ込めたの?」
学術士
「風など……
人を狂わせるだけだ……。」
その瞬間。
風哭の王風が、
低く鳴いた。
泣き声ではない。
怒りでもない。
“悲鳴”だった。
アリア
「……風は……
狂わせたいわけじゃない……。」
アリア
「……泣いてるのは……
傷つけられたからだよ……。」
学術士は、
震える手で耳を塞ぐ。
学術士
「やめろ……
その声を……
聞かせるな……!」
アリアは、
一歩近づいた。
アリア
「……聞いて。」
アリア
「風は……
ここで……
ずっと……
泣けなかった。」
封風施設の壁が、
かすかに軋む。
風が、
ほんの一瞬、
流れた。
学術士の目から、
涙がこぼれる。
学術士
「……聞こえた……。」
学術士
「……こんな……
優しい音……
だったのか……。」
アリア
「……王はね……
風を支配する存在じゃない……。」
アリア
「風が……
泣いたり……
笑ったり……
できる場所を……
守る人だよ。」
長い沈黙。
学術士は、
ゆっくりと膝をついた。
学術士
「……私が……
間違っていた……。」
その瞬間。
封風施設の一部が、
静かに崩れた。
風が、
弱々しくも、
確かに流れ込む。
帝都地下に、
初めての“泣き声”が響いた。
それは、
解放の音だった。
・帝都地下に存在する封風施設の発覚。
・王を否定する思想と、その悲劇。
・「泣かない風」の正体。
・アリアが“力”ではなく“共感”で解決する姿。
・風が再び泣くことを許された瞬間。
が描かれました。




