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灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


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第四章:風災編 第17話 風が告げる来訪者 ― 王の客人

風は、声を運ぶ。

遠い国の囁きも、

戦場の叫びも、

嘘も真実も。


だが風が運ぶ中で、

もっとも重いのは――

“未来の気配”だ。


アリアが風哭ふうこくの王風を得た瞬間から、

大陸の風は静かにざわめき始めた。


それはまだ嵐ではない。

だが、嵐の前触れにはじゅうぶんな重さ。


帝国会議で下された決定が、

いまアリアの村へ届こうとしている。


風が震える。

アリアの心もまた、静かに揺れ始める。

翌朝。

トーレン村の空は澄み、

どこか緊張した風が吹いていた。


アリアは丘の上に立ち、

夜明けの光を浴びながら風を感じる。


アリア

(……帝国の風が、こっちへ向かってる。

 昨日の闇部隊とは違う。

 もっと……重くて、固くて……

 でも、敵意ばかりじゃない風。)


エリオン

「アリア、朝から一人で?

 何か感じるのか?」


アリア

「うん……

 “誰か”が来る。

 帝国の人が。」


ロウガ

「帝国!?

 また刺客かよ!」


ゼフィール

「刺客の風ではない。

 もっと……格式と敬意の混ざった……使者の風だ。」


アルフレッド

「つまり……外交使節、ですか?」


アリアは小さく頷いた。


「……来た。」


風が流れを変える。

その方向へ、村の入口から馬蹄の音が響いた。


村人たちがざわめく中、

白と紺の帝国旗を掲げた馬車がゆっくりと近づいてきた。


騎士たちが馬車を囲み、

その中心から一人の青年が降り立つ。


整った顔立ち、

冷静な灰緑の瞳、

礼儀正しい動作。


そして胸には帝国の紋章――

帝国正使せいし”の印。


青年

「風王アリア様。

 帝国より、正式な勅書ちょくしょをお持ちしました。」


村が一気に緊張した空気に包まれる。


エリオン

「勅書……?

 アリア宛てに……?」


青年は深く一礼し、

丁寧に封蝋された巻物を差し出した。


青年

「陛下ガルディアス・レグナスの名において、

 風哭の王アリア殿へ。

 ――帝国中央《黒曜宮》より。」


アリアは静かに巻物を受け取った。

手に触れた瞬間、

風が小さく鳴く。


(この勅書……

 悪意じゃない。

 でも……“試されてる”)


封を切り、中を開く。


そこには短く、だが強烈な言葉が記されていた。


《風哭の王アリアへ――》

《帝国へ来い。》

《生かしておけるならば。》

――ガルディアス・レグナス


ロウガ

「生かしておけるならば!?

 どういう意味だそりゃあ!!」


エリオン

「脅しなのか……誘いなのか……!」


セレン

「アリア……どうするの……?」


青年は厳粛に告げる。


「陛下はあなたを敵と断じてはおりません。

 むしろ――“見極めたい”とのご意志です。」


アリアは風を手で掬いながら答える。


「……行くよ。

 帝国へ。」


全員が息を呑んだ。


エリオン

「アリア!?

 本気か!?

 あそこは敵陣のど真ん中だぞ!!」


アリア

「うん。

 でも、行かない理由もない。」


ゼフィール

「何故だ?

 帝国はお前を利用するつもりかもしれない。」


アリア

「風が言ってる。

 “この勅書は戦の招きじゃない”って。

 “私を中心に置こうとする風”じゃなくて……

 “私を見るための風”。」


青年は頷いた。


「陛下はあなたを“支配する”気はありません。

 むしろ、

 “あなたが何を望むのか”を知りたがっているのです。」


アリア

「じゃあ、行くべきだね。」


エリオン

「……本当に、大丈夫なんだな?」


アリアはエリオンの手を握り、微笑む。


「大丈夫。

 私が道を間違えたら――セレスタ将軍が止めてくれる。」


ロウガ

「……なんか複雑な関係だよな……」


アルフレッド

「ですがアリア様……

 帝国へ向かうということは、

 今後の大陸の勢力図の中心に立つということで――」


アリア

「それが“王風”を持った責任だよ。」


アリアは勅書を巻き、

風へ向けてそっと掲げる。


「……行こう。

 帝国へ。

 風が示す次の場所へ。」


風が嬉しそうに揺れた。


青年は深く礼をする。


「では、アリア様。

 明朝より帝国への護送を開始します。

 ――どうか、ご準備を。」


アリア

「うん。準備する。

 でも、一つだけ――」


青年

「はい?」


アリア

「私は“連れて行かれる”んじゃなくて、

 “自分から行く”んだよ。

 風王として。」


青年は驚いたように瞬きし、

やがて静かに笑った。


「……承知しました。

 風王アリア殿。」


こうして、

アリアは帝国への旅路へと踏み出す。


その背を押す風は、

まだ震えていた。

それは不安でも恐怖でもなく――

ただひとつ、

“未知”という名のざわめきだった。

風が帝国会議の“気配”をアリアへ運ぶ

正式な帝国使節が到来

皇帝ガルディアスからの“勅書”が届く

文面は短く、重く、挑発的

アリアは“自らの意志で”帝国へ向かうと決意

風王の歩みが大陸の中心へ進み始める


という、

外交と戦略が本格化するターニングポイント回でした。


次回は――

アリア一行が帝国へ向かう道中で遭遇する

“謎の風の乱れ”と、

新たな追跡者の存在が明らかになります。

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