第四章:風災編 第15話 風王暗殺計画 ― 闇の矢
帝国四将軍セレスタがアリアを“敵ではない”と判断したその陰で、
まったく別の勢力が動いていた。
風王の誕生は、王族だけでなく
“帝国軍の強硬派”にとっても脅威だった。
風脈の主導権を握るためには、
新たなる王は邪魔な存在。
彼らは冷静で、迅速で、そして――
なにより“風を最も嫌う者たち”だった。
風が罪だと言う者もいる。
風が災いだと言う者もいる。
その思想の果てに生まれたのが、
暗殺部隊――
《黒風の狩人》。
彼らは風王の誕生を“罪の芽”と判断し、
アリア抹殺を決行する。
アリアの風が、初めて“怒りで泣く”夜が始まる。
夜のトーレン村。
静寂が村を包み、
風も眠っているように穏やかだった。
アリアは丘の上で座り、
ゆるやかな夜風と語り合っていた。
アリア
「ふふ……眠い?
生まれたばかりだから無理もないよね。」
夜風がくすぐるように揺れた。
だがその中に、違う風が紛れていた。
――冷たい風。
アリア
(……この風……誰?)
その瞬間、
森の暗がりに“黒い影”が走った。
アリアが振り返るより早く――
音もなく、黒い矢が放たれた。
エリオン
「危ない!!」
エリオンが飛び込み、
アリアを抱き寄せて地面に倒れ込む。
黒矢がアリアがいた位置に突き刺さり、
石を溶かすように黒煙を上げた。
ロウガ
「てめぇら……ッ!!
どこのクソ野郎だ!!」
森の影から、
黒ずくめの部隊が音もなく現れた。
仮面は風紋を逆さに刻んだ“禁じられた印”。
その目は冷たく光る。
セレン
「あれは……帝国軍の……!」
ゼフィール
「……違う。
あれは帝国の“闇部隊”。
正式な軍ではなく――
強硬派が勝手に組織した暗殺者たち。」
アルフレッド
「く、黒風の狩人……
王風の誕生を“災”と見なし、抹殺する集団……!」
黒風の狩人・隊長
「風哭の王。
お前は世界を乱す芽。
ここで摘む。」
アリアの背で風が震えた。
アリア
「あなたたち……どうしてそんな……
私はまだ、何も壊してない……!」
隊長は迷いなく矢を構える。
「“可能性”が罪だ。」
アリアの胸に痛みが走った。
(……風が……泣いてる……?
どうして……?)
エリオンが前に立つ。
「アリアに触るな!!
お前らみたいな勝手な正義で、
誰かの未来を奪わせない!!」
ロウガ
「やるしかねぇ!!
てめぇら、まとめてぶっ飛ばす!!」
黒風の狩人たちが一斉に構え、
同時に矢を番える。
ゼフィール
「避けろ!!
あれは風毒矢!!
かすっただけで魔力を奪われる!!」
セレン
「アリア、下がって!!」
しかし――
アリアは、動かなかった。
代わりに風が震え、
彼女の足元に集まり始めた。
アリア
「……風が泣いてる。」
エリオン
「アリア!?」
アリアは黒矢を見つめながら、
かすかに震える声で続けた。
「“私が狙われた痛み”じゃない。
“あなたたちが人を傷つけるために風を使った痛み”……
その涙が……風を苦しめてる……!」
黒風隊長
「風が泣く?
くだらぬ妄言だ。
放て。」
黒矢が闇を裂いた。
その瞬間――
アリアの風が哭いた。
――ッッ!!
爆発音ではない。
轟音でもない。
“嗚咽のような風の叫び”。
大気が震え、地面がうなり、
空の星が揺らぐほどの風力。
黒矢は空中で止められ、
風に飲まれるように粉砕された。
エリオン
「な……アリア……これ……」
アリアの瞳が揺れていた。
涙が零れ、風がそれを拾って舞い上げる。
アリア
「風は……泣いてる……
『こんな使われ方はいやだ』って……
『傷つけるために使われたくない』って……」
黒風隊長
「感情に風を共鳴させた……?
あり得ん……!」
アリア
「私は……
誰も傷つけたくない……
でも……
“あなたたちが誰かを殺すなら”――
風は黙っていられない!!」
轟ッ――と風が咆哮した。
まるで“怒りの哭き”のように。
黒風の狩人たちはその圧力に耐えられず、
次々と地面に押し倒された。
隊長
「な……なに……
これが……王風……!」
アリアは風を拳ではなく、
“手のひら”に集めた。
「……行かないで。
風は人を殺すためのものじゃない。」
黒風隊長
「くっ……撤退!!
この風……今は制御不能だ!!」
影のように走り去り、
黒風の狩人たちは森に消えた。
風が静かにやみ、
アリアは膝をついた。
エリオンが駆け寄る。
「アリア、大丈夫か!!」
アリア
「……大丈夫。
でも……風が……今も泣いてる……」
エリオンはアリアを抱きしめた。
「泣いていい。
だって……守れたんだろ?
お前の風で。」
アリアは震えながら顔を上げる。
「うん……
守れた……
守りたくて風が泣くなら……
私はその涙を……受け止める。」
風がアリアの頬を撫でた。
その風は、ほんの少しだけ――
“笑っているように”感じられた。
帝国強硬派が“アリア抹殺”を決行
暗殺部隊《黒風の狩人》がトーレン村を急襲
アリアの風が初めて“怒りで哭く”
黒風の矢を粉砕し、怒りの風圧で敵を撃退
しかしアリアの心には深い痛みと決意が宿る
という、
風王アリアの“怒りと優しさ”が明確に描かれた章となりました。
次回は、
この襲撃事件が帝国へどんな影響を及ぼすのか――
そしてついに戦記ならではの“軍勢の動き”が始まります。




