表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/74

第一章:灰と星の少女 第7話 獣王の爪痕 ― 血誓の代償

静かな朝に、戦は忍び寄る。

牙を隠す者たちが、血を呼ぶ風に誘われて。

そのとき少女の中で、封じられた“何か”が目を覚ました。

夜明け前。砦を包む空気が重かった。

遠くから風の唸りが聞こえる。草の匂いの奥に、鉄の味。

アリアはその“違和感”で目を覚ました。


(……血が疼いている)


掌に痛み。

皮膚の下で、紋章が熱を持つ。

昨日よりも深く、赤く、内側から呼吸しているようだった。


ミラが駆け寄る。

「アリア様、また……?」


「違う。今度は――外だ」


アリアは窓を開けた。

冷たい風と共に、遠くで閃光が走った。

空気を震わせる低い轟音。

魔力の爆ぜる音だ。


次の瞬間、鐘が鳴った。

連打。警報。


「北方より敵襲――! 獣王連邦の軍勢、接近中!!」


■ 砦前、北壁


ロウガが鎧を掴みながら怒鳴る。


「全軍配置! 歩兵前列、弓兵上段! ――迎撃だ!!」


アリアは走りながら息を整えた。

胸の奥の血が脈を打つたび、視界が明滅する。

恐怖ではない。呼応。

遠くの戦場の鼓動と、自分の血が“共鳴”していた。


(血誓が戦を感じている……?)


城壁の上から見下ろす。

霧の奥、草原を裂いて進む影。

獣人たち。狼、虎、熊――それぞれの姿を持ち、しかし統率された動き。

獣王連邦の前衛部隊だ。


ロウガが隣に立つ。

「アリア、後方へ下がれ」


「指揮を執らせてください」


「なに?」


「あなたが戦えば、軍は動きます。

 でも、あなたが倒れたら、誰も繋げません。

 ――私が“見る”ので、命じてください」


ロウガは短く息を吐いた。

その眼にはためらいがあったが、次の瞬間に決意が宿った。


「……よし。戦場で語れ。失敗したら俺が斬る」


アリアは頷く。

「それで構いません」


獣王連邦の号令。太鼓が鳴り響く。

地が揺れ、数百の足が踏み鳴らす。

帝国軍第七軍団――わずか三百。


圧倒的な兵力差。

だが、退けば砦が落ち、帝国北境が裂ける。


アリアの声が響いた。


「弓隊、合図まで射るな! 距離を詰めさせて!」


ロウガが驚く。「奴らは速いぞ!」


「速いからこそ、風を読ませない。

 霧を利用して――角度をずらして!」


霧の中に風が走る。

矢が早く撃たれれば風に流れる。

遅ければ敵は遮蔽に入る。

だがアリアは風の“呼吸”を読む。

血誓が彼女の感覚を拡張していた。


「――今!! 弓、放て!!」


矢の雨が霧を割る。

獣人の前衛が一瞬ひるみ、動きが乱れる。

その隙に歩兵列が前進。


「盾列、左へ二歩! 槍、喉を狙え!!」


命令が走る。

兵たちの動きが、わずかに整う。

今までバラバラだった第七軍団が、ひとつの波になり始めた。


ロウガが笑った。


「いいぞ、嬢ちゃん……いや、将軍!」


しかしその瞬間、空気が変わった。

霧を割って現れたのは、巨大な影。

黒い毛皮、双角を持つ獣人――獣王軍中隊長、「黒角こっかくのドルガン」。


人の二倍の体躯。

振り下ろした斧が地を割り、三人の兵が吹き飛ぶ。


ロウガが前に出ようとするが、アリアが止めた。


「待ってください――私が」


「馬鹿言うな!」


「彼は、私を狙ってきています」


黒角の獣人が吼える。


「灰の娘ッ!! 貴様の血を捧げろ!!」


(やはり、私を……)


アリアは掌を見た。

血誓の紋が、燃えるように浮かび上がる。


(もう、隠せない)


斧が振り上げられる瞬間、アリアは囁いた。


「灰は冠を呼ぶ――」


風が止まった。

次の瞬間、地が鳴った。


空気が歪み、アリアの足元から灰色の光が立ち上がる。

淡い風の輪が生まれ、獣人の斧を逸らす。

衝撃が彼女の体を突き抜け、血が噴き出した。

しかしその痛みは、力へと変わる。


ドルガンの目が見開かれる。


「……血の魔女……!」


アリアの声は静かだった。

「戦場を、荒らさないでください。ここは――私の家の土地です」


風が弾け、獣人の体が吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられ、血を吐く。

その衝撃で霧が晴れた。


ロウガが呆然と立ち尽くす。

「今のは……魔導士じゃねえ……」


だが、アリアはすでに崩れ落ちていた。

掌から血が止まらず、皮膚に灰の紋が広がる。

その光が、まるで焼印のように彼女の体を蝕む。


ミラが駆け寄る。


「アリア様! やめてください! それ以上使えば――!」


ロウガが咆哮する。


「撤退線を引け! アリアを守れ!!」


兵たちが動く。

砦の旗が風に揺れる。

霧が完全に晴れたとき、獣王の軍は退いていた。


勝利――だが、それは小さな代償の上に成り立つ。


アリアの意識は遠のいていく。

血の中で、誰かの声が響く。


――お前は、まだ冠を掲げていない。

――奪われた王国を、取り戻せ。


(……あなたは、誰……?)


――灰冠の王。お前の、祖。


光が、消えた。


■ 夜


ロウガは寝台の傍らに座っていた。

アリアはまだ目を閉じたまま。

ミラが薬を塗りながら震える声で言う。


「血誓の暴走です。もう限界を超えています。

 これ以上は……命が……」


ロウガは拳を握る。

「……あの子を兵として扱っていた俺が、間違いだった。

 あいつは、軍を変える“核”だ。

 帝国のいぬには、させねえ」


月光が差し込む。

外では戦の匂いがまだ残っていた。

夜の風が灰を運び、静かに彼女の髪を揺らす。


アリアの唇が微かに動いた。


「……灰に……冠を……」


ロウガは微笑んだ。


「そうだ。奪われたもんを、取り返そうぜ、灰の将軍」

アリアはついに「血誓魔法」の力を解放し、獣王軍を退けました。

しかし、その代償として命を削るほどの痛みと“祖の声”を得ます。

ロウガは彼女を“将軍”として正式に認め、物語は次の段階へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ