第四章:風災編 第14話 羽将軍セレスタ ― 帝国の刃
帝国四将軍――
それは、皇帝の右腕たる四人の英雄。
“炎帝の槍”ガイゼン、
“氷狼の咆哮”メルティナ、
“鉄壁の巨盾”ドロス、
そして――
“白羽の刃”セレスタ・ヴァレリア。
帝国軍において最速の将。
風そのものを刀に変える女。
その彼女が今、
アリアのもとへ向かっていた。
利用のためか。
捕縛のためか。
それとも―――まったく別の目的のためか。
風を読む王と、
風を斬る将軍。
二人が交差する時、
大陸の風向きは確実に変わる。
トーレン村の郊外。
森と草原の境目に、ひとつの疾風が走った。
白銀の影が通り抜け、
草木が静かに倒れたあと、
そこにひとりの女が姿を現した。
羽将軍――
セレスタ・ヴァレリア。
背にある羽飾りは装飾ではない。
風を纏い、空気を刃に変えるための特別な戦装だ。
セレスタ
(……ここね。
風哭の王風が生まれた場所。)
その瞬間、
背に纏う風が震えた。
“誰か”が、自分を見ている。
セレスタ
(……気づかれた)
ふわりと、優しい風が木々の間を抜けた。
アリア
「あなた……帝国から来た風を持ってるね。」
セレスタが視線を向けると――
そこにアリアが立っていた。
王風を宿した少女は、
しかし敵意も驚きもなく、
ただ静かなまなざしで彼女を迎えていた。
セレスタは軽く顎を上げた。
「そう。
“帝国四将軍”――セレスタ・ヴァレリア。」
ロウガ
「おい嬢ちゃん!こんな所にひとりで出て来ちゃ――!」
エリオン
「ロウガ、動くな!」
エリオンは剣に手をかけつつ、
アリアの表情を見て悟った。
(ここは……アリアに任せるべきだ)
セレスタはアリアだけを見ている。
セレスタ
「あなたが“風哭の王風”の持ち主で間違いない?」
アリア
「うん。
あなたは……その風を“利用したい”?」
セレスタの目が一瞬揺れたが、
すぐに冷たい光を取り戻す。
「利用。
帝国は風脈を制す国。
新王が生まれれば、
それを無視するわけにはいかない。」
「あなたが帝国に従うなら、
皇帝はあなたを“国宝”として扱うでしょう。
逆らうなら――脅威として排除する。」
ロウガ
「ほら見ろ、結局そういう話じゃねぇか!!」
セレスタはロウガへ一瞥を向けただけで、
その気配は刃のように静かなままだった。
「私は帝国のために来たわけじゃないわ。」
アリアが目を細める。
「じゃあ……何のために?」
セレスタは一歩前へ進んだ。
風がその足元で鋭く鳴る。
「――あなたを“見極めるため”。」
アリア
「見極める……?」
「大陸を揺らす新風が生まれたと聞いた。
それが災いか祝福か……
この目で確かめるためよ。」
セレスタの髪が風で揺れ、
その瞳はまっすぐアリアを射抜く。
アリアはその真っ直ぐさに、
“戦士の誇り”を感じていた。
アリア
「帝国のためじゃなくて……
“あなた自身の判断”ってこと?」
セレスタ
「そう。」
アリアの胸で風が揺れた。
(……この人……
たしかに怖いけど……
まっすぐな風だ)
セレスタ
「ひとつ聞かせて。
あなたの風は――誰のために吹く?」
アリアは微笑んだ。
「“私の大切な人たち”のために。
それだけは揺らがない。」
セレスタは数秒、その答えを噛みしめた。
そして――ふっと微かな笑みをこぼした。
「……悪くない風ね。」
エリオン
「……え?」
ロウガ
「ええ!?敵じゃねぇのか!?」
セレスタはアリアをじっと見つめたまま言う。
「私は敵でも味方でもないわ。
ただ――あなたがもし
“世界を壊す風”になるようなら、
そのときは私があなたを斬る。」
アリア
「……いいよ。」
エリオン
「アリア!?」
アリアは真っ直ぐにセレスタを見た。
風が優しく揺れる。
「私が道を間違えたら……
その時は止めてね。
あなたみたいな風なら……信用できる。」
セレスタは凍ったように硬直した。
(……王が、私に“止めてくれ”と言うなんて……)
だが次の瞬間、
セレスタは静かに頷いた。
「わかった。
風王アリア。
あなたの歩む先を、私は見届ける。」
アリア
「ありがとう、セレスタ将軍。」
セレスタは踵を返した。
風が羽飾りを揺らし、白銀の風となって消えていく。
去り際、
彼女は振り返りもせず声を残した。
「帝国は必ず動く。
その時――選ぶのはあなたよ。」
アリア
「うん。
私は私の風を選ぶ。」
白銀の将軍が去り、
残された風は静かに揺れた。
その風は、
アリアを“王”として認めはじめていた。
羽将軍セレスタとの初邂逅 を描いた重要回でした。
セレスタは利用や捕縛ではなく“見極め”のために来訪
彼女はアリアを脅威ではなく“可能性”と判断
アリアもセレスタを信頼し、互いに“止め合う契約”が成立
帝国は動くが、セレスタ個人は中立
これにより戦記の勢力図が大きく変化
次回は、
帝国の本格的な動きの影で蠢く“別の勢力”が登場します。




