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灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


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第四章:風災編 第2話 暴走の母 ― 禁呪《風核覚醒》

母は、いつだって“最初の風”だった。


幼い頃、眠る前に頬を撫でた優しい風。

抱きしめてくれた時、耳元で揺れた柔らかな風。

それらは思い出の奥深くで、今もかすかに響いている。


だが、愛しい風はときに刃へ変わる。


アリアが影界で“王”として目覚めたように、

母もまた、知られざる“風の王家”の宿命に触れてしまったのかもしれない。


風の暴走は、血の叫びだ。

血統が力を求めたとき、どれほどの悲劇を生むのか――

アリア自身、痛いほど理解している。


そして今日、彼女はその原点と向き合う。


“母”という名の、

もっとも近く、もっとも遠い影と。

竜巻の唸りは、まるで誰かが泣いているように聞こえた。

アリアは村の奥へと歩みを進めるたびに、胸が痛んだ。

風の王としてではなく、ひとりの娘として。


「アリア、ゆっくりでいい。」

エリオンが隣に立ち、片翼の残光を微かに揺らした。


アリアは首を振った。

「いいえ……早く行かなきゃ。

 きっと母は……苦しんでる。」


ゼフィールがその会話に静かに割って入る。


「“風核”が暴走するとき、宿主は自分を保てなくなる。

 痛みも、記憶も、意志もすべて置き去りだ。

 ……だから急いだ方がいい。君が行かない限り……彼女は壊れる。」


アリアの心臓が重く沈んだ。

風核――それは風の王家だけが持つ“王の源”。

自分の覚醒に呼応するように、母の風核は耐え切れず目覚めてしまったのだろう。


ロウガは村人を避難させながら叫ぶ。

「風が建物ごと持ってくぞ!!

 アル、こっちの家から子供を!!」


アルフレッドは魔導障壁を張り、必死に風の刃を避けていた。

「アリア様、早く……!

 村全体が“裂ける”前に……!」


アリアは拳を強く握った。

この風は、優しいはずの母の風の“裏返し”。

愛情の深さほど、風核は痛みを抱えるという。


——お母さん。

 あなたは、どれほどの想いを抱えていたの……?


風の中心は、村の一番奥。

かつて母と暮らした家の跡地だった。


アリアは息を呑む。

そこに、ひとりの女性が立っていた。


長い銀髪が暴風に揺れ、

その身体の周囲に淡い風光が渦を巻く。

眼差しは深い霞のようで、

美しいはずの風の刻印は苦しげに震えている。


アリアの記憶にある母と、

確かに同じ風の匂い。

同じ気高さ。

同じ優しさがあった。


だが――

その瞳はアリアを映していなかった。


アリア

「……お母さん……」


その声は、風に消えることなく届いた。

届いたはずなのに、返った言葉は残酷だった。


女性

「…………あなたは……

 ……誰……?」


アリアの心が、音を立てて崩れた。


ゼフィールが低い声で言う。

「記憶が飛んでいる。

 風核の暴走は、意識の“上書き”を引き起こすんだ。

 君の声も……届いていない。」


アリアは足元が揺らぐほどの衝撃を受けたが、

それでも一歩、前へ進んだ。


「……私は、アリア。

 あなたの娘だよ。

 “あなたが守ろうとした風”だよ。」


女性の瞳が微かに揺れた。

だがすぐに、風核の輝きが意識を覆い隠す。

顔に影が落ち、哀しいほどの表情で呟いた。


「私には……娘なんて……

 いない……」


エリオンが息を呑んだ。


アリアは震える唇を噛みしめ、

それでも一歩も引かなかった。


「……じゃあ、思い出させる。

 たとえ全部忘れていても……

 何度でも、呼びかける。」


風が強く吹き荒れる。

母と娘の風が、ぶつかり合う瞬間だった。


「あなたの名前は——

 “セレン・ヴァルステッド”。

 私の、母だ。」


その名を聞いた瞬間、

女性の瞳が揺れ、風核の輝きが一瞬だけ弱まった。


心の奥に隠れていた“風”が、

わずかに震えを返した。


だが次の瞬間、

風核が逆流するように暴走し、女性は頭を抱えた。


「やめて……!

 記憶が……風が……壊れる……!!」


アリアは叫ぶ。


「お母さん!!」


手を伸ばすアリア。

暴風を放つ母。

止めに入ろうとするエリオンとゼフィール。


風と風が激突する直前、

アリアは自分でも驚くほどの冷静さで呟いた。


「迎えに来たよ、お母さん。」


嵐の中心で、

“母娘”の風が初めて真正面からぶつかった。

アリアがついに“母”と再会しました。


しかしその再会は喜びではなく、

風核の暴走による記憶の喪失。

アリアは名前さえ忘れられ、

母は苦しみの渦の中に囚われています。


ゼフィールの説明した「風核の上書き」

アリアと同じ王家の血

母セレンの暴走の理由

そして、アリアの心に刻まれた深い傷


この章は、

アリアが“王”としてではなく

ひとりの娘として背負う試練の物語です。


次回、アリアは

暴走する母の風核に直接触れ、

母の記憶の中へ飛び込む決意 をします。

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