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灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


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第四章:風災編 第1話 風災の村トーレン ― もう一つの風の王

風は、しばしば吉兆を運ぶ。

そして同じだけの災厄も運ぶ。


影界の戦いが終わったあと、アリアたちを迎えたのは安堵でも休息でもなかった。

はるか遠く、彼女が幼い頃を過ごした村・トーレンで、風が再び牙を剥いたという。


それはただの自然現象ではない。

風の“王”であるアリアの覚醒に呼応するように、世界は静かに均衡を奪われ、

新たな脅威がゆっくりと姿を現し始めていた。


アリアは影界を救った直後にもかかわらず、

再び“風”と向き合うことを迫られる。


胸に去来する予感はただひとつ——

この風は、私に関わる“誰か”が起こしている。


そしてこの章は、

アリアがこれまで踏み込むことのなかった

“家族”という最大の謎に触れる物語の幕開けでもある。

風は、帰還者たちを拒むように荒れ狂っていた。


影界を後にしたアリアは、まだ落ち着かない胸を押さえながら、古き故郷・トーレンの大地へ降り立った。

だが迎えたのは懐かしさではなく、怒号を上げる嵐だった。


村全体を包む巨大な竜巻。

家屋は軋み、土煙は空へ吸い上げられ、風は鋭い刃となってすべてを裂こうとしている。


アリアは思わず立ちすくんだ。

この風はただの暴風ではない。

彼女自身が持つ“風の王の力”と、あまりにもよく似ていた。


——私の風……?

 違う……でも、同じ血の匂いがする。


エリオンが風に逆らって目を細める。


「アリア……あれは、君の力と似ている。

 王級だ。君と同格の、強すぎる風だ。」


アリアは頷き、竜巻の中心へと一歩踏み出した。

足元を吹き抜ける風が、彼女を歓迎するようにざわめいた。

だが、その優しさはどこか異質で、歪んでいた。


村の中心に、ひとつの人影があった。


暴風の壁を突き破り、アリアはその影に近づく。

風は彼女だけを認めるように道を開き、縦に裂ける。

その奥で、少年が静かに振り向いた。


銀白の髪。

金と白の二層に揺れる瞳。

アリアが持つ“風の紋”と酷似した刻印が、彼の胸の奥から微かに光を放つ。


まるで鏡を覗き込んだような——

そんな錯覚を覚えるほど、少年の存在はアリアに似ていた。


「ずっと、来るのを待っていた。」

少年は風を鎮めながら言った。


「“黎明の王”アリア。」


「あなたは……誰?」

アリアは慎重に尋ねた。


少年はわずかに唇を上げた。

その笑みは、どこか誇りを含んでいるようでもあり、孤独を纏っているようでもあった。


「ゼフィール。

 ——“風の王位継承者”だ。」


アリアの胸が強く脈打つ。

継承者。

自分と同じ王の血を受け継ぐ存在が、他にもいたというのか。


ロウガは思わず叫んだ。

「おい、嬢ちゃんの弟とかじゃねぇだろうな……!?」


アルフレッドは震える手で魔力測定器を構え、

その波形を見て蒼白になる。


「アリア様と……まったく同じ“血流けつりゅう魔力”です……

 つまり、極めて近い血筋……!」


ゼフィールはそんな騒ぎに目も向けず、アリアだけを見つめていた。


「誤解しないでほしい。

 この暴風は、俺が“起こしている”んじゃない。

 ——“抑えている”んだ。」


アリアは眉を寄せた。


「抑えている……?

 じゃあ、この暴風を生んでいるのは……」


ゼフィールの表情が一瞬だけ揺らいだ。


「アリア。

 風の王家が滅んだと思っていたのなら、それは違う。

 この大地には、まだ“もうひとりの王”が眠っていた。」


「もうひとり……?」


アリアの声は震えていた。

影界でノクスを救った時とは違う。

これはもっと近く、もっと深く、自分の根底を揺さぶる震え。


ゼフィールは風に逆らわず、ただ事実を告げるように言った。


「その者が突然“風核コア”を覚醒させ、

 村を吹き飛ばすほどの暴走を始めた。」


風がひゅう、と鳴った。


アリアは胸の奥が冷たくなるのを感じた。


「ゼフィール……

 暴走しているのは……誰なの?」


ゼフィールは迷うように視線を逸らしたが、

すぐに覚悟を決めてアリアを真っ直ぐ見返した。


そして——

告げた。


「——お前の“母親”だ。」


世界が凍りつく。

風さえ止まる。


アリアの喉が、音を失った。


母が生きている?

いや、そんなはずは——

でも、この風は……

どこか懐かしい。

幼い頃、頬を撫でてくれた温かさと同じ。


ゼフィールが静かに続けた。


「アリア。

 君の母は“王家最後の核保有者”だった。

 そして今——

 その核が暴走している。」


アリアの視界が揺れた。


母が生きている?

その母が、村を壊そうとしている?

なぜ?

どうして?

どうして私を——

置いていったの?


「アリア!!」

エリオンが肩を支えた。


アリアは震える手を胸に当てた。

心臓が痛い。

風が泣いている。


「……行かないと。

 私が、止める。」


声は震えていたが、

その瞳は確かに“王”の光を宿していた。

アリアの故郷で起きた“第二風災”。

その中心に立っていたのは、自身と同等の風を操る少年ゼフィール。

そして、アリアが最も知らされなかった真実——

“母が生きている”という衝撃の事実。


感情は揺れ、風は乱れ、

アリアの心はこれまでで最も深く切り裂かれた。


影界でノクスを救ったアリアでさえ、

“家族”という言葉には油断も力みも隠せない。

その揺らぎが、この第四章の中心を成す。


次話では、

なぜ母が暴走したのか、

ゼフィールの正体とは何か、

そして“風の王家”の真実が少しずつ明らかになっていきます。


アリアの旅はまだ終わらない。

むしろ、ここからが本当の始まりなのだ。

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