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灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


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第一章:灰と星の少女 第5話 灰色の偵察行 ― 牙を隠す野

戦場は剣が交わる前から始まる。

風の流れ、土の踏み跡、血が嗅ぐ気配――

静けさほど恐ろしい戦場はない。

朝靄が砦を包む。

その中を、四つの影が門を出た。


アリア。

ルーク。

古参の偵察兵二名。


軽装、短槍、短弓。

静かな任務――のはずだった。


ロウガの言葉が脳裏で反芻する。


「北境の草原地帯を探れ。盗賊だけじゃない。

 獣王連邦の斥候が入ってきてる気配がある」


獣王連邦――

獣人たちの連邦国家。

粗野、獰猛、しかし誇り高い戦士たち。


帝国と一触即発の状態が続いている。


(まだ、本格戦争は避けられている。でも……)


風が、獣の匂いを運んでくる日も遠くない。


■ 草原地帯


霧が晴れ、草が揺れる。

露が靴を濡らし、革紐が軋む。


古参兵の一人、サインが手を上げた。

「止まれ。地面を見ろ」


土に、深い足跡。

人のものではない。


爪痕がえぐり、蹄のような跡が混じっている。


「……狼脚ろうきゃくか?」


ルークが呟く。

サインは首を横に振る。


「違う。これは“牙兵がへい”だ。獣王連邦の戦闘用部隊。

 戦になると真っ先に突っ込んでくる連中だ」


アリアは跪き、土を掴む。

まだ湿り気が残る。昨夜、いや今朝方通った跡。


(戦の匂いがする)


その瞬間、視界が揺れた。

頭の奥に、低い脈動。

掌が焼けるように熱い。


(血が……反応してる?)


紋章がうっすら浮き、消える。

アリアは息を殺す。


(落ち着け。ここで暴れたら終わり)


しかし鼓動が早まる。

何かが「敵」を探ろうとするような感覚。


(血誓……力だけじゃない。嗅ぎ分ける……?)


サインが耳を澄ませる。

「……音が違うな」


風の中に、低い唸り声。

それは、草原の奥から迫る獣の息。


次の瞬間――


草が裂け、影が飛び出した。


獣人。

狼の耳、鋭い牙、灰色の毛皮に皮鎧。

二つの影。俊敏、静か、狩人の動き。


「伏せろ!」


矢が飛ぶ。

ルークの投石が一体の肩に命中、悲鳴。

もう一体がアリアへ突っ込む。


(来る)


時間が伸びる。

心臓がひとつ脈打つごとに、世界が遅くなる。


アリアは足を踏み込み、身を低くする。

槍を払い、敵の膝を狙う。


刃が毛皮を裂くが、骨までは届かない。


獣人の目がアリアを捉える。

「……幼き血よ。匂うぞ。その血……」


言葉が牙の間から漏れる。


アリアの心臓が跳ねる。

(血が、嗅がれてる……?)


敵が再び跳んだ瞬間、

古参兵の槍が脇腹を突き刺し、獣人が倒れる。


もう一体は、撤退の遠吠えを残して草原へ消えた。


戦闘は一瞬。

だが、空気は凍りついていた。


サインが息を吐く。


「……悪いなアリア。奴ら、お前を標的にした」


「いえ。狙われる理由が、私にあります」


言いながら、自分でも理解できていない。

獣人の言葉が刺さったまま。


(“幼き血”……何を知っている?)


ルークが肩を叩く。


「戻るぞ。これはただの盗賊の跡じゃねえ。

 境界線、もう曖昧になり始めてる」


アリアは頷いた。

しかし、その瞬間ふらつく。


「アリア!」


ミラがいれば支えただろう。

だが今は、膝が土を掠める。


掌を押さえると、微かに血が滲んだ。

紋の焼け跡が、痛みとして残る。


(血誓……使っていないのに、力が逆流してる?)


頭の奥に響く声――

名を失った者にしか聞こえないような声が。


――立て

――奪われた名は、血で刻み直せ


(……誰?)


返事は風に溶けた。


■ 帰路


沈む夕日が草原を赤く染める。

獣王連邦、粛正官、帝都の監視。


火種だらけだ。


ルークが囁く。


「アリア、血が……何かあるだろ」


「……ええ。でも、まだ言えません」


「言わなくていいさ。だが一つ。

 俺は、離れねえ。

 戦場で恩を返すって決めた」


アリアは目を伏せた。

胸にこみ上げるものがある。苦く、温かい感情。


(誰かが隣にいるのは、弱さじゃない)


「……ありがとう」


草を踏む音。

遠く、狼の遠吠え。

戦は近い。


アリアは空を見上げた。

星がひとつ、薄雲の中で瞬いている。


(灰に埋もれても――星は消えない)


彼女の歩みは、迷いなく砦へと続いた。

アリアの血と紋章の秘密が、少しずつ“呼び起こされ”ました。

そして獣王連邦の影。

帝国も、内も、外も荒れ始めます。


この戦記は、まだ序章。

でも、確実に火蓋は切られました。

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