第三章:影界戦火編 第8話 喪失の叫び ― アリア、影界に呑まれる
心は強いほど折れにくい。
だが、一度折れかけた時——
強い心ほど深く沈む。
これは王であっても例外ではない。
■ 影哭界 ― 喪失の余波
ミラが光の粒となり消えた場所を、
アリアは呆然と見つめていた。
その手には、
ミラの温もりがまだ残っている気がした。
アリア
「……ミラ……?
ねえ、返ってきて……
一緒に行くって……言ったじゃない……」
涙が落ちる。
影哭界の湖がそれを吸い込み、
黒い波が重くうねった。
ロウガ
「嬢ちゃん……!」
アルフレッド
「アリア様……泣いちゃダメ……
影界に……!」
しかし、止められない——
アリアの涙は静かに零れ続けた。
エリオン
「アリア……ッ!」
アリア
「ミラを……守れなかった……
また……失った……
王なのに……何も守れない……」
エリオンの拳が震える。
(アリア……
どうか……自分を責めないでくれ……!)
だが影哭界は、
アリアの涙を待っていたかのように動き出す。
湖床から無数の影が触手のように伸び、
アリアの足元を絡め取った。
ロウガ
「嬢ちゃんの足が……!」
アルフレッド
「影哭界がアリア様の感情を“主食”に……!!」
アリア
「はなして……
私はまだ……立って……」
しかし涙が止まらず、力が入らない。
■ ■ ノクスの“悲しみの王冠”
影界の奥から、
冷たい、美しい声が響いた。
ノクス
『……王よ。
泣きなさい。
その涙は、妾を満たす。
そしてお前を救う。』
アリア
「影界の王ノクス……
あなたが……ミラを……!」
ノクス
『喰ったのは“影哭界”。
妾はただ、王の涙を見守っているだけ。
だが……良い涙だ。
王が流す涙は、格別に甘美。』
影の床から、
黒い王冠が持ち上がった。
《悲嘆の王冠》
ノクス
『この冠をかぶれ、アリア。
その涙を力に変えてやろう。
妾の“影の王”として。』
アリアの視界が揺れる。
(……私が……影の王に……?
ミラを失って……
もう……立ち上がる理由なんて……)
影がアリアの顔に触れた。
ノクス
『泣く王は美しい。
王よ……影はお前を抱いてやろう。
悲しみを……痛みを……
全て影の中に沈めてしまえ。』
アリア
「…………」
その瞳に、生気が薄れていく。
■ ■ エリオンの“暴走”
アリアの涙を見て、
エリオンの胸の血片が激しく脈動した。
エリオン
「……もう……見てられない……!」
黒灰の翼が勝手に広がる。
アルフレッド
「エリオンさん! 血片が……!!」
ミラの封印術が消えた今——
血片を抑える力はどこにもない。
ロウガ
「おい!! お前……制御しろ!!
今暴れたら嬢ちゃんまで巻き込む気か!!」
エリオンは歯を食いしばる。
エリオン
「わかってる……!
でも……アリアの涙を見たら……
俺……!!」
影がエリオンの翼に絡まり、
影の力を“餌”に暴走を加速させる。
ノクス
『ああ……美しい。
“片翼の暴走”……
それもまた、王を影へ堕とす最高の供物。』
エリオン
「アリアァァァァッ!!」
エリオンは影の中へ飛び込み、
彼女を抱きしめるように覆った。
だがそれは逆に、
エリオン自身が影に呑まれる結果になった。
影の触手がエリオンの身体を包み、
瞳が赤黒く変化していく。
ロウガ
「エリオン!!
アリアを助けるんじゃねぇのか!!」
エリオン
「助けたい……助けたい……のに……
体が……言うことを……!!」
アリアはぼんやりとした目で呟く。
アリア
「エリオン……
私は……もう……王じゃ……ない……
守れなかった……
また……一緒に……いられない……」
エリオン
「アリア……泣くな……!!
俺がいる……俺が……!!」
しかしアリアは首を振る。
アリア
「……私は……もう何も守れない。
なら……王なんて……もう……」
その言葉を聞いた瞬間、
影哭界全体が歓喜の咆哮を上げた。
ノクス
『——嗚呼……堕ちる。
王が堕ちる瞬間……
なんと美しいことか。』
■ ■ 影界に呑まれるアリア
影の王冠が、
アリアの頭へとゆっくり降りてくる。
エリオン
「アリアァァァ!!
ダメだ!!
それを被ったら……二度と戻れない!!」
アリア
「……ミラがいない世界で……
どうして……私は立てるの……?」
涙がぽろりと零れ落ちた。
その涙が闇に触れた瞬間——
世界が一斉に震えた。
ノクス
『その涙こそ……
妾が求める最高の宝。
さあ……アリア。
影の王となれ。』
王冠がアリアの額に触れる。
アリア
「……ミラ……ごめん……
私、もう——……」
黒い風がアリアを包み込み、
その姿が影に沈んでいく。
ロウガ
「アリア!!」
アルフレッド
「だめだ……!!」
エリオン
「アリアアアアアア!!!!」
影界が大きく震え、
湖がまるで飲み込むようにアリアを包み——
アリアの姿が闇の中に消えた。
アリアが 影界に呑まれる という重大な転換点の回です。
ミラ喪失のショック
アリアの涙を吸う影哭界
ノクスの“悲しみの王冠”
エリオンの暴走危機
アリア、ついに影界に堕ちる
物語はここから 「アリア奪還編」 へ突入していきます。




