第二章:王の道、灰より始まる 第19話 帝都炎上 ― 血殉騎包囲陣と黒翼の叫び
帝国は滅びる時、
剣よりも早く“血”に飲まれる。
戦場は、王が踏み込むまで待ってはくれない。
■ 帝都・外郭区《スカーレット門》
夜なのに、帝都は赤く染まっていた。
炎ではない。
血殉騎が放つ“赤黒い霧”によってだ。
ロウガが歯を食いしばる。
「なんだよ……これ……
帝都が……血の沼みてぇだ……!」
ミラは震えた声で言う。
「この霧……魔導素じゃない……
“血術の残滓”……!」
エリオンの顔から血の気が引いた。
「……ガルス、狂ったか……
これは帝国の民さえ殺す霧だ……!」
アリアは風を纏って前に出る。
「行くわ。
このままじゃ……帝都が死ぬ。」
風が霧を押し返し、
隊は帝都へ突入した。
■ 帝都内部 ― 戦乱の街
帝都の街は火事ではなく、
“魔導の赤光”によって照らされていた。
血殉騎が民を追い回す光景が広がる。
「いやだぁああ!!」
「助けてください陛下!!」
アリアは叫びながら駆け出した。
「止めなさい!!
民に手を出すな!!」
一体の血殉騎が振り向き、感情のない声で言う。
「命令:皇帝派および民衆――排除対象」
アリアが歯を食いしばる。
(ガルス……
あなたはもう帝国を“守る者”ではない……
破壊者よ……!)
アリアの風刃が閃き、
血殉騎の足を切り落とした。
ロウガが後ろから突っ込み、
残りを叩き潰す。
アルフレッドが治癒魔法で民を救う。
ミラは城下の避難誘導を開始。
アリア隊は、
帝都内で最も速く、最も多くの人を救い続けた。
だがその時――
エリオンが息を呑んだ。
「……ここじゃない。
治療院だ。
“黒翼カイウス”が危ない!!」
アリアは顔を上げる。
「治療院へ!!」
■ 帝都・聖火治療院
治療院は赤い霧に包囲されていた。
建物の周囲には十数体の血殉騎が待機している。
ロウガが震える声で言う。
「うわ……ここ、完全に包囲されてるぞ……」
ミラも囁く。
「カイウス閣下が……中に……!」
アリアは風を強めた。
「私は突っ込む。
みんなは背中を支えて!」
エリオンが剣を握りしめる。
「無茶だぞ……!」
「無茶でも行く!!
だって——」
アリアは風を足場に跳び上がる。
「殺させない!!
“真実を語ろうとした人”を!!」
アリアの叫びに合わせ、
風が爆発した。
■ 治療院内部
カイウスは寝台に座っていたが、
両膝をつき、必死に立ち上がろうとしていた。
「はぁ……っ……
逃げろ……民を……守れ……」
彼は重傷の身でありながら、
近づく血殉騎に向き合おうとしていた。
(俺は……風の王に……負けた男……
だが……あの王の“誠実”を……裏切るわけには……)
血殉騎が剣を振り下ろそうとした瞬間――
「そこまでよ!!」
風が窓を割り、アリアが飛び込んだ。
黒翼のカイウスが驚愕する。
「お……前が……来た……のか……
アリア……!」
アリアは剣を構え、
カイウスと血殉騎の間に立つ。
「カイウス、あなたは敵だった。
でも“真実を語ろうとした者”を……
私は絶対に見捨てない!!」
カイウスの瞳が揺れた。
(……この王は……本物だ……!)
■ 血殉騎との決戦
アリアは風を纏い、
三体の血殉騎へ飛び込む。
エリオンが横から斬撃を差し込み、
ロウガが背後から一体を叩き伏せる。
ミラが魔導結界で治療院を守り、
アルフレッドが民を避難させる。
アリアの剣が唸る。
「ここは……
“帝国の良心”が残る場所!!
絶対に……渡さない!!」
風刃が十字に走り、
血殉騎の胸部核を次々と破壊していく。
赤い霧が晴れ、
治療院が静寂に包まれた。
■ カイウスの証言
カイウスは膝をつき、
アリアを見つめた。
「……アリア……
俺は……お前に敗れた時……
感じたのだ。」
アリアが首をかしげる。
「何を?」
カイウスは苦しげに息を吐きながら微笑む。
「風でも……血でもない。
“意志の王”が……現れた、と。」
アリアは静かに目を伏せる。
「……ありがとう。
あなたのその言葉が……救いよ。」
カイウスは言う。
「伝えたい……
ガルスは……“帝国の血”を完全に……
解き放とうとしている……
《血殉騎》は、ただの始まりだ……」
アリアが息を呑む。
「まだ……何かあるの?」
カイウスの声が震えた。
「“帝国を滅ぼす血”……
ガルスは……それを……」
言いかけたその時――
治療院の扉から
黒い笑い声が響いた。
■ レムルスの介入
影から現れたレムルスが、
ゆっくりと拍手しながら入ってくる。
「素晴らしいね、アリア。
風の王が帝国を救おうとするなんて。」
アリアは剣を構える。
「レムルス……!
ここで何を!」
レムルスは笑う。
「帝国が壊れる瞬間を見に来ただけさ。
ああ、それと——」
影がカイウスの背後に伸びる。
「ガルスの“血の計画”の続きを語られると……
都合が悪いからね。」
カイウスが目を見開く。
「……お前……
宰相側では……ないのか……?」
レムルスは首を振った。
「私は“国”の味方じゃない。
“混沌の味方”だよ。」
アリアは怒りに震える。
「カイウスに……手を出すな!!!」
レムルスは影を引きながら囁く。
「さあ、王よ……
次は“血の王”に会いに行かないと。
帝国の中心で、ガルスがお待ちだ。」
影が治療院の中を覆い――
レムルスは消えた。
残されたアリアたちは、
大きく息を吐くしかできなかった。
■ 帝国の悲劇
外へ出ると、
帝都の空が真っ黒な渦に染まり始めていた。
アリアが顔を上げる。
「……何……あれ……?」
エリオンが青ざめて答える。
「ガルスが……
“帝国の血脈そのもの”を解き放とうとしている……
これは……大陸をも飲む……!」
アリアは胸を押さえた。
(止めなきゃ……
私が止めなきゃ……
この帝国は……世界は……滅びる……)
風が荒れ狂い、
アリアの外套が大きくはためく。
「行くわ……
ガルスのところへ。」
ここからいよいよ
第二章・帝国決戦編(後半)
へ突入します。




