第二章:王の道、灰より始まる 第16話 血戦・紅ノ刻印 ― アリアと血の子らの罪と赦し
王は救うために剣を持つ。
だが救えぬものと出会った時、
その剣は“罪”を刻む。
■ 灰冠砦 ― 血の濁流が迫る
三体の《血の子ら》が地面を砕きながら突進してくる。
赤い光が壁を裂き、石畳はひび割れ、
周囲の兵たちは恐怖で後退した。
ロウガが叫ぶ。
「嬢ちゃん、来るぞ!!」
ミラは障壁を張りながら震えた声で言った。
「アリア様……あれは……
“破壊のためだけに造られた魔導兵”。
人でもなく、魔獣でもなく……
ただ“命令の亡霊”。」
アリアは剣を構えた。
(でも……
あなたたちの目の奥にあるものは――
“恐れ”だわ。)
風が静かに渦を巻く。
覚悟の風。
■ 第一撃 ― アリアの風、血を裂く
一体が空を跳ぶ。
腕が刃となり、アリアの首を切断する軌道で迫る。
「ッ!!」
アリアは風で足場を作り、真上へ跳躍。
空中で逆手に構え、叫んだ。
「灰迅牙――!」
風が灰の刃となり、
血の子の右腕が吹き飛ぶ。
だが――血の子は痛みさえ示さない。
「排除……継続……」
アリアの胸が締めつけられた。
(痛まない……?
違う、痛みを“奪われている”んだ……。)
■ アルフレッドの暴走
別の一体がアルフレッドへ向かう。
「ヒィッ……来る……来る!!」
刻印が反応し、アルフレッドの体から血の光が吹き出す。
エリオンが叫ぶ。
「アルフレッド、血を抑えろ!!
刻印が暴走するぞ!!」
アルフレッドは苦悶の声をあげる。
「いやぁっ……たすけ……て……
血が……僕を飲み込む……!!」
ミラが彼を抱きしめる。
「アルフレッド!
あなたはアリア様の民よ!!
血の道具じゃない!!」
血の光が揺れた。
アルフレッドの涙が落ちる。
「ぼ、僕は……
道具じゃ……ない……!」
その瞬間、第二の血の子が彼に飛びかかる。
ミラが叫ぶ。
「来ないで!!」
だが障壁は砕け、血の刃が迫る――
■ アリア、救いの疾風
アリアが地面を蹴り、疾風となって割り込んだ。
「守りの風よ――灰護輪!!」
風と灰の輪が展開し、
血の子の斬撃を完全に弾き返す。
アリアはアルフレッドを抱え上げ、
「大丈夫……!
あなたは私の民!!
誰にも奪わせない!!」
アルフレッドが泣きながら叫ぶ。
「アリアぁ……!」
アリアは微笑み、風を纏って立ち上がる。
■ 第二撃 ― “罪”を断つ覚悟
三体の血の子が連動する。
まるで一つの生物のように同時攻撃を仕掛けた。
エリオンが剣を抜いてアリアの前へ。
「アリア、一気に畳むぞ!」
ロウガが拳を構える。
「嬢ちゃん、後ろは任せな!!」
アリアは深く息を吸う。
(あなたたちを……“殺す”ことは、
きっと罪になる。
でも、これ以上苦しませるのはもっと罪。)
剣に風が集まり、灰がゆらりと揺れる。
「王として……断つ!」
三体が同時に飛んだ。
アリアは叫ぶ。
「灰誓・王式――
“灰風断罪”!!」
灰金の斬撃が地を裂き、
空を貫き、
三体を同時に吹き飛ばした。
爆風が砦を揺らし、
地面に血の子らが転がる。
彼らはボロボロの体で、なお立ち上がろうとしたが――
アリアはその前に膝をついた。
■ 血の子らの“最期の言葉”
アリアはその顔――人形のような顔に手を添える。
「……ごめんね。
あなたたちを……救えなくて。」
血の子の瞳が揺れた。
赤い光が弱まり、微かに“人の声”が漏れる。
「……た……すけ……て……」
アリアの胸が締めつけられた。
「ええ……助けるわ。
もう戦わなくていいのよ。」
ミラが涙を流し、ロウガが歯を食いしばる。
血の子はアリアの顔に触れようとしながら、
「あ……かるい……
あたた……か……い……
……これが……
“おひ……さま”……?」
アリアは泣きそうな声で答えた。
「そうよ……
あなたにも、届いてよかった……」
血の子らの身体が崩れ、
灰の粒となって風に溶けていった。
沈黙。
アリアは静かに目を閉じた。
(彼らもまた、帝国の被害者……
奪われた命……
私はその“罪”も背負う。)
エリオンがそっとアリアの肩に触れた。
「……アリア。
お前は十分救った。
彼らの最後を“人”として迎えさせたんだ。」
アリアは小さく頷いた。
「ありがとう……エリオン……」
■ 影の観察者
砦の屋根の上、黒い影が腕を組んでいた。
レムルスだ。
「……やっぱり。
君は“血を斬る王”じゃなく、
“痛みに寄り添う王”だ。」
紫の瞳が細められる。
「だからこそ……
壊しがいがある。」
風も声も気づかないまま、
影は霧のように消えた。
■ アリアの誓い
夜。
アリアは砦の一番高い塔に立ち、
灰の粒となった“血の子ら”が散った空を見上げた。
「あなたたちの痛み、
私は……忘れない。」
風が優しく吹き、
アリアの外套を揺らす。
「帝国の“罪”は、
私が終わらせる。」
その誓いは、夜空に静かに溶けていった。
「血の子ら」との決戦と彼らの最後の言葉が中心の回でした。
次回は血戦の余韻を残しつつ、
帝国側の動きが急加速していきます。




