第二章:王の道、灰より始まる 第15話 血の子ら、動く ― 帝国禁忌部隊の影
影の次に来るのは“血”。
血は憎しみを生み、過去を引きずり、
王の意志を蝕む刃となる。
■ 帝国・宰相府地下《赤脈室》
赤黒い光が地下深くを照らす。
ガルス宰相は、巨大な魔導器に手を触れていた。
その魔導器の中には――
子どもほどの大きさの“赤い胎”が脈打っている。
ガルスは低く呟く。
「血導師団はもう古い……
今必要なのは、より純粋な“血の兵”。」
魔導器が裂け、三つの影が姿を現した。
赤い瞳。
黒い紋。
人間とも、魔物とも言い難い。
その名は――
《血の子ら(ブラッドチャイルド)》
ガルスが命じる。
「灰冠の王アリアを探せ。
彼女に“血の報い”を与えよ。」
三体の“子”たちは声もなく跪き、
闇へと消えた。
■ 灰冠砦 ― 朝焼け
アリアは寝不足のまま、砦の外壁に立っていた。
昨夜のレムルスの囁きが胸に残っている。
(私は……“王になること”を恐れていた……
でも、それを認めないと。
弱さのままじゃ、国を導けない。)
風がふわりと吹き、アリアの外套を揺らした。
「……行こう。
影に負ける王じゃいられない。」
そのとき、背後から足音。
ミラだった。
目には疲れが残りつつも、笑顔を作っている。
「アリア様……昨日は本当に……怖かったです。
でも、私は信じています。
アリア様は“揺らがない王”になります。」
アリアは微笑む。
「ミラ……ありがとう。
あなたの言葉が、私を支えてくれる。」
ふたりが話す中、
離れた場所でアルフレッドが俯いていた。
ミラが気づく。
「アルフレッド……どうしたの?」
少年は小さく言った。
「……変な“気配”がする……
血導師団に似た……でももっと、冷たい……」
アリアが目を細めた。
「敵が来る?」
アルフレッドは震えた。
「来る……“血”が……呼んでる……」
その瞬間――
■ 血の子ら、襲来
砦の外から、突風のような影が三つ走り込んできた。
ロウガが叫ぶ。
「敵襲!!
なんだあれ……人なのか!?」
赤い紋章が刻まれた三体の異形。
目は血に染まり、表情はない。
ただアリアを“標的”として見据えている。
エリオンが剣を抜く。
「……ガルスの“禁忌”か。」
アリアは、一歩前へ出た。
「あなたたち……誰が作ったの?」
返事はない。
ただ、口が同時に動き出す。
「血の王器……
アリア・ヴァルステッド……排除……」
ミラが青ざめた。
「……言葉になってない……
命令しか……持ってない……!」
アリアの胸が痛む。
(これも帝国の……“悲しみ”……
奪われ、造られた命……)
アルフレッドが叫ぶ。
「アリア……逃げて!!
あれは僕たち“血導体”より……
もっと深く“血に溺れた存在”!」
しかしアリアは剣を抜かない。
「あなたたちを殺したくない……
でも、みんなを傷つけるなら――!」
風が唸り、灰が舞い始める。
■ アルフレッドの崩壊
一体の“血の子”がアルフレッドへ向かって突進した。
「う、うわっ――!」
ミラが防御魔法を張るが弾かれ、
アルフレッドが地に倒れ込む。
その“子”はアルフレッドの肩に刻まれた
帝国の《刻印》に反応している。
「血の……同族……不完全……排除対象……」
アルフレッドが叫ぶ。
「違うっ……!
僕は、もう帝国の兵器じゃない!!
アリアの民だ!!」
だが“子”の目は変わらない。
アリアは歯を食いしばる。
(アルフレッド……!
彼を苦しめるものは……全部私が断つ!!)
風が渦を巻いた。
■ アリア、刀ではなく“言葉”で立つ
風が剣の形になりかけた瞬間――
アリアは、剣を振らず叫んだ。
「あなたたち……
本当は、痛いんでしょう?」
血の子らの動きがわずかに揺れる。
アリアは一歩踏み出した。
「命令しか与えられず、
怒ることも泣くこともできず、
ただ“殺せ”と言われるだけ……」
ミラが息を呑む。
「アリア様……まさか……」
エリオンが目を細めた。
「ああ……
“王式”の……言霊が発動している。」
アリアは手を伸ばして言った。
「あなたたちも……
誰かに“救われたかった”はずよ。」
血の子らの赤い瞳が、わずかに震える。
「……救……われ……?」
「そうよ。
奪うためじゃない。
救うために、生まれたって思いたいはず。」
風がそっと血の子らの周囲を撫でるように流れる。
三体は戸惑ったようにアリアを見た。
その瞬間――
■ レムルスの“邪魔”
砦の影に、黒い手が現れた。
レムルスが壁にもたれ、楽しげに指を弾く。
パチン――
血の子らの瞳に黒い光が走った。
「排除対象――灰冠王――即時破壊」
アリアの表情が凍る。
「レムルス……!!」
影の中から聞こえる彼の声。
「ごめんね、アリア。
“救い”なんて、彼らに必要ないんだよ。」
血の子らが再び狂気の速度で襲いかかる。
エリオンが叫ぶ。
「アリア、下がれ!!」
アリアは歯を食いしばり、剣を構えた。
「なら――
悲しみを断つ覚悟で戦う!!」
風が爆ぜた。
■ 奮戦
アリアの風が暴風となり、
三体を弾き飛ばす。
ロウガが前に飛び出し、一体を壁に叩きつけた。
「嬢ちゃんを傷つける奴は、俺がぶっ飛ばす!!」
ミラが強化魔法でアルフレッドを治癒。
「アルフレッド、立って!
あなたも、アリア様を支えるの!!」
アルフレッドは震える足で立ち上がり、
血導体としての力を光に変換した。
「アリア……僕も戦う!!
もう……同じ血でも、支配されない!!」
三体の血の子らが再び立ち上がる。
赤い光が砦を染める。
アリアは空へ跳び、剣を構えた。
「あなたたちの“痛み”――
私が終わらせる!!」
風が渦を巻き、
第二章中盤の大地戦が始まる。
ガルスの禁忌《血の子ら(ブラッドチャイルド)》が
ついにアリアたちへ牙をむきました。
影と血の
二重の敵が本格的にアリアへ迫り始める章です。




