第二章:王の道、灰より始まる 第11話 焔翼部隊、襲来 ― 空を裂く赤い影
空は自由の象徴だ。
だが戦場では、最も逃げ場がない場所でもある。
――そこに、帝国最強の刃が迫る。
■ 北方獣王領・霜風峡谷
アリア率いる“王直属・灰冠騎士隊”は
雪原を越え、獣王連邦の峡谷へ到着した。
風が鋭く、雪は細かい刃のように肌を打つ。
その奥で銀の狼たちが待っていた。
フェンリス・ラグナード――白狼王が現れた。
巨大な体、白銀の毛並み、黄金の眼。
その威厳は雪を溶かすほど強い。
「……来たか、人の王よ。」
アリアは深く頭を下げる。
「お久しぶりです、フェンリス王。」
フェンリスは笑った。
「やはり来たな。
約束を守る王は、久しぶりだ。」
ロウガが嬉しそうに胸を叩く。
「嬢ちゃんは筋金入りの王なんだよ!」
フェンリスはアリアを見つめ、深刻な顔で言う。
「帝国の“焔翼部隊”が北境を越えた。
我らの村が、すでに二つ焼かれた。」
アリアの眉が鋭く寄る。
「……間に合わなかったのね。」
フェンリスは頷き、
「“焔翼”は炎魔法で空を支配する飛行部隊。
我々獣人は空戦を不得手とする。
だからこそ――
“風の王”であるお前の力が必要だ。」
アリアは静かに剣を握った。
「必ず守ります。
もう誰も、帝国の炎に奪わせない。」
フェンリスの黄金の瞳が細められる。
「ならば……来るぞ。」
■ 赤空の兆し
雪雲を切り裂くように、空が赤く染まり始めた。
――ゴウウウウッ!!
大気が震え、熱が襲う。
ミラが叫ぶ。
「風が……逆に押し返されてる……!」
アルフレッドは身を固くする。
「焔翼の“炎圧”です……
空そのものを燃焼させる飛行魔法……」
ロウガが拳を握りしめる。
「なんだそりゃ……空が燃えてるのか!?」
エリオンは冷静に空を見つめた。
「いや……“燃えながら飛んでいる”。
帝国の飛行部隊の特徴だ。」
次の瞬間、赤黒い影が雪雲を貫いた。
■ 帝国飛行騎兵 “焔翼部隊”
十数騎。
だが、その存在感は一軍以上。
騎兵たちは炎翼と呼ばれる燃える羽を背負い、
空中を高速で旋回している。
その先頭に立つのは――
黒鎧の男。
背に漆黒の炎翼。
帝国最強の空騎兵、“黒翼のカイウス”。
アリアが息を呑む。
(……あれが……帝国の“空の王”。)
カイウスの声が響く。
「灰冠の王――
我が剣の前に降れ。
宰相ガルスより、“王殺しの許可”を得ている。」
フェンリスが怒鳴る。
「この地で殺しはさせん!
貴様の炎翼、狼の牙で引き裂いてくれる!」
カイウスは冷笑した。
「獣が吠えるな。
空は帝国の領域だ。」
彼は剣を天に掲げた。
「焔翼第一陣――“紅蓮落”」
空が割れ、炎が降り注ぐ。
地面が爆ぜ、雪が蒸発し、蒸気が吹き上がる。
■ 灰冠の王、空へ
アリアは即座に跳び上がる。
風を足場に、空へ。
ロウガが叫ぶ。
「嬢ちゃん、無茶だ――!!」
ミラの手が胸を押さえる。
「アリア様……どうか……!」
エリオンは見つめながら呟いた。
「空を選んだか……
ならば、王の翼を見せろ。」
アルフレッドは震える手を伸ばしながら叫ぶ。
「アリア……気をつけて……!!」
アリアは風を纏い、炎の雨を切り裂いた。
「風よ――
“矢”になって空を裂け!」
灰誓・風式――
「灰迅矢」!!
無数の風の矢が空を駆け、焔翼騎兵の陣に突き刺さる。
炎が揺らぎ、飛行の軌跡が乱れる。
カイウスの目が細まる。
「……風か。
それも、“王級”の力。」
アリアが叫ぶ。
「あなたたちに空は渡さない!!
ここは――獣王と民の空!!」
風が轟き、アリアの外套が翻る。
■ 空の戦場
焔翼部隊の炎が空を焦がす。
アリアの風が空を切り裂く。
炎と風――
空での戦いは、地上よりも速く、苛烈で、息をする暇がない。
カイウスが瞬間移動のような速度で迫る。
「灰冠の王。
その風――斬り落とす。」
アリアは剣を構える。
(速い……
でも、まだ――負けられない!!)
二人の刃が激突。
炎翼の光が閃き、
灰色の風が空を裂き、
その度に空そのものが悲鳴を上げる。
フェンリスが地上から叫ぶ。
「アリア――!
空から落ちれば命はない!!」
アリアは微笑む。
「大丈夫。
私は“風を背負った王”。
空は、私の故郷よ!」
■ ミラとアルフレッド
地上では、ミラが魔導障壁を展開して村人を守っていた。
アルフレッドも血導師の残響を使い、援護に回る。
ミラが彼に言う。
「アルフレッド……無理しないで!」
「僕は……アリアを支えたいんだ。
僕を“人”として見てくれた王を……!」
ミラは驚き、そして微笑んだ。
(この子……
昨日とは別人みたい……
アリア様が変えたんだわ。)
アルフレッドの魔力が光り、
焔翼の炎を一点だけ押し戻した。
その瞬間、アリアの風が突破口を開く。
■ 黒翼の影
空中で、カイウスが剣を構え直す。
「なるほど。
風の王……アリア。
お前を侮っていた。」
アリアが呼吸を整え、構えを取り直す。
「あなたの炎、強いわ。
でも――守るべきものがある者の方が、強い。」
カイウスは低く笑う。
「守るべきもの……?
だったら、教えてやろう。」
その瞬間。
彼の背の“炎翼”の中で、黒い影が展開した。
「――“黒焔”。
宰相ガルスより新たに授かった“王殺しの炎”。」
空が歪んだ。
赤でも炎でもない。
真っ黒な焔の翼が広がった。
アリアは息を呑む。
(……あれは……風すら燃やす“闇炎”……!
勝てるの……?)
カイウスが最終構えに入る。
「この黒翼に焼かれた者は、
血も風も残らず灰になる。
――終わりだ、灰冠の王。」
空が撓むほどの熱が押し寄せる。
アリアは剣を握りしめ、叫んだ。
「私は……灰の王じゃない!
――“意志の王”よ!!」
風が叫び、空が灰色に染まる。
空を舞台にした戦いは、
アリアが王としてどれほど成長したかを示す戦いでもあります。




