第二章:王の道、灰より始まる 第10話 獣王フェンリスの警告 ― 迫りくる帝国の刃
戦は、突然やって来るものではない。
風が変わり、空が沈み、人々の胸がざわつき――
その前兆のすべてが、“王”の心に重くのしかかる。
■ 灰冠砦・朝霧の中
深い霧が砦を包む早朝。
アリアはまだ薄暗い大広間で地図を眺めていた。
帝国、獣王連邦、灰冠領――
三勢力の境界線が、まるで血管のように脈を打って見える。
(……風がざわめいている。
何か、来ている。)
その瞬間、外で狼の遠吠えが響いた。
ロウガが駆け込む。
「嬢ちゃん! 北門に獣王連邦の使者だ!」
アリアは頷き、外へ向かった。
■ 北門
白狼の毛皮を纏った獣人戦士がひざまずいていた。
体中に傷、息は荒い。
ただならぬ雰囲気。
アリアが声をかける。
「フェンリス王の使者? 一体何が……」
獣人戦士は震えながら、血に染まった書簡を差し出す。
「灰冠の王アリアよ……
獣王フェンリスより、急報を。
帝国“焔翼部隊”が北進――
連邦領が炎に包まれようとしている!」
アリアの心臓が跳ねた。
「焔翼部隊……帝国でも最強の“飛行騎兵”……!」
エリオンが眉をひそめる。
「ガルスか。“紅蓮段階”を動かしたんだ。」
獣人戦士は続ける。
「フェンリス王は、あなたに問えと……
**『同盟の旗を掲げる覚悟があるか』**と!」
アリアは息を呑んだ。
それは“帝国と全面戦争”に踏み込むかどうかの質問だった。
■ 砦・作戦室
地図を囲んで会議が始まる。
ロウガが拳を叩きつける。
「獣王は恩人だ! 援軍を出してやるべきだろ!」
ミラは不安げに言う。
「でも、こっちも国の形が整っていません。
戦力を分ければ、灰冠砦が危険に……」
アルフレッドは俯き、震える声で言う。
「帝国は……焔翼部隊を動かす時、必ず“焦土戦術”を使う。
連邦の村は……守りきれない。」
エリオンが腕を組む。
「アリア。
ここでの決断は王国の未来を左右する。
帝国と正面衝突する覚悟が必要だ。」
アリアは静かに地図を見つめていた。
獣王連邦の北境は赤く染まりつつある。
帝国の“刃”が迫っている。
(……私は何を選ぶ?
国を守る? 仲間を守る?
それとも――“意志の国”としての誓いを守る?)
アリアは目を閉じ、深呼吸した。
■ 王の決断
目を開いたとき、彼女の瞳には迷いがなかった。
「――援軍を出します。」
ミラが息を飲む。
ロウガが喜びの声をあげる。
エリオンは静かに頷いた。
アリアは続けた。
「ただし、全軍ではなく“王直属の隊”を出す。
ロウガ、ミラ、エリオン、アルフレッド……
そして私が行く。」
全員が驚いた。
ミラが叫ぶ。
「アリア様が!? 危険すぎます!」
ロウガも声を荒げる。
「お前は王だ! 矢面に立つ必要はねえ!」
アリアは首を横に振る。
「私は王だからこそ、行かなければならない。
――“意志の国”を掲げた王が、
同盟を結んだ相手を見捨てるなんてできない。」
その言葉は、全員の胸を強く揺さぶった。
エリオンだけが、どこか微笑を浮かべるように言った。
「まったく……
だからこそ、人はお前を“王”と呼ぶんだ。」
■ その日の夕暮れ
アリアは砦の塔から外を眺めていた。
灰色の雲が流れ、風がざわつく。
アルフレッドがそっと近づいてくる。
「アリア……
僕も、連れていってほしい。」
アリアは向き直り、彼の瞳を見つめる。
「危険よ。あなたは血導師団の刻印がまだ残っている。」
「でも……」
アルフレッドは胸を押さえながら言う。
「昨日、アリアは僕を“人”として扱ってくれた。
僕は……“奪う側”じゃなくて、
“守る側”に立ちたい。」
アリアは微笑んだ。
「……ありがとう、アルフレッド。
一緒に行きましょう。」
少年の顔に、小さく、初めての笑顔が生まれた。
■ 帝都・宰相府
ガルスは窓から北方の空を見つめていた。
紅蓮色の雲が渦巻いている。
「フェンリスか。
そしてアリア。
……邪魔者が多すぎるな。」
席にある魔導水晶に触れる。
「“焔翼部隊”に伝えよ――
灰冠の王が北上している。
迎撃を許可する。
殺せ。」
水晶が血のような光を放った。
■ 灰冠砦・夜
荷造りを終えたアリアは、星のない空を見上げていた。
(帝国も動いた……
戦は、もう避けられない。)
その時、強い風が吹いた。
遠くから、狼の声が響く。
――フェンリスからの呼び声。
「来い、灰冠の王よ。
北の地で、お前を待つ。」
アリアは剣を握り、静かに答えた。
「行くわ……必ず。」
こうして、アリア率いる“王直属・灰冠騎士隊”は
獣王連邦へ向けて動き出す。
帝国最強の飛行騎兵“焔翼部隊”との激突は、目前に迫っていた。
「国王としての大規模決断」を行う回でした。
物語は第二章の後半、
“帝国飛行騎兵戦”へ突入します。




