第二章:王の道、灰より始まる 第8話 灰冠の王国議会 ― 王と民の誓い
国とは、王一人では成り立たない。
民が望み、支え、託す――その瞬間、初めて国は生まれる。
この日、灰冠の王国は“意志による国”になろうとしていた。
■ 灰冠砦・大広間
血導師団の夜襲を退けた翌日。
砦の大広間には、兵・民・避難者・商人・元盗賊――
様々な出自の人々が集まっていた。
本来なら、ここは軍議の場。
だが今日、この場所は《アルメリア王国議会》として使われる。
会場のざわめきの中、アリアが姿を現した。
灰色の外套、白い衣、そして胸には王の誓印。
その姿に、場が静まり返る。
ロウガが胸を張る。
「――アルメリア王、アリア・ヴァルステッドだ!」
民衆が一斉に頭を下げた。
アリアは手を挙げ、静かに語り出す。
「昨日、私たちは帝国の“血の呪い”を退けました。
でも……戦いは続きます。
だから今日は、“国としての形”を明確にします。」
ミラが横で書記を務め、エリオンは壁にもたれて黙して見守る。
■ 王国議会、開幕
アリアは壇に立つと、三つの石板を掲げた。
それは彼女が夜通し考えた――“アルメリアの根幹”。
◆ 第一条:「血ではなく、意志に価値を置く」
「この国は、血統で人の価値を決めません。
生まれた家も、力の有無も関係ありません。
――意志を語る者こそ、この国の民です。」
元農民の男が涙ぐむ。
「……そんな国、聞いたことねえ……」
アリアは首を横に振る。
「だから、私たちが最初に作るのです。」
◆ 第二条:「王の義務は、民を守ること」
「王は民の上に立つのではなく、
民を守るために存在します。
もし私がそれを果たせなければ――
その時は、私を王座から降ろしてください。」
会場にどよめき。
エリオンの瞳がわずかに揺れた。
(……王は、ここまで“民”に預けるか。)
◆ 第三条:「奪われた者を受け入れる国」
アリアは最後の石板を掲げた。
「帝国に家を奪われた者、
血導師団のように“造られた者”、
故郷をなくした異民族――
全員、この国に居場所を持つことができます。」
その言葉に、誰よりも反応したのは――
血導師団から救われた少年 アルフレッドだった。
■ アルフレッドの選択
会議の後、アルフレッドはアリアの前に立った。
まだ傷は深いが、瞳に昨日までなかった“色”が返っている。
「アリア……私は、どこに行けばいい?」
アリアは迷わず答えた。
「どこへ行きたいの? アルフレッド。」
少年は小さく震えた。
「……行きたい場所なんて……知らない。
私は、誰かの命令がなければ動けない“血導体”だったから……」
「違うわ。」
アリアは彼の肩に手を置く。
「あなたは、今、私の前で“質問した”。
それは、生きる意思があるということ。」
アルフレッドの瞳に涙が浮かぶ。
「私は……この国に、いてもいいの?」
微笑むアリア。
ロウガが腕を組んでうなずき、ミラが優しく背を叩く。
「もちろん。
あなたは“この国が救った最初の命”。
だから――アルメリアの民よ。」
アルフレッドは泣きながら膝をつき、初めての言葉を口にした。
「……王よ。誓います。
私はあなたに、意志で仕える。」
アリアの目も濡れた。
「ありがとう、アルフレッド。」
■ 帝国に走る“ある噂”
その頃、帝都セレスティア。
暗い路地を、噂が駆け巡っていた。
「灰冠の娘、王を名乗ったらしい……」
「北に新王国ができた? 帝国に逆らう勢力が?」
「いや、違う――**“血を超えた王が現れた”**らしい」
そして宰相ガルス・ハーゲンの耳にも、その噂が届く。
「……意志の王、か。
帝国を否定する象徴。
ならば――消すしかあるまい。」
ガルスの背後で、封印された“血導体コア”が不気味に脈動する。
■ 夜の砦、王の独白
議会が終わり、夜。
アリアは一人、砦の塔に立つ。
風が髪を撫で、旗が静かになびく。
(私は……本当に“王”になれるのだろうか。
血に選ばれたわけではない。
ただの少女が、国を背負えるの?)
その時、足音。
エリオンが近づき、静かに言う。
「王に必要なのは、血統でも力でもない。
――迷いと、決断だ。」
アリアは振り返る。
エリオンの蒼い瞳がまっすぐ彼女を見据えていた。
「迷っていい。
だがその度に、お前は選んできた。
それができる者だけが、王と呼ばれる。」
アリアは深く息を吸う。
「……ありがとう、エリオン。」
遠くの暗闇から、狼の遠吠えが響いた。
それは、獣王連邦の友人――白狼王フェンリスの声だ。
(ひとりじゃない。
この国は、私だけじゃない。)
アリアは静かに剣を握りしめた。
「この国を、守る。」
そしてアルフレッドが正式にアリアに忠誠を誓い、
帝国には「意志の王」という危険な噂が広がり始める――
物語は政治編と戦争編が同時進行へ。




