第二章:王の道、灰より始まる 第7話 血導師団・夜襲 ― 朱の刃、灰の盾
血は過去の記憶。
意志は未来の選択。
そして戦場で、それは初めて衝突する。
灰冠砦に夜が訪れた。
風が冷たい。
空には月もなく、ただ闇が深く沈んでいる。
アリアは城壁の上に立ち、遠くの闇を見つめていた。
何かが――来る。
風の流れが乱れ、血の脈が微かに警鐘を鳴らす。
(……風が沈黙している。
これは、“嵐の前”の気配……)
ロウガが隣に目をこするようにして立つ。
「嬢ちゃん、今日は落ちつかねえな。」
「風が教えてるの。……“血”が動いてる。」
「血……?」
アリアが答えようとした時――
砦の北方が一瞬だけ赤く光った。
次の瞬間。
――ズドンッ!!!
地面を割る轟音。
赤黒い閃光。
蒸気と砂煙が天へ噴き上がる。
ミラが悲鳴を上げて駆け込んだ。
「北門が……北門が吹き飛びました!!」
アリアは剣を抜き放つ。
「血導師団が来た――!」
闇の中から、朱色の外套を翻す兵が現れる。
彼らの瞳は、血のような赤。
肌には魔導刻印。
“血誓の魔導”を極限まで特化させた狂信者部隊。
そして、彼らの先頭に立つ少年。
淡金の髪、無表情。
年齢は15、いやもっと幼いかもしれない。
「……アリア・ヴァルステッド。」
少年の声は震えも怒りもない。
まるで“神の命令”をそのまま読むような機械的な響き。
アリアは剣先を少年へ向けた。
「あなたは誰?」
少年は淡々と答えた。
「帝国特等血導師――
アルフレッド・エルンスト。
任務は“方舟の器”の確保。あなたを連れて帰る。」
アリアの掌が震えた。
血が疼く。
意識の奥で“灰冠の王”の残響がざわめく。
――この少年、“完成品”だ。
血だけで造られた、人ではない“器”。
「あなた……」
アリアの声に怒りが混じる。
「帝国に、血で造られたのね。」
アルフレッドは瞬きすらしない。
「私は生まれた時から“帝国の血管”です。
血に意志は不要。命令があれば、動く。」
ロウガが怒声を上げる。
「ふざけんじゃねえ! 人の形をしながら、それでいいのか!」
少年はわずかに首をかしげる。
「私は、人ではありません。」
その瞬間、アリアの胸の奥で何かが“切れた”。
(……そんなの、許せない。
誰かの人生を、“血の道具”にするなんて。)
アリアの目が灰色に輝く。
掌の紋が、第二層の光を帯び始める。
■ 血導師団の始動
アルフレッドが右手を掲げると、
血導師団の兵たちが一斉に跳躍した。
その動きは獣より速く、風より鋭い。
刻印が赤く光り、血の霧が弾ける。
「血誓・第一式――朱刃雨。」
空が赤く染まる。
赤い刃の雨が放たれ、砦の木壁を切り裂く。
兵が倒れる。
悲鳴。
赤い霧が舞う。
ミラが叫ぶ。
「アリア様!! 皆が……!」
アリアは剣を高く掲げる。
風が渦を巻き、灰が天へ舞い上がる。
「灰誓――風環盾!」
風と灰が結界となり、赤い刃を相殺する。
だが衝撃でアリアの足が後ろに滑る。
血導師の攻撃は、風の守りをも削るほど強烈だった。
ロウガが叫ぶ。
「嬢ちゃん、あいつら……人間じゃねえ!」
アリアは震える声で答える。
「そう……人間じゃない。
血だけで造られた“方舟の残骸”。」
アルフレッドが進む。
目の色は変わらない。
「アリア・ヴァルステッド。
あなたは“器”として回収されるべき存在。
抵抗すれば――死ぬだけです。」
「殺す気はないんでしょ? 私は“素材”だもの。」
「素材とは言いません。
あなたは“主機”。
あなたの血があれば、帝国は神に至る。」
アリアの足が止まる。
(……この子、本気でそう信じてる。
“血に生かされている”と思ってる。)
憐れみが胸を締めつけた。
(帝国がやったのよ。
この子の人生を、奪った。)
アリアは前に出た。
「あなたは“道具”じゃない。
私が証明する。」
アルフレッドの瞳が一瞬だけ揺れた。
■ 決戦
少年が手をかざす。
「血誓――第二式。
朱獄連鎖。」
赤い鎖のような血の線がアリアを包み込む。
触れたものを腐食し、魔力を吸い取る禁術。
ロウガが駆け寄ろうとするが――
「近づくなロウガ!」
アリアの声が響く。
「これは……私だけの戦い。」
血の鎖が収束し、アリアの心臓に向かって突き刺さる。
その瞬間。
アリアの全身が光に包まれた。
それは灰色ではない。
金でも、赤でもない。
――灰と金の“混ざり色”。
「灰誓・第二式――“光灰剣”」
剣が輝き、血の鎖を破壊する。
衝撃で地面が割れ、赤い霧が吹き飛ぶ。
アルフレッドが初めて表情を歪めた。
「……第二式……?
そんな……“方舟王級”の……!」
アリアが一歩ずつ、少年へ歩み寄る。
剣を下げ、瞳は柔らかかった。
「あなたを殺すつもりはないわ。
――だって、あなたも“奪われた者”でしょう?」
少年の瞳が震える。
刃が揺れる。
「……奪われた……?
私は……最初から……」
「違う。」
アリアは彼の目前まで近づき、囁く。
「あなたは、“生まれられた”のよ。」
その瞬間。
血導師団の兵たちが動揺し、後退した。
アルフレッドは項垂れ、震える手で胸を押さえた。
「……痛い……これは……何……?」
「心よ。」
アリアはそっと手を差し伸べる。
「あなたが、“人として”感じている痛み。」
少年はしばらく動かなかった。
そして――
「……助けて。アリア。」
アリアは静かに頷き、彼を抱きしめた。
灰の風が少年を包み、赤い刻印が一つ、消える。
■ 血導師団、退却
隊長を喪失した血導師団は混乱し、撤退していく。
砦に静寂が戻る。
ロウガが駆け寄り、叫ぶ。
「嬢ちゃん!! 無事か!?」
「ええ。……大丈夫。
でも、戦いは終わっていない。」
ミラは震えながらアリアに抱きつく。
「アリア様……あなた、本当に……」
「私は王よ。
“救える命”を見捨てる王には――ならない。」
アリアの瞳が夜空の星を映した。
その横で、少年アルフレッドは静かに涙をこぼしていた。
帝国最強の禁忌“血導師団”が初登場。
少年指揮官アルフレッドは単なる敵ではなく、
帝国の「血の呪い」によって生まれた“奪われた命”。
アリアは戦いの中で彼を救い、第二の血誓を覚醒。
これにより、アリアの力は
**「神の器」ではなく「人を救う王の力」**として進化します。




