第五章:帝国動乱編 第15話 波及 ― 問いが独り歩きする時
問いは、
一度放たれると、
持ち主を失う。
誰の許可もなく、
誰の意図も越えて、
人から人へと渡り歩く。
それは、
希望にもなり、
凶器にもなる。
王が開いた問いは、
いま――
王の手を離れ始めていた。
帝都。
数日後。
街角の至る所で、
同じ言葉が囁かれていた。
「正しい判断は、
誰が決めるべきか。」
広場だけではない。
酒場。
工房。
兵舎。
問いは、
生活の中に入り込んだ。
***
下層区の酒場。
職人
「……王は……
答えを……
逃げたんじゃ……
ないか?」
別の男
「……違う。」
別の男
「……俺たちに……
渡したんだ。」
職人
「……重すぎる……。」
笑いは起きなかった。
***
軍営。
若い兵士が、
訓練の合間に呟く。
兵士
「……命令が……
間違ってたら……
どうする……?」
小隊長
「……考える。」
兵士
「……考えて……
撃てるか……?」
小隊長は、
答えなかった。
***
学府。
学生たちが、
黒板を囲んでいる。
学生
「……王の問いは……
政治の……
放棄だ……。」
別の学生
「……いや……
参加の……
要求だ。」
議論は、
白熱した。
だが、
結論は出ない。
***
その中で。
南西州レイザン。
例の法学者が、
再び人々の前に立っていた。
法学者
「王は、
問いを投げました。」
法学者
「だが、
問いには……
答えが……
必要です。」
人々が、
頷く。
法学者
「答えなき問いは、
混乱を……
拡大させる。」
法学者
「だから……
我々が……
答えを……
示す。」
それは、
以前よりも、
踏み込んだ言葉だった。
***
帝都。
評議院。
第一評議員
「……各地で……
自主的な……
“基準案”が……
出始めています。」
文官
「内容は……
まちまちですが……
影響は……
大きい。」
反王派の評議員
「見たか。」
反王派の評議員
「王の問いは、
分裂を……
拡散させている。」
ガルディアス
「……それは……
分裂ではない。」
ガルディアス
「……“露出”だ。」
皇帝は、
机を指で叩く。
ガルディアス
「これまで、
覆われていた違いが、
表に……
出ただけだ。」
***
北方。
アリアは、
各地の報告を
静かに読んでいた。
エリオン
「……問いが……
利用され始めている。」
アリア
「……うん。」
アリア
「……予想してた。」
エリオン
「止めるか。」
アリア
「……止めたら……
“答えを……
押し付ける王”に……
なる。」
エリオン
「では……
放置か。」
アリア
「……見続ける。」
アリア
「……そして……
“歪んだ瞬間”だけ……
指を……
差す。」
エリオン
「難しい道だ。」
アリア
「……楽な道は……
最初から……
なかった。」
***
その夜。
帝都下層区。
小さな衝突が、
起きた。
基準派と、
現場派。
怒鳴り合い。
押し合い。
誰かが、
「王はこう言った!」と
叫ぶ。
別の誰かが、
「いや、違う!」と
叫ぶ。
守備兵が、
間に入る。
血は流れない。
だが、
問いは――
確かに、
刃になり始めていた。
***
深夜。
アリアは、
窓辺に立つ。
風が、
不安定に吹く。
アリア
「……問いは……
独り歩き……
する。」
アリア
「……だから……
置きっぱなしには……
できない。」
彼女は、
次の行動を考え始める。
答えを出すのではない。
問いが、
刃にならないための、
“場”を――
どう作るかを。
夜の帝都で、
無数の灯が揺れていた。
それは、
迷いの数だった。
だが同時に、
考え始めた人間の数でもあった。
問いが刃になる寸前、
アリアが
新しい“場”を提示します。




