第五章:帝国動乱編 第13話 煽動 ― 正しさを武器にする者
剣は、
振るう者を選ぶ。
だが、
正しさは――
誰の手にも握れてしまう。
それは、
血を流さずに人を動かし、
自分は汚れないまま、他人に刃を向けさせる力だ。
王が命令しない世界で、
その武器を
最初に手に取る者が、必ず現れる。
帝都。
昼下がり。
中央広場。
簡易の演説台が、
いつの間にか設えられていた。
豪華ではない。
だが、
人目を引く。
台の上に立つのは、
貴族でも、
軍人でもない。
若い法学者。
整った身なり。
穏やかな声。
法学者
「皆さん。」
ざわめきが、
ゆっくりと収まる。
法学者
「私は、
王を否定するために
ここに立ったのではありません。」
その言葉に、
人々が耳を傾ける。
法学者
「王の理念は、
美しい。」
法学者
「だが……
美しさは……
現実を……
救いません。」
拍手が、
まばらに起きる。
法学者
「王は、
判断を民に委ねました。」
法学者
「では、
その判断の“基準”は
どこにあるのでしょう。」
人々の顔に、
不安が浮かぶ。
法学者
「基準なき選択は、
強い声に
流されます。」
法学者
「それは……
平等ではありません。」
誰かが、
頷いた。
法学者
「だからこそ、
我々は……
正しさを……
共有せねばならない。」
法学者
「王の理念を、
“制度”として
完成させる必要がある。」
拍手が、
広がる。
***
同時刻。
評議院の一角。
若手貴族が、
報告書を読んでいた。
若手貴族
「……民衆の反応は……
上々だ。」
別の男
「王を直接否定しないのが、
うまい。」
若手貴族
「……正しさを……
“定義”する……
という形だ。」
別の男
「王の言葉を……
囲い込む。」
若手貴族
「命令ではない。」
若手貴族
「……だから……
王も……
止めにくい。」
薄く、
笑みが交わされる。
***
北方。
アリアは、
その演説の記録を
読んでいた。
エリオン
「……巧妙だ。」
アリア
「……うん。」
アリア
「……否定してない……
利用してる。」
エリオン
「正しさを、
“規格化”しようとしている。」
アリア
「……それは……
危ない。」
エリオン
「だが、
民には……
安心に見える。」
アリアは、
目を閉じた。
アリア
「……基準は……
必要。」
アリア
「……でも……
基準が……
“声”を……
消したら……
意味が……
なくなる。」
***
数日後。
帝都各地で、
同じような集会が
開かれ始める。
共通する言葉。
「王の理念を、
正しく運用するために。」
「暴走を防ぐために。」
「民のために。」
それは、
善意の顔をしていた。
だが、
少しずつ、
違いが生まれる。
異論が、
「未熟」と呼ばれ。
迷いが、
「危険」とされる。
***
帝都下層区。
若い職人が、
集会で手を挙げた。
職人
「……でも……
現場では……
違う……
ことも……。」
法学者
「例外は、
制度で
吸収できます。」
職人
「……吸収……
できなかったら……?」
法学者
「……それは……
制度違反です。」
場が、
静まる。
誰も、
それ以上
口を開かなかった。
***
夜。
皇城。
ガルディアスは、
報告を聞き、
低く息を吐いた。
ガルディアス
「……始まったな。」
側近
「正しさを……
一本化しようとしています。」
ガルディアス
「剣よりも、
厄介だ。」
側近
「王は……
どう動きますか。」
ガルディアス
「……王が動けば……
“敵”を作る。」
ガルディアス
「だが……
動かねば……
“利用される”。」
***
同じ夜。
アリアは、
帝都の小さな宿で、
一人、
灯りを見つめていた。
アリア
「……正しさを……
独占させちゃ……
だめ。」
アリア
「……でも……
否定だけじゃ……
同じ……。」
彼女は、
静かに立ち上がる。
アリア
「……なら……
“問い”を……
開く。」
窓を開けると、
夜風が、
柔らかく吹いた。
それは、
嵐ではない。
だが、
正しさを
武器にしようとする者たちに、
確かに届く、
小さな前兆だった。
アリアが正面から否定せず、
別の形で
この流れに対抗します。




