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灰冠(はいかん)の大陸アルメリア  作者: たむ


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第五章:帝国動乱編 第11話 断絶 ― 選ばれなかった声

すべての声に、

応えることはできない。

それを理解することは、冷酷になることではない。

だが、

理解した瞬間から、

王は必ず――

誰かを選ばなかった者として、記憶される。

断絶は、避けられない。

問題は、

その断絶から目を逸らすかどうかだ。

帝都・東外郭。


古い倉庫街。

再開発の計画が、

静かに進められていた。


紙の上では、

合理的。


治安改善。

物流効率化。

税収増加。


だが、

そこには――

“住んでいる人”の名前が、

書かれていなかった。


***


評議院・実務会合。


文官

「再開発地区の住民は、

 規定通り、

 移住補助を受けます。」


第一評議員

「異議は?」


沈黙。


数字は、

整っている。


エリオンが、

低く言った。


エリオン

「……反対意見は。」


文官

「提出は……

 ありません。」


それは、

“提出されなかった”

だけだった。


***


夜。


倉庫街の一角。


簡素な集会。


住民たちが、

肩を寄せ合っている。


老女

「……役所に……

 行ったけど……

 話を……

 聞いてもらえなかった……。」


若者

「……王は……

 助けてくれる……

 んじゃ……

 なかったのか……。」


その言葉が、

胸に刺さる。


だが、

そこに王はいない。


***


翌日。


アリアは、

その倉庫街を歩いていた。


護衛も、

旗もない。


住民

「……王?」


アリア

「……話を……

 聞きに……

 来ました。」


人々が集まる。


怒り。

不安。

諦め。


若者

「……どうせ……

 決まってるんだろ……?」


アリアは、

否定しなかった。


アリア

「……決まってる……

 ことは……

 あります。」


ざわめき。


アリア

「……全部は……

 変えられない。」


老女

「……じゃあ……

 意味が……

 ないじゃない……。」


アリア

「……意味は……

 あります。」


アリア

「……選ばれなかった……

 って……

 言葉を……

 消さないこと。」


沈黙。


アリア

「……ここに……

 人が……

 いたって……

 残す。」


若者

「……それで……

 俺たちは……

 追い出される……?」


アリア

「……はい。」


その即答に、

空気が凍る。


アリア

「……だから……

 一緒に……

 記録します。」


住民

「……記録……?」


アリア

「……誰が……

 どんな……

 暮らしを……

 してたか。」


アリア

「……どんな……

 声が……

 あったか。」


アリア

「……それを……

 帝国に……

 残す。」


怒号が上がる。


若者

「……それで……

 何が……

 変わる……!」


アリア

「……すぐには……

 変わらない。」


アリア

「……でも……

 “なかったこと”には……

 させない。」


沈黙が、

長く続いた。


老女が、

小さく頷く。


老女

「……忘れられるより……

 まし……

 かね……。」


***


数日後。


評議院。


再開発案は、

予定通り可決された。


だが、

付帯文書が、

一枚、

追加されていた。


『本決定により、

 生活基盤を失う者の記録を

 永久保存すること。』


反王派の評議員

「……意味が……

 あるのか……?」


ガルディアス

「……ある。」


ガルディアス

「選ばれなかった声を、

 消さない限りな。」


***


夜。


倉庫街。


人々は、

荷をまとめ始めている。


アリアは、

一人一人に、

声をかけた。


謝罪ではない。

約束でもない。


ただ、

名前を聞き、

顔を覚える。


若者

「……王……

 嫌いに……

 なりそうだ……。」


アリア

「……うん。」


アリア

「……それでも……

 覚えてる。」


若者は、

何も言わなかった。


***


その夜。


アリアは、

部屋で、

一人、

座っていた。


エリオン

「……断絶を……

 選んだな。」


アリア

「……逃げなかった……

 だけ。」


アリア

「……全部……

 救えない。」


アリア

「……でも……

 全部……

 忘れない。」


窓の外。


帝都の灯が、

揺れている。


それは、

温かさではない。


選択の重さが、

街を照らしていた。

この断絶が、

さらなる対立を生みます。

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