第五章:帝国動乱編 第4話 整理案 ― 王の席を外す理由
王が不要だと主張する時、人は必ず「合理」を掲げる。
感情ではなく、理屈で。
正義ではなく、効率で。
それは、
王個人を否定する行為ではない。
“王という存在そのもの”を、静かに解体するための言葉だ。
皇城・評議院本会議場。
石の壁に囲まれた空間。
中央の円卓に、
分厚い書類が積まれていた。
第一評議員
「では、
王権整理案の概要を説明します。」
紙がめくられる音。
第一評議員
「第一に。
帝国の意思決定は、
評議院および皇帝に集約する。」
第一評議員
「王は、
象徴的存在とし、
軍令・行政への直接関与を行わない。」
ざわめき。
貴族A
「つまり……
席はあるが、
権限はない。」
文官
「正確には……
“発言権のみ”です。」
視線が、
アリアへ向く。
アリアは、
黙って聞いていた。
第一評議員
「第二に。
非常時対応は、
事前定義された手順に基づき、
自動的に実行される。」
軍高官
「……王の判断は?」
第一評議員
「不要です。」
その言葉が、
静かに落ちた。
第一評議員
「前線での“個人判断”は、
結果が良くとも、
制度として危険です。」
アリアの胸が、
わずかに痛んだ。
だが、
反論しなかった。
第一評議員
「第三に。
王の不在時でも、
帝国は機能する。」
第一評議員
「……事実、
最近の前線では、
王が帝都に不在でも、
行政は滞っていない。」
文官たちが、
一斉に頷く。
貴族B
「民も、
混乱していない。」
その言葉に、
エリオンの眉が、
わずかに動いた。
エリオン
「……混乱は、
見えにくいだけだ。」
だが、
その声は、
議事録に残らない。
第一評議員
「以上が、
整理案の骨子です。」
第一評議員
「王には、
異議申立の機会が与えられます。」
第一評議員
「ですが……
感情論ではなく、
制度としての説明を求めます。」
沈黙。
全員が、
アリアを見ていた。
アリアは、
ゆっくりと立ち上がる。
アリア
「……質問……
いいですか。」
第一評議員
「どうぞ。」
アリア
「……この整理案で……
“救われない人”は……
出ませんか。」
一瞬、
静寂。
文官
「……個別事例は、
制度の外です。」
アリア
「……その“外”に……
誰が……
立つんですか。」
第一評議員
「……それは……
制度の改善で……。」
アリア
「……間に合わなかった時は?」
沈黙が、
少し長く続いた。
第一評議員
「……例外を、
作らないことが、
秩序を守ります。」
アリアは、
ゆっくりと息を吐いた。
アリア
「……わかりました。」
その一言に、
議場がざわつく。
貴族A
「理解した……
ということか?」
アリア
「……いいえ。」
アリア
「……整理案が……
“正しい理由”は……
理解しました。」
アリア
「……でも……
“正しい結果”を……
生むかどうかは……
別です。」
第一評議員
「……具体的には?」
アリアは、
視線を上げた。
アリア
「……一つ……
条件を……
ください。」
議場が、
息を呑む。
アリア
「……この整理案……
実行前に……
“現場で”……
一度……
試させてください。」
貴族B
「試す……?」
アリア
「……王が……
席を外れた状態で……
起きることを。」
第一評議員
「……それは……
危険だ。」
アリア
「……だから……
必要です。」
アリア
「……人が……
見えなくなるかどうかを。」
長い沈黙。
皇帝ガルディアスが、
初めて口を開いた。
ガルディアス
「……面白い。」
全員が振り返る。
ガルディアス
「整理案を、
“机上”で終わらせるか。」
ガルディアス
「……現実で、
試すか。」
皇帝は、
アリアを見た。
ガルディアス
「風哭の王。」
ガルディアス
「その試験、
引き受ける覚悟はあるか。」
アリア
「……あります。」
王の席は、
まだ外されていない。
だが、
次に試されるのは――
制度ではなく、
“王がいない世界”だった。
整理案の“実地試験”。
王が意図的に一歩引いた世界で、
何が起きるのか。




